日刊鹿島アントラーズニュース

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2023年9月23日土曜日

◆樋口雄太が止まると鹿島アントラーズの攻撃も止まる PKを2度外した天皇杯で「気持ちも吹っ切れた」(Sportiva)



樋口雄太


 じわじわと上位に近づいている。ひたひたと上位に迫っている。J1第27節を終えて3位に浮上した鹿島アントラーズのことだ。

 首位との勝ち点差は「6」。まだまだ開いているとはいえ、十分に射程圏内に捉えていると言っていいだろう。

 今季、リーグトップとなる11アシストを記録している樋口雄太が、チームのターニングポイントを挙げる。

「(第9節の)アルビレックス新潟戦がひとつのポイントでした。それまでチームは4連敗していましたが、その期間で僕自身もすごく考えさせられましたし、思い返すとチームにとっても必要だったと思えるくらい、濃い時間を過ごしました。今、あの負けをムダにしないチームになってきています」

 樋口がポイントとして挙げた新潟戦で、2-0の勝利を収めたチームの変化は「守備」にあった。

「連敗を脱する勝利を挙げたことが変わるきっかけだったとは思いますけど、あの試合で、それまで曖昧になっていた守備が整理され、ひとりひとりの役割がはっきりしたことが大きかった。それによって、守から攻へと移る作業もスムーズになり、守備だけでなく攻撃にも大きく影響をもたらしたように思います」

 その変化を、さらに樋口が解き明かす。

「以前はひとりひとりが単体で守備を頑張っていたのが、新潟戦を機にみんなで守備を頑張っているような連動性へと発展しました。だから守備も、守備だけで終わることなく、その守備を生かして攻撃につなげられている。それによって守から攻への切り替えが速くなり、その速さのなかでそれぞれのアイデアも出せるようになってきたことで、チームは成長しました」

「この説明でわかりますか?」と、謙遜する樋口に強くうなずいた。

 今季の鹿島は、前線からの絶え間ない守備で相手を追い込み、意図したエリアでボールを奪うと、すぐさま攻撃へと転じていく──。それが一度や二度ではなく、連動かつ連続して行なわれることにより、攻撃の迫力へとつながっている。


【仲間が助かる位置に顔を出し、相手が嫌がる位置に走り込む】


 新潟戦から鹿島はリーグ戦で5連勝を飾ったが、連勝中も樋口は「答え」を探し続けてきた。現状に満足することなく成長を模索し続けるのが樋口の魅力であり、鹿島の選手らしくなってきた証(あかし)でもある。

「連勝中も攻撃はまだまだ課題があって、どこかまだ、ひとりひとりのよさが出ていなかった。チームがうまく機能するために、どこかひとりひとりのよさを消して戦っているように映っていました。

 でも、守備が連動することによってチームとして安定し、徐々にひとりひとりのアイデアや個性、長所がピッチで出せるようになってきた。やっぱり、守備の安定は攻撃にもいい循環をもたらしますよね。今はみんなに迷いがなくなり、ゴールに向かっていくというシンプルな作業が勢いをもたらしています」

 ひとりひとりの個性が埋もれることなく、ピッチで表現されるように働き、カバーしているのが、まさに樋口雄太である。

 その運動量は特筆に値し、常にチームメイトが助かる位置に顔を出し、常に相手が嫌がる位置に走り込んでいる。

 チームが戦い方を模索するなかで、樋口自身にも変わる転機があった。

 まだ連敗が続いていたある日、チームの強化を担う吉岡宗重フットボールダイレクターと話をしていた時のことだ。

「雄太が止まってしまうと、チームの攻撃も止まってしまうし、チームとしてうまくいかなくなってしまう」

 その言葉に、自身のプレーを深く見つめ直すと同時に、チームが機能するための「答え」も見つけた。

「僕自身、誰に言われるかもすごく大事だと思っていて。いつも近くで自分たちのプレーを見てくれている吉岡フットボールダイレクターからの言葉だったから、心に大きく響きました。

 その言葉を聞くまでは、チームがうまくいくのであれば、多少、自分は犠牲になっていてもいいとすら思っていたんです。でも、チームのためを思って、考えすぎてプレーしていたことで、判断が遅くなるし、アクションも減っていた。吉岡さんと話しながら『たしかにな』って思って。

 自分が動き続けて、うまくボールに絡んでいる試合は、チームの攻撃がスムーズに進んでいることを思い出しました。だから、まずはチームのためではなく、自分が生きるためにゴールに向かうプレーを増やしていくことが必要だと。それが結果的に、自分の運動量やボールに絡む機会を増やすことにつながり、チームのためになることに気がついたんです」


【僕はアクションを起こし続けないと評価されないタイプ】


「答え」を探し続けてきたことで、見えてきたチームの強さもあった。

「これはあくまで僕自身の考えなんですけど、アントラーズって集団というか、密集して、選手同士の距離感がいい時ほど、自分自身もこのチームは強いなって感じているんですよね。

 全体が間延びしたり、攻守が目まぐるしく入れ替わったりするシーソーゲーム、もしくはオープンな展開になると、自分たちの距離感が悪くなって、勝ち点を拾えていない試合が多かった。でも、自分たちが距離感をよくして、密集する状況を作り出せていると、相手が嫌がっていることは試合中も感じられていました」

 チームのバランスばかりを考えるのではなく、自分がゴールに直結するプレーを意識する。そうすることでワンプレー、ワンプレーの判断も早くなり、チームの攻撃は円滑になっていく。

 J1第22節の北海道コンサドーレ札幌戦で、流れるような攻撃から開始12秒で決めたゴールも、その表れであろう。溝口修平からの縦パスを鈴木優磨、仲間隼斗が連続でフリックすると、鈴木からのラストパスを樋口がゴールに流し込んだ。

「あのゴールは、結果的に僕が決めましたけど、みんながゴールに向かう姿勢が大事だったと思いますし、だから、みんなで奪ったゴールだったと思っています。なにより、チーム全体が前向きなチャレンジをしているから生まれたゴール。半信半疑で攻撃している時は、やっぱりシュートで終わることができなかったですからね。

 あのゴールは一例ですけど、僕みたいな選手は、アクションを起こし続けないと評価されない。今はコンディションもいいですし、試合前に思い浮かべていた発想が試合中にパッと出てきて、点が取れそうだなって思える場面も増えてきました。そこは、自分がさらに成長している証なのかなって思いますし、だから今はまた、違った自分の可能性を見つけている段階なのかなって思っています」

 シーズン終盤に向けて、自信をのぞかせる樋口は、こちらが触れるまでもなく、自身が背負っているチームへの責任についても言及した。


【PKを2度外して敗退した天皇杯・甲府戦を自ら語る】


「天皇杯3回戦・ヴァンフォーレ甲府に敗れた試合で、僕が2度、PKを外してチームは敗退しましたよね。PK戦はシュートを蹴るまで、そこまで深く考えてはなかったのですが、自分がPKを外したことでチームがひとつタイトルを失ってしまった。その場では『終わっちゃったな』って感覚だったんですけど、時間が経つにつれて、じわじわと責任を感じるようになって......。

 次はチームを助けられる、チームに勝利をもたらせられる選手にならなければいけないなって心に誓いました。落ち込みましたけど、そう思ってからは、気持ちも吹っ切れたというか、自分自身も変わりました」

 チームの結果に責任を感じ、自分を追い込むことで、樋口はさらに成長しようとしている。

(後編につづく)



◆樋口雄太が止まると鹿島アントラーズの攻撃も止まる PKを2度外した天皇杯で「気持ちも吹っ切れた」(Sportiva)





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