日刊鹿島アントラーズニュース

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2022年11月4日金曜日

◆「分かります? 着てもないものに熱くなれない」鈴木優磨(26歳)が日本代表より愛する鹿島で果たしたい“義務”と“ハセさん超え”(Number)






引き続き、鹿島アントラーズFW鈴木優磨(26歳)のインタビューをご覧ください。後編ではベルギーでの生活、さらに破談となった移籍秘話まで赤裸々に明かしている。そして日本代表への想いも……。全2回の2回目(#1から読む


 今から約2年前、鈴木優磨は絶望の淵にいた。これまでのすべてを否定しないと生き残れなかった。2019年から約2年半をベルギー・シントトロイデンでプレーしたときのことだ。

「やっぱりデカい選手が多くてなかなか体を当てながらキープできないなか、相手がさわれないようなキープの仕方というのはものすごく学んだし、実際に成長できたと思う。工夫しないとやれなかった。日本と同じスタイルではやっていけない。少しずつ変化を与えていって、それがうまくいったと思っている」

 練習から怒鳴られまくった。そんな経験は初めてのことだった。

「お前よりデカくて強い選手はいっぱいいる。今のままでは厳しい」

 ピーター・マース監督からハッキリと言われた。パス1本、キック1つから、なぜそうしたのかを詰められた。それも監督就任初日の練習から。

「初日にいきなり、足の裏を使ってボールを取られたら、ピーって止められて。『おまえはメッシか!』って、みんなの前で怒鳴られた。あとはアウトサイドで出すパスもめちゃくちゃに怒られた。『インサイドでちゃんと正確に出せ!』って。とにかく選手をリラックスさせない。常にプレッシャーを与える監督だった」





「日本に帰りたくもなった。でもね……」


 メンタル面で追い込まれたのは、そのときがピークだったと振り返る。

「その監督になったときはヤバかった、本当に。練習中から終わった後も、毎日ボロカスに言われて怒鳴られまくった。ミスに対してすごく厳しい監督で、毎日ふざけんなと思っていたし、本当にやめたくなったし、日本に帰りたくもなった。でもね……」

 ふと笑顔になって振り返る。今だからこその言葉が続く。

「ピーター・マース監督になってから、たしかに自分のプレーがどんどん良くなっていった。最終的にはその監督のもとで20試合に出場して12、13点取った。シーズンが終わる頃には、『彼のおかげ』と言えるようになっていた。あのやり方は俺に合っていたんだと思う」

 力を引き出してくれる指揮官と出会い、ベルギーリーグで2020-2021シーズンは17ゴールという結果を残した。

「この成功体験は大きかった。だからこそステップアップしたかった。もうたぶん2度とこのクラブでは17点も取れないし、正直、“いろいろなことが重なった奇跡”だとも感じていた。だからこそ俺のなかでは、このタイミングで移籍できなかったら本当に終わりだと思っていた」

 目指すは欧州CL出場を踏まえて「欧州5大リーグ、特にイタリア・セリエA」に行きたかった。「いいFWがいて、フィジカルではなく頭を使って点を取れる選手、あとはペナルティエリア内で結果を残せる選手が多い。そこに学びがあると思った」のが理由だ。

 鈴木の移籍について、さまざまな話が報道された。欧州5大リーグへ移籍できるのか。はたまたその他のリーグなのか。日々そのニュースは更新された。

「いろんな話があった。ニュースを見れば、これは本当だけど、これは嘘だなとか。移籍市場が閉まる1週間前はずっとそう。合意して現地に行くとなったけれど、ベルギーから飛行機に乗る1時間前に破談とか。何度空港に行って、何度空港から帰ったか(笑)。いろいろあったなあ……、今となってはいい思い出だよ」


「自分と会話して曲げずに貫いた」


 受けたオファーのうち、断ったものもある。それは移籍先を、自分が進みたい、そしてモチベーションを持てるクラブに絞ったから。欧州CL出場が可能な5大リーグのクラブを移籍先として選択すること。それだけは自ら曲げないと決めた。家族とも話したが、最後は「自分と会話して曲げずに貫いた。いろいろと曲がりそうになったこともあったけれど、最終的には自分を曲げないで行って、移籍できなかった。だから、まったく後悔はない」という。

 曲げない理由もきちんとあった。

「自分が小さい頃から見てきたところに行くことにしかモチベーションがなかった。例えば、自分が望んでいないところに行って、やれるモチベーションがあるのかと言ったら、俺にはなかったんだ。だから、そのときからもう5大リーグか自分の行きたいクラブか。そこがダメだったらもう、海外でプレーする選択はなかった」





 思い描く先が違ったとしても、絶望ではない。諦めでも自暴自棄でもなく、あくまで描く理想と距離を取るように決めた。

「これで自分が望むところに行けなかったら、俺はもうついてなかったということ。もうヨーロッパに縁がなかったって、本当の意味でそう思えたね」

 未練なし。気持ち晴れやかに鹿島への復帰を決めた。ベルギーでのプレーと成功体験を経て、鈴木自身のゴールへの考えに変化があった。

「基本的に偶然はないと思っているんです。サッカーに関しては、常になぜそうなったのかを考えるようにするかな」

 いつも、どうすればチームがより良くなるかを考える。そのために自分がどう動いて、どうすべきか。チームが勝つために何をすべきかを追求する日々だ。

「本当の理想を言うと、マラドーナみたいに1人が5人抜きで決めるのが一番。だって、もっとも手っ取り早くゴールに直結するから。だけど、やっぱり今のうちのチームにそういった特長の選手がいるかと言われれば違う。そうであれば、なるべく早く前で起点を作って、どんどん追い越して行って、イメージを共有して、最終的に早い段階で仕留めるっていうのが、今のうちに合ったスタイルなのかな、と。その形ができれば、いいサッカーができるんじゃないかなと思います」

 突出した個がなければ、味方との連係によって崩していく。そんな絵を描いている。ただ、チームが目指す理想のサッカーを表現することと、勝つことは別物とも考えている。

「やっぱり勝つことを知っている選手とプレーするのがいかに楽だったかというのはすごく痛感している。それが、どれだけアドバンテージになるか。この差は大きい」

 それはどういったところから感じるのだろうか。これまでは若手で先輩の背中を追いかける立場だったものが、今やチームの中心としてプレーすることで変化したことも影響する。





「ピッチ上でのプレーの選択にめちゃくちゃ出ると個人的には感じていて。時代も流れもいろいろと変わってきているけれど、それでも思っていた以上にチームにとって経験は大事なんだとすごく思うね。今年は特に」


勝ち切れない試合が続いた今シーズン


 今シーズン、引き分けの数は12。勝ち切れずに終わる試合が続いた。試合のスコアや流れはもちろん、ピッチ上にいる味方や相手、それぞれの“今”を捉えて、どのプレーを選択するのか。サッカーとは流れるスポーツであり、その細部をどれだけ感じられるかどうかが、勝敗を分けるポイントになるという。

「たとえば、残り5分でどんなプレーを選択するか。そこは戦術とはまた違ったところですよね。ここは危険だとか、何か今を感じ取れるかどうかというのは、多分優勝を経験しているかどうかで大きく違う。優勝を経験するということは、いろいろな試合を勝ち抜いていることでもある。だからこそ、タイトルによって得られるものが大きいと個人的には感じています」

 日本でタイトルを経験し、さらにベルギーで個の能力において考え抜いた。そのおかげでプレーの幅が大きく広がった。当然、日本代表入りを期待する声も高まった。アントラーズの先達の言葉を借りれば、「クラブと代表両方のハードなスケジュールにも関係なく、ピッチに出れば結果を出し続けなければいけない」と小笠原満男が語り、「現役選手として、日の丸を背負うのは特別なこと」と内田篤人は言う。

 2018年11月、初めて日本代表に選出された。森保一監督は「アジアのチャンピオンを目指す力のあるチームで、得点という結果も出している。前線の選手として存在感を発揮している」と評価し、選考理由とした。しかし、ケガにより辞退。その後の選出は今のところない。

――生粋のサッカー少年が目指すのは、やはり日本代表?




「いや、これまではワールドカップとか欧州CLが大好きでそっちばかり見ていた。だから、もともとそんなに……。でも、6月のブラジル戦は(上田)綺世が選ばれていたから、6年ぶりにテレビで見た。小さい頃はよく見ていたんだけどね。特にジーコジャパンはよく見ていた。当時のビッグスターを全員呼んで、いいメンバーを集めればいいサッカーができるという、あのメンバー選考は好きだったなあ。だから結局、ジーコさんよ(笑)」

――メンバー入りを目指す?(11/1発表前の質問)

「いや、もうJリーグにいたら厳しい。でも、俺はそれをわかって帰って来ているから。だから、もうそこにはあまりモチベーションはない。そもそも俺はエリートじゃないんですよ。だから、年代別代表に入って青いユニフォームを着たことがない。でも、アントラーズのユニフォームはずっと袖を通してきた。だから、そんなに熱くなれないというか……。分かります? 着てもない、背負ってもないものに熱くなれない。それって自分のなかではモチベーションとしてすごく大事なことで。これまでに何度か着たことがあればまた違ったのかもしれないけれど、現時点で着たことがないんですよ(笑)。アントラーズのクラブとしての凄さを見てサッカーをしてきたタイプだから」

――まだ26歳。まだまだこれからでしょう。

「日本代表に興味がないわけではない。でも、それより目指したいのは、アントラーズのために力を還元したいし、タイトルを獲るためにプレーしたいという思いが強い。このチームで活躍して、ファンサポーターの胸に刻まれる。そんな選手になりたいし、それくらい鹿島っ子だから。それくらい大好きなクラブに帰ってきたし、それがこのクラブにいる義務であると思っている。そこに全力を注ぎたい。あと個人的なことを言わせてもらえば……」

――個人的? そんなことを自分から言うのはめずらしい。

「欲とかではないけど、やっぱりハセさん(長谷川祥之)の記録を超えること。親父にはよく話していたけど、アントラーズのクラブ記録であるリーグ戦89ゴールを塗り替えたい」





 現在、鈴木はリーグ通算34ゴールを記録している。残り55ゴール、そしてアントラーズにさらなるタイトルをもたらすこと。もうすでに、見据える先は定まっている。





◆「分かります? 着てもないものに熱くなれない」鈴木優磨(26歳)が日本代表より愛する鹿島で果たしたい“義務”と“ハセさん超え”(Number)





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