日刊鹿島アントラーズニュース

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2023年9月23日土曜日

◆リーグ1位のアシスト数・樋口雄太は無心でボールを蹴っている「練習してない時のほうが逆にいい」(Sportiva)



樋口雄太


◆樋口雄太・前編>>PKを2度外した天皇杯で「気持ちも吹っ切れた」


 責任は、時に過度なプレッシャーになり、自分自身を押しつぶしてしまうこともある。しかし、鹿島アントラーズでプレーする樋口雄太の場合は逆だ。

 責任や障害、乗り越えなければならない壁は、自分を奮い立たせるスイッチになっている。

「自分はやらなきゃいけないと思った時のほうが、結果を出せるタイプなのかもしれません。ちょうど、(広瀬)陸斗くんとも同じようなことを話していて、振り返ってみると、自分も精神的に追い込まれたときのほうが次の試合で結果を残しているんです」

 すべてのタイトル獲得を目指す鹿島において、7月12日に行なわれた天皇杯3回戦で、ヴァンフォーレ甲府に敗れた責任は重くのし掛かった。1-1で延長戦を終え、13人目まで突入したPK戦で、2度もPKを失敗した事実はなおさらで、樋口の心にじわじわと悔しさを浸食させていった。

 だが、本来であれば避けたいはずの話題に、樋口は自ら切り込み、こう言った。

「時間が経つにつれて、徐々にその責任を感じていって。次はチームを助けられる、チームに勝利をもたらせられる選手にならなければいけないと心に誓いました。その決意が、続くFC東京戦(第21節)の2アシストにつながったと思っています」

 思い出したのは、サガン鳥栖でプロになった頃のことだった。

「大学を卒業して、育成年代の多くを過ごした鳥栖で念願だったプロになれた時は、何でもできると思っていました。でも、挫折を味わい、ミスをすることが怖くなってしまった時期がありました」

 プロ1年目の2019年、樋口はリーグ開幕戦にメンバー入りすると、第2節のヴィッセル神戸戦で途中出場し、デビューを飾った。並行して行なわれていたYBCルヴァンカップでは先発出場する機会にも恵まれた。


【出場機会を失っていた樋口に転機が訪れた2020年】


「神戸戦でデビューした時は、このまま試合に出続けられるかもしれないと思いましたけど、やっぱり、そううまくはいかなかった。

 覚えているのが、ホームで戦ったルヴァンカップの柏戦。相手にはオルンガがいて、ボランチで先発したのですが、自分のところが穴になっていると、はっきりとわかるくらいに狙われました。自分が相手にはがされまくって、毎回シュートまで到達されてしまった。

 試合中も『やばい、やばい......』と思って焦っていたから、余計にいいプレーなんてできるわけがないですよね。スコアは0−0でしたけど、あまりにコテンパンにやられすぎて、一時期、サッカーが楽しくなくなったくらいでした」

 成長した今なら、その時の自分がどうだったかを省みることができる。

「最初は何も考えずにプレーできていたのが、少しずつ求められることも増えてきて、考えるようにもなって......初めてプロとしてプレーすることの怖さや責任を感じました。

 当時の自分は、ボールを持ってもイチかバチかのプレーが多く、おまけにミスを恐れてプレーも消極的。今、考えればわかりますけど、そんな選手、試合で起用したくはないですよね」

 その後、出場機会を失っていた樋口に転機が訪れたのは、プロ2年目の2020年だった。

「チームが勝ち星から遠ざかっていた時期だったこともあって、金明輝監督(当時)に呼ばれると『次のFC東京戦で起用するから、相手のエースであるレアンドロを好きにやらせないように徹底的にマークしてほしい』と言われました。結果は3-2でしたけど、与えられた役割を全うし、攻守でチームがやろうとしていたことを体現できた。

 そこから、試合でもチャンスをもらえるようになって。それまでは自分もおぼろげに『移籍しようかな』なんて考えていましたし、金監督にも『期限付き移籍させたほうがお前のためになるのではないかと迷っていた』と、冗談を言われたくらいでしたからね」


【アシスト数の増加はゴール前にいる選手たちのおかげ】


 樋口自身は、FC東京戦がラストチャンスだと思っていた。自分にはあとがない、追い込まれた状況が、彼を奮起させたのである。

「FC東京戦で、自分自身を変えてやろうと思って臨んだ結果、うまくいって。1年目は自分のやりたいことだけをやろうとしすぎて、空回りして失敗した経験があったので、2年目は少しずつ試合に出られるようになって、チームとしてやるべきことに目を向けられるようになりました。

 試合の入りや立ち上がりをよくしようとか、細かいところにも気をつけていったら、出場機会も、出場時間も増えていった。振り返ると、高校も、大学も、そしてプロも一緒なんです。自分は追い込まれることで、それを乗り越えて、段階を踏んでよくなっていった。

 プレーも同様で、まずはチームのためになることをやって、それができたら次は守備に目を向ける。それがまたできたら、次は攻撃に目を向ける。そうやって自分にできることを少しずつ、少しずつ増やしていくことで、見える景色が変わっていくんだと思います」

 鹿島に加入した昨季も、リーグ戦32試合に出場したとはいえ、樋口にとっては段階を踏んでいたのであろう。今季、リーグ戦で11アシストという数字以上に、攻撃で見せる存在感、守備で見せるハードワークは際立っている。

「アシストは数字だけを見ると、すごいと言ってもらえるかもしれませんが、自分としてはその内容を追求すると、セットプレーからがほとんどなので、果たして自分の力だと評価できるものなのかと。

 しかも、アントラーズに加入してからなんですよね、CKやセットプレーでアシストできるようになったもの。もちろん、自分のキックの調子もいいですけど、やっぱりゴール前にいる選手たちのおかげなのかなって思います」

 以前よりもキックの練習をしているのか──と問いかけると、樋口は首を横に振った。

「練習してない時のほうが、逆にアシストできる機会は多いんです。練習すると、いろいろと考えすぎてしまって、迷いが出てくるので、無心で蹴っている時のほうがいいと思っています」


【尊敬するならば、その人を越えるくらいにならないと...】


 日ごろから考えに考えているため、セットプレーだけでなく、プレーについても同じことが言えるのではないか。そう思い、樋口に再び問いかけた。すると、ハッとしたように樋口は言った。

「たしかに試合中も無心の時のほうが、むしろ判断も、反応も、アイデアも表現できていますね。話をしていて自分の考えが整理されましたけど、自分に必要なのは、セットプレーのキックと同じで、考えをそぎ落としていく作業かもしれない。無心でプレーできているときほど、自分が攻守に顔を出せる回数や機会は多いので」

 目の前が開けたように、明るい表情を見せる樋口は今、自分自身を追い込み、自分を越えようとしている。

 そしてもうひとつ、越えようとしているものがある。鳥栖時代にずっと背中を追いかけ、鹿島で背番号14をつける理由にもなっている、高橋義希の存在である。

「義希さんには本当にお世話になっていて、ずっとその背中を追いかけていました。言葉で直接、言われたわけではないですけど、義希さんからはどんなに試合で活躍しても、満足していない姿勢を常に感じていました。チームが連勝していると、自分の成長を見落としがちになりますけど、この間も義希さんの背中を思い出して、自分に喝をいれたんですよね」

 今も折を見て、その背中を思い出すほど、尊敬する先輩である。しかし、鹿島で出会った先輩は、樋口にこうアドバイスを送った。2022年の同期加入になる仲間隼斗だった。

「雄太が高橋義希さんに憧れるのはいいけど、背中を追いかけているだけでは、その人を越えることはできないよ。きっと、そこで雄太の成長は止まってしまうと思うけどな」

 仲間は、さらに言った。

「尊敬する人なのであれば、なおさらその人を越えるくらいにならないと。自分が上を目指したいのであれば、ただ憧れているという認識や背中を追いかけているといった感覚をあらためて、自分自身の選手像を作り上げなければならないんじゃない?」

 よくランチをする馴染みの店で2時間以上も話し込んだというが、その時も樋口はハッとさせられたという。


【チームのタイトル獲得に貢献すれば日本代表も見えてくる】


「誰かに憧れているうちは、きっと、その選手のマネでしかないんですよね。だから、ここからは自分自身を作っていくというか。そこが自分の次なる課題、テーマになると思っています。

 そう考えると、今の自分に求められているのは、アシストや得点といったゴールに直結するプレーになる。数字が求められるのは、日本も世界もサッカーでは共通しているところ。結果を残さなければ、上には辿り着けないと思っています」

 見据えるのは、チームとしてのタイトルであり、自身としては日本代表である。シーズンは終盤戦に差しかかっていく──自分自身を追い込めば、追い込むほど、力を発揮する樋口にとって、上位を追いかける状況は、自分を越える好機と言えるだろう。

 そして、アントラーズもまた、逆境に立たされれば立たされるほど、強さを発揮する。

<了>




◆リーグ1位のアシスト数・樋口雄太は無心でボールを蹴っている「練習してない時のほうが逆にいい」(Sportiva)







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