日刊鹿島アントラーズニュース

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2019年4月9日火曜日

◆湘南のロッカールーム映像がすごい。 怒鳴り合いでもカメラを止めるな!(Number)






<DVD> カメラを止めるな!


 今シーズンのリーグ戦が開幕し、少し経った頃のこと。湘南ベルマーレに鹿島アントラーズのある選手から注文の連絡が入った。

「(2018年の)イヤーDVDを買いたいのですが、まだ在庫ありますか?」

 メッセージの主は永木亮太だ。'10年から'15年まで湘南に在籍し、かつては自らもシリーズ作品に出演していた1人。'18年シーズンを振り返るドキュメンタリー『NONSTOP FOOTBALLの真実 第5章』の噂を聞きつけ、旧知のスタッフへ連絡してきたという。

「すごいらしいですね」

 どうやら、いまJリーガーの間でも話題になっているようだ。

声を荒げる選手、ギリギリの映像。

 DVDには試合のハイライト、選手のインタビューだけでなく、ありのままのロッカールームの映像が収録されている。いまの時代、舞台裏にカメラが入ること自体は特別に珍しくないかもしれない。ただ、その中身はハードワークが代名詞となっている湘南のスタイル同様、かなり激しい。

 映像の編集に関わっている遠藤さちえ広報は「ギリギリのラインまで使っている」と明かす。その許容範囲が湘南の場合、とにかく広い。

 昨季のシーズン中盤、敵地で清水エスパルスに敗れて3連敗を喫した後のロッカールームを見てもらえば、よく分かる。試合後、選手が引き揚げてきた控え室には重苦しい雰囲気が漂っていた。ピンと張り詰めた空気は画面越しにも伝わってくる。そんななか、ロッカーにどしんと腰かけたベテランのGK秋元陽太が、せきを切ったように厳しい口調で1学年上の梅崎司へ追求を始めた。

「全然やってねえのに切れんじゃねえよ! 攻撃だけやって取られて守備しねえで、それで切れてんじゃねえ」

 ロッカーでペットボトルを投げつけて怒りをにじませていた梅崎も黙ってはいない。声を荒げて言い返す。

「やってるよ!」

 守備の仕方について、激しい口論が繰り広げられる。それでも、カメラは止まらない。

チームが成長するために必要なこと。

 緊迫したなか、当時19歳の齊藤未月も物怖じせず、梅崎の反省すべき点を指摘。ミーティングは、それだけでは終わらない。今季、プロ4年目の山根視来は意を決したように先輩、菊地俊介のプレーについて、厳しい意見を述べ始めた。すると、沈黙を守っていた曹貴裁監督も口を開く。いったい、どうなるのか――。

 百聞は一見にしかず。これ以上の詳細はDVDの本編に譲るが、本音と本音のぶつかり合いはドラマを超えたドラマと言ってもいい。当事者の1人、梅崎は「『スクール☆ウォーズ』みたいな感じでした」と冗談まじりに振り返ったが、すぐに真顔になって言葉を付け足した。

「本気になって言い合う機会があるからこそチームって、成長していくんだなと思いました。試合に勝つために、どれだけエネルギーを高め合っているのかをみなさんにも知ってもらいたい。日々のものが凝縮されているのがロッカー。僕らも言い争うことはあります。甘い世界ではないので。物事って、簡単には進みません。きっと、社会でも通じる部分があると思います」

「各々が勝つ責任を負えば、あのようになる」。

 曹貴裁監督は美化されるのを嫌うが、ロッカーでの出来事は隠すようなことではないという。昨季の話はもう過去のこと。

「昨年、起こったことがそのままにDVDに収録されているだけ。記録です。あのミーティングも、各々が勝つ責任を負えば、あのようになる。何が1番大事かって、チームの成長であり、勝利。選手たちは組織のこと、チームのことを思って、発言している。本気でやるのか、仲良しで終わるのか。一人ひとりが責任を負い、一人ひとりが答えを出した」

 その翌週に連敗はストップし、そこから5戦負けなしでチームは徐々に盛り返していった。山あり谷ありのシーズンのなか、10月にはルヴァン杯優勝、最終節では見事にJ1残留を果たす。感動と歓喜があふれるなか、'18年のDVD作品は最高のエンディングを迎えた。

ロッカールームにはドラマがある。

 '14年からロッカー内が収録されるようになり、今回で5作目。毎シーズン、ハッピーエンドで終わったわけではない。'16年はJ2降格を味わっている。遠藤広報は当時をしみじみ思い返す。

「絶対に(ロッカーの映像を使うことを)やめちゃいけないと思いました。結果が悪かったシーズンの軌跡も見てもらいたい。私は個人的に'16年のDVDが好き。生きるヒントがあるなって。良いときも、悪いときもあるのが人生だと思います」

 そもそもは選手たちからの提案で、密室だった場所にカメラが入ることになったのだ。J2に降格した'13年シーズン、遠藤広報は選手たちからよく話を聞いていた。ある選手から、ロッカーには数えきれないくらいのドラマがあると言われた。

「苦しいときも、良いときも曹さんの言葉は心に響くんです。僕らはサッカーを通して、人生の勉強をしています。だから、いろんな人にも見てもらったほうがいいと思って」

音声だけでも胸を打った。

 しばらくしてクラブスタッフと相談し、曹貴裁監督に掛け合い、許可をもらった。最初はICレコーダーを設置し、ミーティングの声だけを拾っていた。音声を聞くと、選手たちの話どおり、心を打たれるものだった。

 '14年シーズンからは試合前のロッカールームに入り、監督と選手が映る場所に小さな無人カメラを置いた。監督、選手たちが到着する前に録画ボタンを押しているのだ。

 1シーズンのデータ量は膨大なものとなり、編集作業には途方もない時間がかかる。どの場面を使用して、どこをカットするのか。信頼できる制作会社と仕事をしているからこそ、成立している。

「僕らの本気度を見てほしい」

 そして、監督と選手の理解も欠かせない。ロッカーで怒声を上げていた秋元は「舞台裏がDVDになるのは湘南らしい。あらためて、あの自分を見ると、怖いですね」と口元を緩める。山根はチームのすべてを知ってもらいたいと言葉に力を込めていた。

「僕らの本気度を見てほしい。プロだけど、青春している気持ちでやっているので」

 感動のストーリーを作り出すつもりは毛頭ない。曹貴裁監督は現実の姿を見せていることを強調する。

「人はうれしいこと、悲しいこと、喜び、怒りなどを繰り返して、前を向いていく。それこそが真実。そこに本当の気持ちはあったのか。人は真実でしか動かない。そういう部分は見せることができたと思う」

 湘南のありのままを映し出すカメラは、今シーズンも止まらない。


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