血を繋げる。 勝利の本質を知る、アントラーズの神髄 [ 鈴木満 ]
「正直、アップアップだね(笑)」
昨季に悲願のACL優勝で節目となる「20冠」を達成。そしてレジェンド小笠原満男がスパイクを脱ぎ、鹿島アントラーズは今季、新たなサイクルに突入した。
新時代の幕開けとなるシーズンの戦いぶりは? 次なるタイトルの可能性は? クラブ創設から多大なる貢献を示し、国内随一の常勝軍団の礎を築き、“鹿島らしさ”を守り続けている鈴木満常務取締役強化部長に訊いた。
――新時代の幕開けとなる今季のここまでの戦いぶりをどう見ていますか?
正直、アップアップだね(笑)。過渡期とも言える今シーズン、前半戦はのらりくらりじゃないけど、それなりの成績は収められた。とはいえ、怪我人の多さや、何人かの選手が抜けることもあり、現場とはこれまで以上に、いろいろとすり合わせをしていかなければならない。クラブとしてのベースはあるけど、そこからアップデートするところまでは、なかなか行けていないのが実情だ。
今は我慢の時とも言える。それでも、選手の育成を含めた“鹿島らしさ”を持続させ、結果も求めていく。その両立は簡単ではないし、どちらに比重を置くかは、時代の流れやチーム状況に応じてバランスを考えていかなくてはならない。
負けてもいい、なんてことは絶対にない。しかし、選手の成長率を重視する時もある。そこをないがしろにすれば、将来的に勝てる戦力にならない。ある程度、選手が揃っていて、勝ち続けて、そのチームを“出がらし”になるまで引っ張っていると、すぐに成績は下がる。どんと落ちる。そうならないように、どこかで我慢して次を準備しておくことが長期的な安定につながる。
この作業はこれまでずっと続けてきたことでもあるし、その継続性が、「鹿島アントラーズ」というブランドを高めて、確固たるものにしてきたことにもつながっていると思う。例えば、個の力が10しかないとしても、鹿島のユニホームを着れば、15ぐらいの力を引き出せる。良いか悪いかは別として、鹿島という名前で勝てる試合もある。
それは、これまで勝ち続けてきた歴史があるから。そういうチームにしてきたつもりだし、選手たちにも、自分はアントラーズの選手だというプライドもある。みんな負けたくない、勝ちたいという欲が強い。そんな彼らが結集すれば、自ずと勝ちは拾える。
「今年もタイトルを獲るつもりだし、獲れると確信している」
――「20冠」のその先にある次なるタイトルの可能性は?
これから過密日程となり、秋以降は重要度の高いゲームが続くだろう。そうなってくると、自然と選手たちの集中力がグッと高まって、プラスアルファの力や、個々が本来持っているポテンシャルを出し切るようになる。それが鹿島のDNAだ。決勝戦の舞台に立った時の選手たちの集中の仕方なんて、こっちが感心するぐらいだ。あ、これは違うぞと、見ていてすぐに分かる。
頂上に立った者の強みもある。ACLでは、長いことベスト16の壁に阻まれてきた。去年なんとかその壁をクリアして優勝したら、それまで全然イメージできなかった壁の向こう側が見えて、こうすれば勝てるんだというのが分かった。ルヴァンカップや天皇杯でもそうだけど、頂上に立てば、あそこの坂ではアクセルを踏んで昇って、その後は少しゆっくり走ろうとか、そういう道筋が見えてくる。勝ち方が明確になる。それは去年のACLで改めて思った。
ルヴァンカップでは、これまでの26大会中、鹿島は9回、決勝に行って、そのうちの6回優勝している。3大会に1回はファイナルに進出している計算で、負ける時もあるけど、鹿島との一発勝負でタイトルを争うのは嫌だなと思うチームは少なくないはず。こっちは決勝まで行けば負けないよと、そういう自信があれば勝てるものなんだ。
鹿島のDNAが発揮されるのはこれから。選手が抜けるのは大変だし、正直ダメージもある。でも、それに対する覚悟が必要。こういう時のために自分たち強化部がいるわけだから。腕の見せ所ではないけど、ここで働かなければ、いつ仕事をするんだというね(笑)。
Jリーグが始まった当初はヴェルディやマリノスとやり合い、その後はジュビロと覇権を争って、次はレッズやガンバ、今ではフロンターレが好敵手に。26年間でいろんなクラブがライバルとなってきたが、我々アントラーズはJ1ではだいたい6位以内に入り、リーグタイトルを何度も掴んできた。勝つことよりも、勝ち続けることのほうが難しい。その安定感を振り返れば、これまでの歩みは間違っていないという自負はある。
今年もタイトルを獲るつもりだし、獲れると確信している。
PROFILE
鈴木 満(常務取締役強化部長)
すずき・みつる/1957年5月30日生まれ、宮城県出身。現役時代は中央大を卒業後、住友金属工業蹴球団(鹿島の前身)に加入。89年の引退後は同クラブの監督に就任して、92年からは鹿島のヘッドコーチを務める。96年から強化の職に就き、常勝軍団の礎を築いて現在に至る。強化部長として日本ナンバーワンの実力者は、誰とでも気さくに話す人柄で、“マンさん”の愛称で多くの人に親しまれている。
取材・文●広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)
※本記事は、サッカーダイジェスト8月8日号(7月25日発売)掲載の記事から一部抜粋・加筆修正したもの。