日刊鹿島アントラーズニュース

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2016年6月30日木曜日

◆鹿島の“8番”・土居聖真。役割とともに引き継がれる背番号。紡がれる常勝の伝統(フットボールチャンネル)


http://www.footballchannel.jp/2016/06/29/post161012/

鹿島アントラーズがファーストステージの頂点に立った。前人未到の3連覇を達成した2009シーズンからリーグタイトルと無縁だったが、伝統と歴史が凝縮された背番号とともに次世代の主軸を託された1992年生まれのプラチナ世代が躍動。入団6年目のMF柴崎岳、DF昌子源、そして稀有な得点感覚を武器とするFW土居聖真はセカンドステージとの完全制覇、そして年間王者獲得を目指して突っ走る。(取材・文:藤江直人)

背番号に“ストーリー”を持たせている鹿島

鹿島アントラーズの背番号8を継承した土居聖真

 背番号に“ストーリー”をもたせ、常勝軍団の歴史と伝統を引き継がせている点で、鹿島アントラーズはすべてのJクラブのなかで稀有な存在として位置づけられる。

 たとえば、空き番となって7年目を迎えている「2」番。ジョルジーニョから名良橋晃、2010年7月にシャルケへ移籍した内田篤人をへて、現在は右サイドバックの歴史を紡ぐ後継者を待っている。

 アントラーズの礎を作った神様ジーコの象徴だった「10」番は、固定背番号制が導入された1997年以降はビスマルク、本山雅志(現ギラヴァンツ北九州)、そして今シーズンから背負う柴崎岳の3人だけにしか託されていない。

 川崎フロンターレとのデッドヒートを制し、3連覇を達成した2009シーズン以来、実に7年ぶりにリーグタイトルに絡んだ今シーズンのファーストステージ。フィールドプレーヤーではただ一人、全17試合に先発フル出場した柴崎は、アントラーズの中盤で圧倒的な存在を示し続けた。

 そして、柴崎が鳴り物入りで青森山田高校から加入した2011シーズンは、世代交代を推し進めていくうえで欠かせない存在となるプラチナ世代の仲間たちも、アントラーズのユニフォームに袖を通している。

 米子北高校から加入した昌子源は昨シーズンから「3」番を託され、秋田豊から岩政大樹へと連なるディフェンスリーダーの系譜に名前を刻んだ。

 そしてもう一人、アントラーズユースから昇格した土居聖真はマジーニョやイタリアへ渡る前の小笠原満男、野沢拓也(現ベガルタ仙台)が背負った「8」番を、勝てば無条件でファーストステージ制覇が決まる6月25日のアビスパ福岡戦で光り輝かせた。

稀有な得点感覚が発動した追加点のシーン

 172cm、63kgとやや華奢なボディに搭載された土居の稀有な得点感覚が発動されたのは、1点のリードで迎えた前半37分だった。

 自陣でこぼれ球を拾った柴崎が仕掛けたカウンター。左サイドに開いたFW金崎夢生から再び柴崎へわたったボールは、ペナルティーエリアの左側、ゴールラインぎりぎりから中央へ折り返される。

 ニアサイドへ飛び込み、ダイビングヘッドを狙ったのは土居。ボールは枠をとらえることなく無人の右サイドへ流れたたが、ここで流れを途切れさせないのがアントラーズの真骨頂だ。

 ボールをキープするMF遠藤康の前方のスペースへ、金崎がすかさずスライドしてくる。縦パスを受けた直後に素早く反転して、MFダニルソンのマークを巧みに外す。

 ゴールへ迫ってくる金崎を止めようと、DF中村北斗が慌てて間合いを詰めていく。それまで中村がいたニアサイドに生じたスペースを、土居は見逃さなかった。

「ムウ君(金崎)がいい形で抜け出して、自分も一度中へ入る振りをしてから相手のマークを外した。そこをよく見ていてくれていたので」

 DFキム・ヒョヌンの背後を突いて一度気配を消し、すぐに弧を描くような動きをしながらキムの前方へ姿を現す。死角を突かれ続けたキムはまったく反応できない。

 ほぼノーマークの状態から、金崎がマイナスの角度へ折り返したパスに土居が右足を合わせる。ゴール左隅へボールが吸い込まれていった瞬間に、事実上、勝負は決した。

 逆転勝ちで初めて首位に立った前節のヴィッセル神戸戦。土居は前半アディショナルタイムに貴重な同点ゴールを決め、チームの士気を一気に盛り上げている。このときもドリブルでペナルティーエリア付近へ迫り、金崎とのワンツーからゴール前に抜け出していた。

「ムウ君と2人だけ崩せる形がここ数試合、続いている。攻撃パターンのひとつになってきているので、これをセカンドステージでもっと、もっとよくしていければと思います」

 最後の4試合で4ゴールを量産。通算でも6ゴールと、トップの金崎の8ゴールに続く結果を残した土居だったが、決して順風満帆なシーズンを送ってきたわけではなかった。

心身の状態が上向かなかったシーズン序盤

 ガンバ大阪との開幕戦はベンチ外、サガン鳥栖との第2節はリザーブのままで、ともに1-0のスコアで連勝スタートを飾ったチームに絡めなかった。

 FC東京との第3節からは3試合連続で途中出場。サンフレッチェ広島戦、湘南ベルマーレ戦で連続ゴールをマークし、上昇気流に転じるかと思われたが、第10節のアルビレックス新潟戦から4試合連続でベンチスタートに甘んじている。

 心身の状態がなかなか上向かなった理由を、誰よりも土居自身が理解していた。

「昨年けがをしてようやく治ったと思ったら、キャンプでまた違うところを痛めてしまった。サッカーができないところでストレスを感じていましたし、開幕戦もメンバーに入れなかったように、コンディションも完全ではないところから始まっていたので」

 背番号を「28」から「8」へと変えた昨シーズン。トップ下を主戦場として描かれてきた順風満帆な軌跡が急停止を強いられたのは、10月3日のヴィッセル戦だった。

 GK徳重健太と交錯した際に左足を踏まれ、後半開始早々に負傷交代を強いられた土居は、試合後の精密検査で左足第2中足骨の骨折を言い渡される。

 全治は約3ヶ月。セカンドステージの残り4試合を棒に振った土居は、アントラーズが3シーズンぶりとなるタイトルを手にしたナビスコカップ決勝の舞台にも立てなかった。

 好事魔多し、とばかりにアクシデントの連鎖に襲われる。左足の骨折が完治した矢先の2月の宮崎キャンプで、今度は右ひざのじん帯を痛めて再び戦列を離れてしまう。

 ニューイヤーカップを含めて、5試合が組まれていたプレシーズンマッチをすべて欠場。ベガルタ仙台とのファーストステージ第3節で161日ぶりに復帰を果たしたものの、ゴールに絡む仕事を演じられないまま、チームも0-1で敗れてしまった。

 イメージとほど遠いプレー。思うように動かない体。何よりもチームに貢献できない。リズムがかみ合わず、歯がゆさだけを募らせた日々が後にプラスになったと土居は振り返る。

「それでも、サッカーがやりたいと強く思えたところがよかったのかなと。けがが治ってもなかなかコンディションを上がらなかったし、思い通りのプレーができていないときは悔しかった。自分自身にいら立ちも感じましたけど、そういったときもふてくされるのではなくて、純粋にサッカーへぶつけられた。

 けがをしたのは、自分自身の問題だったので。けがで長期間離脱するのは自分のサッカー人生で初めてだったので、それがすごくいい経験になったというか。けがをするのはいいことではないですけど、僕にとっては自分を変えるできごとだった。いまとなってはそう思えます」

絶大な存在感を持つ“元8番”の主将

かつて鹿島で背番号8を背負った小笠原満男

 ホームに湘南ベルマーレを迎えた、5月18日のナビスコカップのグループリーグ第5節。土居のゴールで勝ち越したアントラーズは終了間際に喫した連続ゴールで敗れ、決勝トーナメント進出を断たれた。

 連覇がかかったタイトルのひとつを獲得する可能性が、シーズンの序盤で消滅した。嫌なムードを引きずったまま、中2日で迎えた名古屋グランパスとのファーストステージ第13節を直前に控えたミーティング。キャプテンの小笠原が低く、重い声をロッカールームに響かせた。

「俺たちは勝つためにここにきた」

 果たして、試合は2度もビハインドを背負う逆境をはね返したアントラーズが3-2で勝利。勢いと自信を取り戻したチームは残り4試合もすべてものにして、逆転で頂点に立った。

「全体としては決していい試合ではなかったと思いますけど、そのなかで気を緩めたらこういう試合になるよというのを、気づかされた試合だったのかなと」

 グランパス戦をターニングポイントとしてあげた土居は、同時に2001シーズンから5年半にわたって「8」番を背負ったレジェンド、小笠原の存在感の大きさを感じずにはいられなかったという。

「危ない時間帯や気持ちを込めなきゃいけない時間帯で必ず声がけをしてくれますし、随所で流れを変えるプレーもしてくれる。言葉で表すのはなかなか難しいですけど、(小笠原)満男さんのプレーを見ながら『こういうときにはこうしなきゃいけない』と僕らも日々学んでいます。徐々にですけど、みんなが満男さんやソガさん(GK曽ヶ端準)についていけているから、勝てる鹿島になってきているのかなと」

 グランパス戦こそ途中出場だった土居だが、8日後のヴァンフォーレ甲府戦からはスタメンに定着する。アントラーズ伝統の「4-4-2」を踏襲する石井正忠監督のもと、ツートップを組んできた金崎と常に危機感を共有してきたという。

「1点だけでなく、2点、3点と取らないと勝てないと、ムウ君とは毎試合のように言い合ってきた。そういう姿勢が、後ろの選手たちを助ける意味でもチームとして戦うところにつながってくるし、相手に隙を見せないという勝利への執着心にもつながってくる。それが最後の6連勝につながったのかなと思います」

 言葉通りにヴァンフォーレ戦以降の4試合でアントラーズがあげた10ゴールのうち、金崎と土居のコンビで6ゴールをあげている。

無意識のうちに染みついた伝統

今シーズンから鹿島で10番をつける柴崎岳。まぎれもなく鹿島の心臓となっている

 昨シーズンの開幕直前にポルティモネンセ(ポルトガル)から期限付き移籍で加入し、今シーズンからは完全移籍で再加入した金崎は「ジーコスピリットなんて知らない」と公言してはばからない。

 山形市で生まれ育った土居も然り。現役復帰を果たしたジーコがJリーグ第1号のハットトリックを達成した1993年5月16日の5日後に、ようやく1歳になった。

 ただ、現時点におけるジーコスピリットの伝承者、小笠原の頼れる背中を介して感じるものはある。ジーコスピリットをたどっていけば、土居が口にした「勝利への執着心」に行き着くからだ。

 ゴールに絡むだけではない。労を厭わない前線からの執拗な守備。味方のためにスペースを作るなどといった自己犠牲の姿勢。勝利をつかむために、ピッチのうえで土居が無意識のうちに実践しているプレーこそがアントラーズの伝統。だからこそ、常勝の歴史が紡がれていく。

「自分が出た試合では、何かしら結果を出さなきゃいけないと思っていました。スタメンで出ることが少なかったので、貢献できたかどうかはわからないけど、そうなる試合がファーストステージの終盤にかけて多くなったというか。けがで迷惑をかけた分、みんなに恩返しできたのかなというのはあるので。個人としては、けがをした分はチャラになったかなという感じですかね。

 ファーストステージのチャンピオンになったことで、セカンドステージでは他のチームが『打倒・鹿島』でくると思うし、だからこそファーストステージ以上に厳しい戦いになる。もうワンランク上に行くためには、そういうところにも打ち勝っていかなきゃいけないので。セカンドステージは僕たちの強さが試されるというか、鹿島の真価が問われるんじゃないかなと感じます」

 過去に3度築かれた黄金時代を振り返れば、「10」番はアントラーズの象徴かつ心臓を、「3」番は最終ラインで城壁を担ってきた。今シーズンのファーストステージを振り返れば、柴崎と昌子は同じ役割を果たしている。

 ならば、ゴールやアシストで得点に絡んできた「8」番の継承者はどう感じているのか。自己最多となる2014シーズンの8ゴールを大きく上回ることで、1992年生まれのプラチナ世代の一人として、土居は伝統のバトンをしっかりと受け取る青写真を描いている。

「ゴールは取れるだけ取りたいし、それが自分のためにもなりますし、チームのためにもなる。ファーストステージ以上に抜け目なく、貪欲にゴールやアシストを狙っていきたい」

 アントラーズにとって、タイトルにカウントされないステージ優勝は通過点でしかない。セカンドステージも制し、チャンピオンシップで年間王者を勝ち取るために。得点センスと泥臭ささをあわせもつ異能のストライカー・土居は、ガンバ大阪をホームに迎える2日の開幕戦へ静かに闘志をたかぶらせている。

(取材・文:藤江直人)


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