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今季、鹿島アントラーズに加入した3人の高卒新人アタッカーのうち、故障で出遅れた染野唯月はただ1人公式戦デビューを果たしていない。だが、尚志高時代から将来を嘱望されたストライカーは、この中断期間中にすでにチームに合流し、練習試合や日々のトレーニングでその豊かな才能の片鱗(へんりん)を見せている。3歳上で入団2年目の上田綺世と並ぶ前線は、“鹿島の未来”と言ってもいい。
鹿島の先輩FW大迫を彷彿とさせる一撃
特別な才能を持っている選手をピッチの上で見ることは、いつの時代も楽しいものだ。それは、アントニオ・カルロス・ザーゴを新指揮官として招へいし、ゲームモデルを導入した鹿島アントラーズであっても変わらない。数々の約束事があったとしてもサッカーはサッカーであり、人々を感嘆させるのは驚くべきプレーが出現したときである。腰椎分離症も癒えチームに合流したばかりの染野唯月が、プロ入り初の練習試合でさっそく非凡な才能を示した。
3月21日、カシマスタジアムで行われた北海道コンサドーレ札幌との練習試合(45分×2+35分×2)の3本目から途中出場した染野は、上田綺世と2トップを組んだ。非凡さを見せたのはピッチに立ってから12分後。ボールを奪い、ボランチの名古新太郎が前を向いた瞬間、染野の舞台が幕を開ける。
左にふくらみながら自身のスピードを殺すことなくパスを呼び込む。あまりに自然なコントロールに札幌のDFも飛び込むことができない。前を向いて仕掛けていくとフェイントを入れながらカットイン。相手のボディーバランスを崩すと、身体を開いてファーサイドを狙って巻くようなシュートを打つ素振りを見せつつ、逆に引っかけるように右足を振り抜き、地をはうシュートでニアサイドを打ち抜いた。
「高校のときから自分の武器として1対1は大事にしてきました。あのパターンでゴールを決めることができて自信がつきました」
圧巻のゴールは、鹿島の先輩FWである大迫勇也を彷彿(ほうふつ)とさせる一撃だった。
しかし、染野の魅力は1対1にとどまらない。出場した直後には、ゴール正面でパスを受けるとダイレクトでちょんとボールを浮かせてディフェンスラインの裏に上田を走らせた。その意表を突くプレーは本山雅志や野沢拓也のような柔らかさがあった。
クラブの期待は同期2人に勝るとも劣らず
今季、鹿島には高校サッカー界を沸かせた3人のアタッカーが同時に加入した。
東福岡高から荒木遼太郎、静岡学園高から松村優太が加わり、2人はすでに公式戦デビューを果たしている。荒木はYBCルヴァンカップ・グループステージ初戦の名古屋グランパス戦、J1第1節のサンフレッチェ広島戦でいずれも途中出場し、鮮烈なイメージを残している。また、札幌との練習試合でもザーゴ監督は1本目の先発に起用しており、すでに主力選手の一人として計算していることがうかがわれる。
松村も当初はプロの技術レベルの高さとスピードに圧倒されていたが、持ち前の負けん気の強さを発揮して急速に適応。途中出場した名古屋戦では一発退場となったが、ザーゴ監督は「彼ら(荒木と松村)が入って流れが変わった」と高く評価した。
2人に遅れること1カ月。ようやく試合に絡めた染野は、すぐさま結果を残した。強化責任者である鈴木満フットボールダイレクターが「染野もすごくいい。楽しみにしてて」と復帰を心待ちにしていたように、クラブがかける期待は先の2人に勝るとも劣らない。
上田を“剛”とすれば染野は“柔”
とはいえ、35分×2本で行われた練習試合のなかで、常に染野が光り輝いていたかと言えばそうではない。消えている時間帯も多く、高い位置からのプレッシングを求めるザーゴ監督のやり方を実践できない場面も多かった。
「攻撃のところではいい部分を出せているんですけど、守備はチームのコンセプト(どおりのプレー)ができないところがあった。少しずつ改善できれば」
本人もそう言って、求められているものをまだ十分に表現できていないことを実感していた。
ただ、練習を見ていても染野の技術の高さは鹿島のなかでも際立っている。左右両足を遜色なく使うことができ、利き足ではない左でボレーをミートさせる姿はお手本のように美しい。力強いプレーを信条とする上田を“剛”とすれば、プロになってから初めての試合でもピッチの上に脱力して立つことができる染野はまさに“柔”。全く異質の2人が前線に立つ光景に、鹿島の未来が見える。
◆早くも才能の片鱗を見せている染野唯月 上田綺世と並ぶ前線は“鹿島の未来”だ(Sportiva)