間違いなく、今の鹿島アントラーズを牽引している。土居聖真は、プレーで、姿勢で、まさに"鹿島"を体現している。
シーズン途中の監督交代に踏み切り、コーチだった相馬直樹が指揮官に就任してから、鹿島はリーグ戦5勝1分の6戦無敗。J1第15節でサガン鳥栖、第17節で川崎フロンターレに敗れたものの、明らかな復調を見せている。
そのチームにおいて、第12節の横浜FC戦で今季初ゴールをマークすると、5−3の撃ち合いを制した第14節の横浜F・マリノス戦ではハットトリックを達成。センターフォワード、トップ下、はたまたサイドと、幅広いポジションを担っているのが、ジュニアユースからの生え抜きでプロ11年目の背番号8だ。
「相馬監督になって、チームの目的意識がよりはっきりしました。それまではボールを握ることに注力しすぎたところもありましたが、相馬監督になり、攻守の切り替えについては強く言われています。とくにF・マリノス戦は、そこを活かせた試合でした。
もちろん、簡単にボールを奪われてはいけないし、それは相馬監督も言っていること。そうした前提はありつつも、試合ではやっぱり、ボールを取られることもある。その時、チームとしてどうするのか。ボールを取られた選手はもちろん、周りの選手たちもカバーする意識が高まったことで、チームは機能するようになったと思っています」
プレーと姿勢で鹿島を体現する土居の"思考"に耳を傾けてみたいと考えたのは、次のような言葉を期待していたからかもしれない。
「これはあくまで個人的な意見になりますが、それまではボールを保持しようとしすぎるあまり、ボールを取られた人に対して責任転嫁するところがあったというか。チームとして人任せにしている部分があったと、僕は思っています。
それが今は、ボールは取られるものとすら考えて、みんなが次のプレーを準備している。相馬監督もチャレンジ&カバーという言葉を使いますが、カバーしてくれる選手がいるからこそ、チャレンジができる。
これまでも、みんながみんな、チームの勝利のためにという思いでプレーしていたけど、その思いの矢印がひとつの方向ではなかった。でも今は、勝利を積み重ねているように、チームとして同じ方向にその矢印が向いていると思いますし、その矢印が太くなっているとも感じられています。
これも相馬監督がよく言うことのひとつですけど、僕らはチャレンジャー。その言葉がピッタリと当てはまるような戦いを、どの試合でも見せられている」
そう言って思い起こしてくれたのが、3−0で快勝したJ1第13節のFC東京戦や、被シュートをゼロに抑えて2−0で勝利した第21節の名古屋グランパス戦だった。
「連戦でメンバーが変わっても質を落とさずに結果を残せたことで、チーム全体の底上げを感じることができました。とくにその2試合は無失点で終えられたように、鹿島っぽいと言われるチームのよさを出すこともできました。昨季、今季と、新たなことにチャレンジしようとしたところもありましたけど、一方で原点に立ち返れるところも、うちの強みだと思っています」
チームに対して厳しい言葉を投げかけられるのも、自覚の表われだろう。
攻撃もさることながら、土居がチームを牽引していると表現したのは、相馬監督も重視するファーストディフェンス、すなわち前線からの守備にある。まさにチャレンジ&カバー。チャレンジを示す攻撃も担う彼は、目に見えない守備でもチームをカバーしている。
「ここ数年、守備の楽しさもわかるようになってきました。最終ラインのワン(犬飼智也)も、僕のプレスのかけ方は後ろとしてもやりやすいと言ってくれている。ロングボールやクリアボールとは違って、意図したパスは守る相手も神経をすり減らすように、ボールを追うにしても、無駄に追いかけるのではなく、意図したプレスというものを考えながらやっています。
自分のところで奪えずとも、後ろがそれに連動してボールを回収することができれば、結果的にいい攻撃につながる。自分のところで奪い切れずとも、プレッシャーを与え続ける。そうしたジャブが、F・マリノス戦で(上田)綺世が決めたようなゴールにもつながっていく」
例に挙げたのは、横浜FM戦の77分に相手GKがロングボールの処理を誤り、上田が決めたシーンだ。直接的に土居は関与していないが、上田のプレッシャーをかける素振りが相手のミスにつながったのも、土居が言うジャブを打ち続けた結果だ。
一見、地味に思える守備に労力を割いているのは、チームのためにという思いが強いからにほかならない。
一方で、この時期はFWとしてプレーし、ゴール、アシストと数字も残している。守備だけでなく、攻撃についても聞きたいと思い尋ねると、「あんまり言いたくないんですけど」と、いたずらっぽく笑いながら教えてくれた。
「FWでプレーしている時は、最近、興梠慎三さんを意識しています」
かつて鹿島でもプレーし、J1通算得点記録3位の158ゴールを叩き出す浦和レッズのストライカーを挙げた。
「もともと、サイドでプレーしている時も身体の使い方やボールキープの仕方は参考にさせてもらっていたんですけど、自分とそれほど身長も変わらないのに、慎三さんは身体も強いし、身体の使い方もうまい。得点パターンも多いので、LINEでいろいろと聞いているんです」
こちらが前のめりになると、その交流を明かしてくれた。
「それもあって、ハットトリックをした時には『センターフォワードに目覚めちゃったか』と言われました。自分は慎三さんになれるわけではないですけど、参考にできるところはたくさんある。だから最近は、試合前にも慎三さんのプレー動画を見たりしています。
自分が得点という数字を稼ぐには、FWでプレーしている時が一番。トップ下やサイドになればまた役割も変わるので、FWでプレーした時には点取り屋っぽいことに専念したいなと。FWは周りを活かすプレーよりも、まずは点を取ってこそ、ですからね」
ゴール、アシストで結果を残している背景には、そうした秘密があった。
チーム屈指のテクニシャンでもあるだけに、メンバーが揃い、状況が変われば、FW以外で起用されることもある。「だから」と土居は言う。
「どこのポジションで試合に出ても、今は自分の色を出して勝負したいという思いが強いんです。ただ、与えられたポジションをこなすのではなく、どこのポジションであっても、ほかの選手とは違う自分の色を出す。
サイドであればサイド、トップ下であればトップ下、FWならばFWと、自分が考える仕事というものがある。ほかの人とは違う、自分の色をそこで出したい。また、それを極めたいという思いも強いんですよね」
鹿島でプロになって11年目、ジュニアユースから数えれば、17年目になる。土居が言うその色とは、きっとクラブカラーである"深紅"なのだろう。なぜなら、インタビュー中にそれを強く思わせてくれるエピソードを聞かせてくれた。
「相馬監督はファーストディフェンスを意識させるなかで、常に引かずに『前から』という方向性を示してくれました。個人的には、試合の展開や状況に応じてラインを低く設定することも必要なのではないかと思ったので、全体ミーティングの時に質問したんです。そうしたら、相馬監督は『それでもラインは変えない。勝っていようが負けていようが、前から行く』と言い切ってくれた。
個人的に気になっていた、ということもありますけど、みんなの前でそれを聞くことで、試合に出ている選手はもちろん、試合に出ていない選手たちにもチームとしての方向性は伝わったはず。質問したのは自分ですけど、それによってチームとしての矢印が定まったというか、考えも共有できたと思います」
このエピソードを持ち出したのは、ライン設定うんぬんについてではない。彼がチームの方向性を定めるために、あえて全体ミーティングで言及したという姿勢にある。
「そうやってチームのことを考えて発言するようになったのは、3年くらい前からかもしれません。以前は、自分がそんなことを言っている立場ではなく、ガムシャラにプレーするしかないと思っていました。今も口を動かす前に身体を動かすという姿勢に変わりはないですけど、身体も動かして、口も動かさなければと思うようになりました。
近しいグループだけで話をして完結させるよりも、チーム全体で共有できていたほうがいい。サッカーは1人や2人でやるものではなく、ピッチにいる11人、もっと言えばチームに所属する全員でやるもの。その時、試合に出る人、出ていない人というのも関係なく、チーム全体で共通意識が持てれば持てるほど、チームは一体感が出ますからね」
その身体には、間違いなく鹿島の血が流れている。
目に見える華やかなプレーだけでなく、泥臭いプレーで汗をかき、姿勢でチームを引っ張る。それこそが、鹿島が、鹿島として築いてきた原点である。
そして......「3年前」と土居が語るように、そこには意識が変わる契機があった。
(後編につづく)
【profile】
土居聖真(どい・しょうま)
1992年5月21日生まれ、山形県山形市出身。2011年、鹿島アントラーズユースからトップチームに昇格。柴崎岳や昌子源などが同期。2014年にトップ下のポジションに定着し、2015年から伝統の背番号8を背負う。2017年には日本代表に初選出され、12月の中国戦で代表デビューを果たす。ポジション=MF、FW。身長172cm、体重63kg。
◆土居聖真には「鹿島の血」が流れている。意識している先輩FWとの交流(Sportiva)