日刊鹿島アントラーズニュース
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2017年11月25日土曜日
◆“鹿島る”の正体とは何か? 鹿島がJリーグで勝ち続ける必然(Footballista)
西部謙司の戦術リストランテ Jリーグ編
第3回「鹿島アントラーズ」
海外サッカー月刊誌footballistaの名物連載『戦術リストランテ』のJリーグ版がWEBで開店! 第3回は、9度目のJリーグ制覇を目前にした鹿島アントラーズの強さの秘密に迫る。「戦術上の正解」と「試合の流れの中での正解」は違う。日本サッカーに足りないものを鹿島は持っている。
構成 浅野賀一
■鹿島のベースはブラジルサッカー
―― 鹿島はJリーグ開幕時から[4-2-2-2]のブラジルスタイルでした。まずはこのシステムの話からお願いします。
最初はトップ下にジーコがいたので中盤ダイアモンド型の[4-4-2]でしたけどね。3バックの時もありましたが、今の[4-2-2-2]に定着しました。DFは4人、ボランチ2人、攻撃的MF2人、2トップの構成です。典型的なブラジル式の[4-2-2-2]ですね。攻撃的MFのサイドハーフは押し込むにつれて中央へ絞り込み、SBが前に出て幅を取ります。2トップの1人はセカンドトップ型で、人選によっては[4-2-3-1]になりますが、攻守の機能性に大きな差はありません。
[4-2-2-2]は完全に左右対称のフォーメーションです。CB、SB、ボランチ、攻撃的MF、2トップがそれぞれ対になっているので、その中でバランスを取っていけばチーム全体のバランスも取りやすいという特徴があります。ジーコが「つるべの動き」を強調したのはそのためでしょう。ジーコが現役最後にプレーしたクラブで、その後テクニカルディレクターとして草創期を支え、監督や助っ人選手もブラジル人ばかり。一言でいうと、ブラジルのサッカーですね。「10番はこう」「左SBはこう」と、それぞれのポジションのイメージができているので迷いがないですし、もう何も考えなくても自動的にやれてしまう感じです。
―― ブラジルサッカーでも質実剛健なスタイルですよね。インテルナシオナウみたいな。
ブラジルサッカーといえば華やかなイメージを持つ人が多いですが、あれはセレソンの印象です。あんなにいっぱいクラブチームがあるんだから、弱いところは当然カウンターを狙いますし、地域やクラブによって違いがあります。鹿島はブラジルサッカーの中でも標準型というか、オーソドックスなチームです。ブラジル人ならすぐ馴染めると思います。
―― 今季のチームはどう分析しますか?
ハイレベルのGK2人、CBは昌子と植田の日本代表コンビ、SBは右に西、左は山本がレギュラーでしょうか。西は1つ前のポジションやボランチもできるので、非常に現代的なSBですね。ボランチは何と言ってもレオ・シルバ。守備力抜群、さばくのも安定しています。もう1人は代表にも選出された永木、重鎮の小笠原、そして終盤にレギュラーになった三竿がいます。攻撃的MFはさらに多彩で、レアンドロ、土居、中村、遠藤、安部がいます。2トップは金崎がエースですが、ペドロ・ジュニオール、金森、鈴木、MFの土居、レアンドロ、安部がFWでプレーすることもできます。
どのポジションもとにかく層が厚い。DAZNマネーで賞金が跳ね上がった今季のリーグを獲ることがいかに重要かをフロントが理解しているのでしょう。プレミアリーグでも最初の2年で優勝したマンチェスター・ユナイテッドがその後の覇権を握り続けました。プレミア以前にユナイテッドが優勝したのはジョージ・ベストの時代ですよ。高額の賞金が獲れる時に優勝することが、その後のアドバンテージになります。
どのポジションも層が厚くなったことで、序盤はメンバーを固定しにくいですし、チーム内競争が悪い方へ出る懸念もありました。実際、途中は失速しかけて石井監督を更迭しています。この決断の早さも鹿島ならではでしょう。昨季の優勝監督をあの段階でクビにできるチームはそうないと思います。それだけ今季のリーグへ懸ける意気込みが強いことがうかがえます。後任の大岩監督はチームをうまくまとめて軌道に乗せ、目論み通り優勝目前です。
■“鹿島る”の正体
―― 終盤の時間稼ぎなどを指した“鹿島る”という言葉もあるように、とにかく鹿島は試合巧者というイメージが強い。その源泉はどこにあると思いますか?
ある意味、個に依存しているのが鹿島の強みです。戦術はシンプルで、ずっと変わっていない。戦術的な特殊性や意外性には依存していません。選手個々もやることは明確です。その分、個人に自由度があると思います。チームに縛られずに個々が独立した判断ができるんですね。
終了間際にコーナーフラッグ付近で時間稼ぎするのは誰でもできますが、それだけでなく、時間帯、点差、試合の流れに応じてやるべきプレーの判断ができている。このあたりの状況に応じた判断が優れている。個々がどうすればいいかわかっているのが強みであり、他チームとの差として表れています。監督の指示なしでピッチ上の選手の判断でやれているはずです。だから監督が代わってもそんなに影響のないチームだと思います。
―― 日本人選手は局面に応じた判断を苦手にしているじゃないですか。なぜ、鹿島の選手はそれができるのでしょう?
一つは、ブラジルサッカーの影響でしょうね。ブラジル人はとにかく相手を見てサッカーをします。「相手がこうしてきたから、こうする」というプレーの仕方なんですね。ストリートサッカー的というか、駆け引きがうまい。例えば、日本のチームは相手を置かないパターン確認の練習をよく行っているのですが、ブラジル人選手はあまりうまくできないことがあります。相手がいないから何をしていいかわからない。プレーの選択にあたって相手がいないのはかえってやりにくいからです。その代わり、相手がいる実戦では一番うまくプレーします。
もう一つは鹿島の伝統ではないでしょうか。実際に何度もタイトルを獲ってきたので、勝つためにどうすればいいかを知っていますし、それを積み重ねてきた自信もあります。ユベントスやバイエルンもそうですが、こういうチームは強いです。
―― ただ、タイトルを獲っているチームは他にもいるじゃないですか。ガンバ大阪やサンフレッチェ広島も勝った経験がありますが、鹿島は何か違う気がします。
例えば、広島はミシャ式の特殊なサッカーをやっていましたよね。ああいう型があるサッカーは斬新さで相手の上を行くことができますが、研究されると効果が下がってきますし、初期段階では選手が(高度な)戦術を遂行することで一杯いっぱいになっちゃうんですね。だから相手を見る余裕がない。そうすると監督の言うことしかできない状態になりやすい。監督の指示や戦術だけで勝てる試合はありません。選手が状況に応じて賢くプレーしなければならないのがサッカーという競技の性質としてあります。日本人には言われたことや決まり事をしっかりやる良さがある半面、今現在の状況を判断するセンサーが働かなくなりやすい傾向があると思います。
鹿島やブラジルのサッカーは良くも悪くもシンプルなので、ピッチ上でプレーしている選手は戦術遂行についてはそんなに考えずに済む。呼吸するようにプレーできるので、試合中は相手を見てサッカーができます。広島やガンバ大阪も相手を見てプレーできますが、むしろ自分たちのスタイルで押し切る強さですね。簡単にいえば試合運びの上手さを一番活用しているのが鹿島ということだと思います。
―― なるほど。頭の中のすべてのリソースを「駆け引き」に費やせるわけですね。
誰がどうプレーするかはもう見なくてもわかるレベルなので、「勝つために今何をすべきか」に集中できるわけです。そういうサッカーは研究しようがないのも強みですね。スカウティングしても、「誰それが調子いいから気をつけろ」くらいしか言えない(笑)。
―― お話を聞いていて思ったのは、ブラジルのチームはクラブW杯で戦力的には段違いのヨーロッパ王者と常に際どい勝負をするじゃないですか。高度な戦術がなくても、局面ごとに正しい判断ができていれば勝負できるのがサッカーの奥深さですよね。レアル・マドリーに善戦した鹿島もまさにそうですが。
今やるべきことに集中しているので、落ち着いていますよね。相手は見ているんだけど、ボールを持つ時はこうプレーする、持たれたらこうプレーする、としか考えていないから相手がどこでも関係ないというか、レアル・マドリーでも川崎フロンターレでもやることは同じなんですね。いい意味で図太いというか、どんな展開でもパニックにならない。
余談ですが、鹿島のサッカーを見ていると、ギー・ルー監督のオセールを思い出します。ギー・ルーは40年ぐらい監督をやっていた名物監督でしたが、ずっと[4-3-3]で守備はマンツーマンでした。はっきり言って戦術的には60年代の化石サッカーでしたが、だいたいフランスリーグで上位に入っていましたし、優勝した年(95-96シーズン)はカップ戦も制してダブル達成でした。ただ、それよりもこのクラブの目的は選手を育てて高く売ること。都市の規模が小さ過ぎるので財政も大きくない。で、古くさい[4-3-3]システムは若手強化のための負荷みたいな役割を果たしていました。戦術が超シンプルなので、その点は選手に迷いがない。戦術を理解するとか適応するとか、そういうのが要らない。その結果、個人の成長が早くなっていました。チーム戦術は何も解決してくれないので個人が頑張って解決するしかないからです。鹿島はチャンピオンチームなのでオセールとは違いますが、戦術的な縛りをシンプルにして選手個々を成長させる、個を生かすという意味では似ているところがあると思います。
■「形」のない伝統を継承する方法
―― 一つ聞きたいテーマがあります。ギー・ルーのように40年間監督をやっているならまだしも、鹿島の監督は代わりますよね。バルセロナのように理論化されたコンセプトは人が変わっても継続できますが、ブラジルや鹿島のようなサッカーはどうやって伝承されていくのでしょう?
監督が代わっても、やり方は同じですから継続できます。戦術的にもシンプルですし。あとは人から人へ伝承されていくのだと思います。例えば10代の頃の小笠原はボールタッチやパスセンスは天才的なものがありましたが、今のようなずる賢さはあまりありませんでした。ただ、長年このチームでプレーし、先輩のプレーから学び成熟したのだと思います。今では鹿島の権化みたいなプレーヤーですからね。
鹿島の強さはクラブカルチャーや流れを作ってきた強化部のブレのない方針が大きい。強化部長の鈴木満さんは住友金属の時からチームにいた生え抜き中の生え抜きですからね。そういう人がいるのはクラブの財産だと思います。多くのクラブはその時の監督の方針に左右されています。最近はそうでないチームも増えてきましたけど、鹿島ほどの年期はまだない。鹿島の[4-2-2-2]だって戦術的に凄いというわけではないし、特殊性は全然ないけど、一貫性があるので選手は育っているしチームも強い。とりあえず旗を立てるだけでも違うのではないでしょうか。
強化の責任者が方針を出して、一貫性を持つ。そうすると将来を見越しての補強もやりやすい。チームに来てから方針が変わって「良い選手だけどウチには合わない」とか、そういう無駄もないですから。もし立てた方針がダメだったら責任者が交代すればいいだけのこと。そういうプロフェッショナルな姿勢がないと、チームも選手も力を発揮できなくなります。権限を持っている人が何も決めない、責任も取らない、責任者の交代が外にわからない政治的な理由で決まっていく……これが最悪のケースでしょう。
―― 鹿島は基本的にブラジル人監督がチームを指揮してきましたが、石井、大岩と日本人監督が続いています。なぜでしょう?
単純に「ブラジルのサッカー」から「鹿島のサッカー」になったということじゃないですか。もう20年以上、同じやり方をやり続けているので借り物ではなく自分たちのやり方として完全に定着した。だからもう必ずしもブラジル人監督でなくてもいいのでしょう。
―― 完成しているがゆえにこれ以上の上積みは難しいようにも感じますが、それについてはどう考えますか?
鹿島の課題は国内での安定感と強さをACLで発揮し切れていないことでしょうか。ユベントス型というか、ユーベも90年代までは国内は圧倒的なのに、欧州の舞台ではミランの方が強かったんですよね。アジア王者になるには、もう1つ突き抜けたものがほしいかもしれません。
チーム全体のインテンシティを高めていくのもそうですし、あとは単純に個の能力を上げることですね。一番簡単な方法は、強力なブラジル人FWを連れて来ること(笑)。それだけでも一気にアジアで勝てるようになるかもしれません。ただ、それなしでもユース出身の若手も育っていますし、リクルートもうまいのでいい若手を獲ってきますよね。特に18歳の安部はクラブの将来を背負って立つ逸材です。ディバラのような雰囲気があって、技術があって頭もいい。ポジションはサイドから前までどこでもやれますし、ドリブルでの突破力があります。こういうスケールの大きい選手を育てていけば、チームのスケールも同時に上がっていくと思います。
■日本にはびこる“教科書サッカー”
―― 日本人は戦術好きですが、鹿島はそれだけじゃないサッカーの奥深さを感じさせてくれるチームですね。
ただ、(飛び抜けたクラブ規模を持つわけではない)鹿島にこれだけ勝たれてしまうJリーグの他クラブにも問題を感じますけどね。鹿島ならほとんどやらない判断ミスがけっこうあります。例えば、1点リードしていて後半ロスタイム、サイドへボールを運んで、後ろはカウンター警戒で上がらない。ここまでは正しい判断なんですが、中に1人しかいないのになぜかクロスを上げてしまうとか。局面的には正しくても、時間帯と点差を考えるとどうなの? というプレーも少なくない。残り数分でCBも前線に出ているのに放り込まないとかもそうです。
―― 負けている側はそのままだと終わりだから、ハイリスク&ハイリターンの展開に持ち込むべきですからね。
放り込むにしてもペナに大勢が入っちゃって、こぼれ球を拾えないとか。放り込んでもクリアされる確率の方が断然高いわけですから、むしろこぼれ球を拾う方が大事なはずです。状況に合わせて何をやるべきかという点で段取りが悪過ぎる場面もけっこう見られますよね。
―― 足下で繋ぐサッカーが正しいという変なこだわりがあるのかもしれませんし、単純にパワープレーの練習が足りないのかもしれません。
「正しいプレー」というのは時間帯や点差などの試合状況によってその都度変わってきます。プレスのやり方なんてまさにそうです。監督が「前から行け!」と言ったとしても、相手の出方や状況を見てやり方を決めなければならない。よく「前から行くのかどうか」「どの時間帯でやるべきか」ということでチーム内の意見が分かれるみたいな話を聞きますけど、どこからどう守るかはすべてその時の状況次第。で、その状況も局面だけでなく、点差や残り時間など試合展開を考慮する必要があります。
「前から行く」という話なら、FWはその判断を間違ったらダメ。前が行ってしまったら後ろはついて行くしかないので。逆に言うと、後ろから「行くな!」と声がかかったらFWは行ってはダメです。
―― それで問題を感じれば監督からDFに「ラインを上げろ!」と言えばいいわけですからね。
日本人選手は総じてチームで決めたマニュアル通りにプレーしたがります。しかし「戦術上の正解」と「試合の流れの中での正解」は必ずしも同じになりません。高度な戦術を理解できる反面、基本中の基本が抜けてしまうというのは意外と起こることです。試合の流れを読み間違えない、試合巧者の鹿島がそれで優位性を持っている現状には少し複雑な思いもあります。そうした試合を読む力は、ある意味誰でも身につけられるものだからです。本来、そこはあまり差別化できない部分だと思うんですよね。
―― 鹿島は地味に強いので評価されにくい部分がありますが、「勝つために何をすべきか?」は日本サッカー全体の課題ですし、あらためて鹿島に学ぶ必要がありそうですね。
日本では試合をやっていて点差がわからないという選手が普通にいますよ。今、スコアがどうなっているのか把握していないでプレーしているわけです。よく「相手は関係ない」という選手もいますが、程度はともかく「関係ない」わけないです(笑)。相手もスコアも関係なくプレーするだけならゲームではなくエクササイズですよね。
―― ゴールがないまま走るマラソンみたいな感じですよね。走ることが目的というか。
サッカーをプレーすることと勝つためにプレーすることは微妙に違います。そこは日本サッカー全体で少し気をつけなければいけないところかもしれませんね。
Kenji Nishibe
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテⅣ 欧州サッカーを進化させるペップ革命』(小社刊)が発売中。
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