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8月9日(土) 2014 J1リーグ戦 第19節
名古屋 2 - 3 鹿島 (19:04/豊田ス/16,369人)
得点者:25' 永井謙佑(名古屋)、42' 山本脩斗(鹿島)、47' ケネディ(名古屋)、82' ダヴィ(鹿島)、90' 遠藤康(鹿島)
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若さを利して勝った鹿島と、若さからくる未熟さに泣いた名古屋。ともに今季は世代交代を進めているチームだけに、そのコントラストは余計に際立った。
名古屋のスターティングメンバーには、久々に背番号16が名を連ねていた。実に4月の第8節以来のリーグ戦出場となるジョシュア・ケネディである。ワールドカップのオーストラリア代表に帯同し現地まで行ったが最終メンバーには落選。運の悪いことにそこで持病の腰痛を再発させ、Jリーグ再開後も別メニュー調整が続いていたのだが、ここ2週間ほどの間に状態が上向き、全体練習に復帰。練習試合にも出場するなど戦線復帰への準備を進めているところだった。練習試合などの様子を見るにまだまだ戦うコンディションが整っていないように見えたが、チームの苦境もあって西野朗監督が強行出場を決断。実戦感覚の不足なども不安視されながらもキックオフからピッチに立った。名古屋は懸案だった右サイドバックに矢野貴章が戻り、DFライン中央に田中マルクス闘莉王も復帰。額面上ではベストに近いメンバーを揃えていた。対する鹿島は前節と同じ11人を並べる自信の布陣に、控えに遠藤康が戻ってくるなどプラスアルファを持って豊田スタジアムに乗り込んできていた。
立ち上がりからペースを握ったのは名古屋だった。指揮官が「想像以上にパフォーマンスが高かった」と振り返ったように、ケネディが前線の橋頭保として機能。ポストプレーとハイボールの競り合いで体を張る役割を担ったことで、ツートップを組んだ永井謙佑の能力を引き出す効果も見られた。今まで前線で身体を張りつつ裏へも抜け出し、空中戦でも激しくバトルするなど多忙を極めていたが、役割分担ができたことで「(裏への)動き出しが徹底できました」と、伸び伸びプレー。前線のフォアチェックもより鋭さを増し、鹿島に良いビルドアップをさせないなど守備でも大いに躍動した。
単調な攻めを繰り返す鹿島をいなしながら、名古屋が先制点を挙げるのは25分のことだ。最終ラインの牟田雄祐からグラウンダーのパスが高い位置を取った右の矢野の下へ。マークがタイトに来ないと見るや、矢野はダイレクトで低いクロスをDFとGKの間へ流し込んだ。二人のセンターバックの間から、地を這うようなダイビングヘッドで飛び込んだのは永井。滑り込むようにボールを叩くと、シュートは一直線にゴールに突き刺さった。
だが、鹿島も負けてはいない。ロングボールが主体になっていた展開を見直し、本来のショートパス主体のサッカーを意識し直すと、徐々に支配力を取り戻していった。起点となったのは右サイド、名古屋から見た左サイドである。前線で自由に動き回る名古屋のサイドハーフは守備の際にポジションが遠くなりがちで、そこを鹿島の西大伍や中村充孝、土井聖真に狙われた。鹿島は42分に同点に追いつくのだが、これも右サイドを突破した中村充のパスを受けた土居の折り返しを、逆サイドから走り込んだ山本脩斗に頭で押し込まれたもの。ここでリードしたまま試合を折り返せなかったことは、名古屋にとっては後々響いてくることになる。
同点で迎えた後半は、いきなり試合が動いた。名古屋のキックオフでスタートしたボールは闘莉王からすぐさま前線のケネディへ。これは鹿島が競り勝ったが、こぼれ球を拾った田口泰士が左へ展開すると、レアンドロ ドミンゲスがペナルティエリアに持ち込んだところで小笠原満男がたまらずファウルで止めてしまい、審判の手はペナルティスポットを指さした。PKを蹴るのはケネディ。いつも通りのゆったりとした助走から放たれたシュートは何とGK曽ヶ端準の真上に突き刺さった。しばらく実戦から離れていたとは思えないほど肝の座ったPKで、名古屋が再びリードを奪う。
ここから試合はターニングポイントを迎える。前述したようにケネディはいまだ強行出場の状態であり、西野監督も「引っ張れるだけ引っ張りたかった」ほどに機能したが、それも70分が限度だった。ケネディ本人から「×」のサインがベンチに送られ、やむなく指揮官は交代を決断。すでに矢田旭に代えてFWの松田力は投入しており、控えFWにはまだ玉田圭司の名前もあったが、「リトリートしてディフェンスに追われる状況も見えた」ために中村直志のカードを選択した。この交代カード自体は良かったのだが、問題はピッチ上から前線のターゲットが消えてしまったことだ。永井がこれまで同様にポストプレーなどもこなさねばならなくなった上、運動量が落ちたレアンドロのカバーに守備でも奔走。一気に前線二人分の機能が失われた状態に陥った名古屋は、鹿島に主導権を譲ることになってしまった。
そして運命の8分間がやってくる。まずは82分、それまではほぼノーミスの好パフォーマンスを見せていた牟田が、クリアボールの処理を誤りダヴィの同点ゴールを許してしまう。「ダヴィが速いことも、見えてもいたんですが…」と本人は責任を一身に背負ったが、「オールアクションで行け!相手に呼吸を整える時間を与えるな」というトニーニョ セレーゾ監督のハーフタイムの指示を忠実に守ったダヴィの勝利とも言えた。追いつかれた名古屋はそれでも持ち直して反撃に出たが、セットプレーのチャンスは得られても流れの中で良い形を作ることはできず。迎えた90分、マークが緩んだのを見逃さなかった西がカットインから土居にパスを送ると、土居はヒールで裏のスペースへ流し込む。走り込んだのは64分から途中出場していた遠藤康だ。ワントラップし、「中も見たんですけど、シュートを打った方が良いかな」と冷静に状況を見極め、ゴール左スミへ豪快に突き刺した。
名古屋にとっては悪夢のような敗戦。しかし鹿島にとってみれば狙い通りの逆転劇だった。セレーゾ監督は「ルイス(アルベルト)は中盤の活動量が低下し始めたところで、息を吹き返してほしいという意味で交代をしたし、カイオに代えて豊川を入れたのは、若い選手と若い選手の交代というのはまず一生懸命走ってくれ、頑張るというところからスタートするんだということを毎回選手たちに話している。一生懸命やれば何かが変わる。フォアチェックをすることで何らかのアクシデントや違う状況を作り出せる」と采配の意図を明確に説明する。現在の鹿島はDFラインも攻撃陣も若手が中心を担う。この日も22歳の土居が2アシスト、24歳の中村充が1アシスト、25歳の遠藤が決勝ゴールとチームの勝利に十分な貢献を見せた。22歳の矢田や松田がインパクトを残せず、24歳の牟田が痛恨のミスを犯した名古屋と比べても、若手の戦力値に隔たりがあることは認めなければいけない。彼らに頼る部分が大きいのが今季の陣容だということを踏まえれば、なおさらに若手の奮起が必要だ。
名古屋はこの敗北を受け、順位が16位に後退。ついに降格圏内に足を踏み入れた。これまで同様に上との勝点差はそこまで大きくないが、この状況を軽視するわけにはいかない。キャプテンの闘莉王は努めて冷静に、しかし語気を強めて言った。「ここからが本当の勝負になる。一つでも多く勝って勝点を集めていくしかない。こういう状況で、誰が“男”なのかがわかる」。残り15節。まだ15試合もあると思っていれば、この泥沼から這い出すことはできない。
以上
2014.08.10 Reported by 今井雄一朗