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ランコ・ポポヴィッチ監督が率いる鹿島アントラーズは、明治安田生命J1リーグで首位FC町田ゼルビアと勝ち点で並ぶ2位という好位置につけている。高い得点力を誇る攻撃のメカニズムをひも解いた前編に続き、後編ではボール非保持時に焦点を当てる。(文:らいかーると)
著者プロフィール:らいかーると
1982年、浦和出身。とあるサッカーチームの監督。サッカー戦術分析ブログ「サッカーの面白い戦術分析を心がけます」主宰。海外サッカー、Jリーグ、日本代表戦など幅広い試合を取り上げ、ユニークな語り口で試合を分析する人気ブロガー。著書に『アナリシス・アイ ~サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます~』『森保JAPAN戦術レポート 大国撃破へのシナリオとベスト8の壁に挑んだ記録』がある。
相手の攻撃に立ちはだかる4人の強者
前線の4枚が流動的に動き回る関係で、鹿島アントラーズは守備の配置が整うことに時間がかかってしまうことがある。そんなときのために攻撃参加を自重しているセントラルハーフと強烈なセンターバックがトランジションに控えている。
特に佐野海舟と知念慶は68メートルを2人でカバーする勢いを見せる。トランジションのデュエルでも、セカンドボールの争いでも、最終ラインの防波堤としても、このコンビは強さを見せ続けている。佐野はともかく、エンゴロ・カンテを彷彿とさせる知念のプレーは誰が予想しただろうか。
彼らが突破されたとしても最後に構えるのは泣く子も黙りそうな関川郁万と植田直通である。クロスが上がっても入りそうな気配はしない。ほとんどこのコンビで跳ね返し続けているかのような印象を与えてくる。
このセンターバックコンビは困ったときのセットプレーでも存在感を示し、撤退した相手を崩すための手段として得点でも貢献していることは見逃せない点だろう。ハイプレッシングにはロングボールで、ミドルプレッシングには柔軟なポジショニングとサイドチェンジで、困ったときはセットプレーと、地味に全方位で可能性の高い攻撃を繰り出せるのであれば結果がついてくることも納得なのではないだろうか。
鹿島アントラーズが苦手とする局面「今後の課題としては…」
プレッシングに目を向けると、鹿島はハイプレッシングを苦手としている。鹿島といえば、伝統的にマンマークで目の前の相手に負けない守備が根強く、その部分は今も色濃く残っている。そのため、ボールを果敢に奪いに行く試みを頻繁に行うのだが、ファーストディフェンダーがあっさりと剥がされると、一気にピンチになる傾向がある。
このファーストディフェンダーは、ボールの奪いどころとして設定されることの多い相手のサイドバックと対面するサイドハーフになってしまう事が多い。スタメンで出場する師岡柊生、仲間隼斗は特に問題がないが、交代で出てくる選手たちはこのデュエルで後手に回ってしまうことが多いのが難点だ。
カウンターなど、相手も整理されていない状態では素の強さが試されるので、知念、佐野がボール奪取力をみせつけることができる。しかし、前から順々に剥がされていく状況だと、さすがのボールハンターコンビでもどうしようもない。つまり、ボールを無理矢理に奪いにいかないほうが現状の鹿島は後方の守備力を活かすことができる状態となっている。
チャブリッチだけは守備に目を瞑っても起用する価値のあるスーパーサブとして機能しているが、他の選手は後半に登場しても効果的ではない試合が続いている。ポポヴィッチもこの現状を完璧に把握しているようで、サイドハーフにはできるだけ長い時間を名古、師岡、仲間の3人で乗り切る計算になってきている。2トップで追いきれないときに、サイドハーフの選手が走力でカバーすることの賛否はあるかもしれないが。
今後の課題としては、ベンチに座っている選手たちがほとんどゲームチェンジャーとして機能していない現状をどのように解決していくか、だろう。ボールプレーヤーとサイドアタッカーがベンチに多く控えているが、終了間際をリードした状態で迎えることの多い鹿島にとって必要なことは、組織の一員として守備をすることである。彼らがスタメン組ほどの守備をできるようになるのか、それとも裏返しで個性を発揮できるようになるかが、これから灼熱の季節を迎える中で、鹿島にとって重要なポイントになるのではないだろうか。
らいかーるとの独り言「流れを破壊できる仕組みを装備している」
得点を決めていることで、濃野公人に注目が集まっていることは当然だろう。一方で安西幸輝も過去最高のシーズンを過ごしているのではないだろうか。孤立した状態でボールを受け、ボールを守って味方に逃がす。仲間がやっているような仕事を安西も平気で行うことができるのは本当に大きい。左サイドで作って右サイドで仕掛ける攻撃が成立している背景として、安西の存在が支えている部分は大きいのではないだろうか。
ミドルプレッシングからハイプレッシングへの移行は猫も杓子も行っている時代である。ハイプレッシングはマンマークを添えることで、相手のビルドアップを破壊することも時代の流行となってきている。この流れを破壊できる仕組みを鹿島が装備していることが、何よりも結果に繋がっている理由と考えることができる。
ショートパスによるビルドアップができないことを隠すためにロングボールを受けられる選手を前線に起用した背景に、どこまで相手のプレッシングのルールを破壊する狙いがあったかは定かではない。UEFAチャンピオンズリーグでマンチェスター・シティがレアル・マドリードのロングボールに苦しんだように、ハイプレッシングへの誘導とロングボールによる打開は徐々に世界中のセオリーとなってきていて、その流れに鹿島も乗っかっていることは忘れずに記載したい。
なお、前線の4枚による5レーンの共有とサイドバックによる攻撃参加でのバランスの維持も世界の流れと一致していて、これが偶然の産物なのか、必然なのかは、今後のポポヴィッチの振る舞いで徐々に判明していくのかもしれない。
(文:らいかーると)
◆鹿島アントラーズが装備する「破壊する仕組み」。世界のセオリーに沿ったプレッシングのメカニズム【戦術分析コラム】(フットボールチャンネル)