<記者の目>
鹿島アントラーズが苦しんでいる。岩政大樹監督(41)は、5位で終えたが、今季限りで退任することが決まった。残留争いをしたクラブの指揮官が次々と続投する中、5位でも退任。クラブは、新監督の招聘(しょうへい)に動いているが、体制が決まっている他クラブに比べ、来季の補強面でも出遅れてしまっている。
Jリーグ開幕時から、「ジーコスピリッツ(献身、誠実、尊重」と、練習から厳しく勝負強さを求める伝統で、総タイトル20冠の常勝軍団をつくりあげてきたが、16年度の天皇杯優勝を最後に国内タイトルから遠ざかる。
その間、リーグでは川崎フロンターレ、横浜F・マリノスが台頭。確固たるチームのスタイルを築き上げ、それに見合う選手を育成し、獲得をしてきた。今季、優勝したヴィッセル神戸は、選手獲得に投資を惜しまず、時間をかけてチーム力を底上げし、悲願を達成した。
各クラブが、サッカースタイルを含め進化を遂げている中、「球際」「勝負強さ」のかつての鹿島の伝統だけでは勝ちきれなくなっているのが現実だ。
岩政監督は「新しい鹿島」をつくるべく、攻撃の組み立て(ビルドアップ)や、流動性のある攻撃、臨機応変さを植え付けようとした。だが、現在の鹿島は個々の能力は高いが、岩政監督の理想をかなえる選手層には程遠かった。「ポステコグルー(前横浜監督)が2年でやることを1年でやる」と意気込んだが、かえって、あれもこれも詰め込みすぎ、逆に選手に混乱を与えた印象もある。
攻撃の組み立てには、フィードとスピードにたけたセンターバック、中盤で狭いエリアでも前を向き、急所を突くパスの供給や展開力を持つMFが必要だ。スペースを空ける、空けたスペースをどう使うかを含めた攻撃の連動性も、ピッチに立つ11人が高水準でそろわないと「イメージの絵」はそろわない。MF柴崎岳が今夏加入したが、負傷もあり、3試合(102分)の出場にとどまったのも痛かった。
4月に現有戦力の特長を最大限に生かし、伝統の「4-4-2」の布陣で勝利を重ねたが、それだけでは上位クラブに勝てない課題も顕著だった。
川崎Fも横浜もスタイル確立には時間がかかった。その間、連敗も惨敗もあったが、スタイルを貫いた。だが、鹿島は「勝たなければいけないクラブ」。20年から4年で、ザーゴ監督、相馬直樹監督、ヴァイラー監督、岩政監督の4人が就任したが、結果が出ないことで、短命に終わった。
これではいつまでたってもクラブのスタイルは確立されない。伝統を軸に、クラブは将来的に、どんなスタイルを目指したいのか。吉岡宗重フットボールダイレクターは「(目指すべきスタイルは)あります。やりたいこと、考えはある。その方向性に向けて、監督と話しながらやっている。基本的なベースは、アカデミーと一緒でもある」と明言したが、具体的な発言はしなかった。この数年を見ても、どんなスタイルを目指すのかが見えてこない。
タイトルを積み重ねてきたころは、力のあるベテランがベンチに控え、若手が先発で躍動。若手が頭角を現し、日本代表へと羽ばたいていった。常勝時代は「鹿島に入って強くなりたい」と、選手が憧れ、“ドラフト1位”の選手が次々と入ってきた。だが、今は違う。「鹿島ブランド」が薄れているのも事実だ。今季の補強もFW知念、MF藤井と新加入選手が躍動したとは言い難い。輝かしい特長を持つ選手を、生かし切れなかった。加えて、アカデミーからもトップ昇格した選手はMF舩橋佑が今季8試合(出場時間55分)、DF溝口修平は5試合(出場時間309分)と苦戦しているのも寂しい。
「ジーコスピリット」は鹿島のオンリーワンのフィロソフィー。そこを軸に、クラブが目指すべきベクトルを定めることが先決だ。それに見合う選手をそろえ、育成し、スタイルが浸透するための長い時間も必要。新監督の招聘(しょうへい)も、クラブのベクトルにあった人選が出来ているのか。新指揮官の下、結果が出ずに再び交代を繰り返すようでは、鹿島はさらに迷路の奥に迷い込むだろう。クラブもサポーターも、試練の時に来ている。【岩田千代巳】
◆【記者の目】鹿島岩政監督5位で退任…常勝故に繰り返す交代、目指すベクトル曖昧では迷走必至(ニッカン)
「"鹿島ブランド"が薄れているのも事実だ。今季の補強も知念、藤井と新加入選手が躍動したとは言い難い。輝かしい特長を持つ選手を、生かし切れなかった」
— 日刊鹿島アントラーズニュース (@12pointers) December 3, 2023
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