日刊鹿島アントラーズニュース

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2018年10月27日土曜日

◆鹿島のスカウト担当部長は、 「安部裕葵に柴崎岳と似たものを感じた」(Sportiva)





遺伝子~鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学~(34)
椎本邦一 前編


◆土居聖真「ボールを持つのが 怖くなるほど、鹿島はミスに厳しかった」(Sportiva)
◆中田浩二「アントラーズの紅白戦は きつかった。試合がラクに感じた」(Sportiva)
◆中田浩二は考えた。「元選手が 経営サイドに身を置くことは重要だ」(Sportiva)
◆スタジアム近所の子供が守護神に。 曽ヶ端準とアントラーズの幸せな歩み(Sportiva)
◆曽ヶ端準「ヘタでも、チームを 勝たせられる選手なら使うでしょ?」(Sportiva)
◆移籍組の名良橋晃は「相手PKに ガックリしただけで雷を落とされた」(Sportiva)
◆名良橋晃がジョルジーニョから継ぎ、 内田篤人に渡した「2」への思い(Sportiva)
◆レオシルバは知っていた。「鹿島? ジーコがプレーしたクラブだろ」(Sportiva)
◆「鹿島アントラーズは、まさにブラジル」 と言い切るレオシルバの真意(Sportiva)
◆「ジーコの負けず嫌いはハンパなかった」。 本田泰人はその魂を継いだ(Sportiva)
◆「アントラーズの嫌われ役になる」 本田泰人はキャプテン就任で決めた(Sportiva)
◆ユースで裸の王様だった鈴木優磨が 「鼻をへし折られた宮崎キャンプ」(Sportiva)
◆鹿島・鈴木優磨のプロ意識。 いいプレーのため、私生活で幸運を集める(Sportiva)
◆岩政大樹の移籍先は「アントラーズと 対戦しないこと」を条件に考えた(Sportiva)
◆三竿健斗は感じている。勝たせるプレーとは 「臨機応変に対応すること」(Sportiva)
◆三竿健斗は足りないものを求めて 「ギラギラした姿勢で練習した」(Sportiva)
◆森岡隆三が鹿島で過ごした日々は 「ジレンマとの闘いだった」(Sportiva)
◆清水への移籍を迷った森岡隆三。 鹿島と対等での戦いに違和感があった(Sportiva)
◆安部裕葵は中学でプロになると決意。 その挑戦期限は18歳までだった(Sportiva)
◆安部裕葵は断言。「環境や先輩が 僕をサッカーに夢中にさせてくれる」(Sportiva)
◆ジーコが鹿島を称賛。「引き継ぎ、 やり続けたことが成果になっている」(Sportiva)
◆ジーコは意気込む。鹿島のために 「現場に立ち、構築、修正していく」(Sportiva)
◆山本脩斗の鹿島加入時の逸話。 「強化部も僕をよく知らなかったと思う」(Sportiva)
◆鹿島で優勝する術を学んだ山本脩斗。 「満男さんがそれを示してくれた」(Sportiva)


 終了間際に内田篤人が決めたゴールで3-2と勝利した第1戦から3週間。鹿島アントラーズは水原三星とACL準決勝第2戦を戦うために韓国・水原へ来た。3週間の間、内田が離脱。その後、ルヴァンカップ準決勝でマリノスに敗れ、リーグ戦では川崎フロンターレ、浦和レッズと対戦したが、4戦勝利から遠ざかっている。

 10月23日、試合前日会見。ソ・ジョンウォン監督が復帰後、連勝している水原はその雰囲気の良さを強調していた。「鹿島はシーズン序盤こそ苦労していたが、今はいい状態にある」とソ・ジョンウォン監督の言葉通りの状態に、鹿島はあるのだろうか?

 10月24日、昌子源がキャプテンマークをまいた。遠藤康も負傷のため韓国へは来ていなかった。

 水原ワールドカップスタジアムは満員にはなっていなかったが、水原のゴール裏からは熱っぽい圧力が伝わってくる。鹿島へ来る前に、水原のライバルチームに所属していたGKのクォン・スンテがボールを持つたびに大きなブーイングがピッチに響いた。

 水原は、前線から激しいプレッシングで、その闘志を表現した。

「球際勝負になるのはわかっていた。そこで勝てればチャンスに繋がる」

 そう話す鈴木優磨はひるむことなく、前を向き突破を試みて、チャンスを作った。

 25分、鈴木が倒されて得たFKをセルジーニョが蹴り、山本脩斗が先制点をマークした。

 徐々に鹿島が水原を押し返していく。中盤でのボールの奪い合いは球際や競り合いだけでなく、両者がパスを読んで奪うインターセプトに成功する場面も多く、文字通り目の離せない展開が続くなかで、前半が終了する。

 後半早々、水原は191センチのパク・ギドンを投入し、戦い方を変える。パクに合わせてシンプルにロングボールやクロスボールを蹴りこむようになった。それに対応する間もなく、鹿島は今季の悪癖を見せる。52分、53分と立て続けに失点。あっけなく逆転した水原は、60分には3点目をマークする。

 その直後、鹿島の選手たちが集まり、話をしている。

「1点返せば、次の1点も獲れる。まずは1点」

 チームの方針が明確になった。同点でも勝ち上がりは決まるが、最悪負けたとしても4-3なら、アウェイゴール数で水原を上回る。失点しないことも重要だが、まずは点を決めなければ、話にならない。

 64分、右サイドから、いったん左サイドへ展開し、最後は安西幸輝からのクロスボールを西大伍が見事なトラップでコントロールすると、右足でシュート。ポストにあたりながらもゴールイン。3-2とした鹿島は、勝利を決定づける3点目の奪取を模索する。

「水原の戦い方が変わらなかったので、裏が空いていた。だから同点弾に繋がったんだと思う」と話す鈴木の粘りがその3点目を生む。スローインのボールを受けて、キープし、DF陣を引きつけると、中央へパス。それにセルジーニョが反応し、落ち着いたシュートがネットを揺らした。3-3の同点となったのが82分。水原が勝ち抜けるためには、あと2点が必要な状況を作った。

 土居聖真に代えて、犬飼智也が投入される。3バック気味に3人のセンターバックが並ぶ布陣だ。誰もがボールに集中し、クリアしようとするあまり2人がボールに寄ってしまい、シュートを打たれる。そんなピンチを救ったのがこの日好セーブを続けていた、2度のACL王者に輝いた経験を持つスンテだった。

 チャンスがピンチになり、ピンチがチャンスになる。そして、またピンチが訪れる。息もつけない展開。そして、アディショナルタイム6分を経過して、試合終了の笛が鳴る。

 歓喜に沸くという空気はなかった。突破した安堵感と、まだ終わりじゃないという緊張感が漂っていた。達成感を抱くのはまだ早い。

「次はイランで、10万人のスタジアムでしょ? たまらないなぁ」と鈴木。背番号9を担う男は「ゴールを決めたかった。でも、最後僕の頑張りがセルジ(セルジーニョ)のゴールに繋がったから、ギリギリ、9番の仕事を果たせたのかなぁ」と静かに笑った。




 背番号3は、3失点という現実を前に踏ん張るように語り続けた。自身に対する落胆に折れるわけにはいかないからだ。

「失点に絡んでいろんなことが、よみがえってきた。今までも失点に絡んだことで成長できたから。今日はチームに迷惑をかけたぶん、決勝は、俺がチームを救う番だと思っている。(岩政)大樹さんが最近引退したけど、大樹さんに代わり、3番をもらった僕は、ずっと『鹿島のディフェンスを支えるのは自分だ』と言い聞かせてきている。今日みたいな(失点に絡む)ケースは何度も経験し、味わってきた。そういうなかで、強い気持ちを曲げたことは一度もない。そうやって戦うこと、『鹿島の3番』の覚悟を決勝の舞台で見せられるチャンスを仲間が作ってくれた。3番の魂と覚悟を持ち、鹿島のDFは自分が中心なんだという想いで決勝に挑みたい」

 復帰からわずか10日で、浦和戦に続く先発となった昌子。失点はよくないけれど、熱量の高い試合をこなすことで、戦士としての感覚を一気に取り戻せるのかもしれない。

「今年ACLに初めて出ることになり、本当にいろんなことを経験している。決勝トーナメントでも上海上港や天津権健のアウェーを経験していたからこそ、アウェーの空気にのまれることなく、相手が来ても俺はずっと負けないという気持ちでやれたと思う。ACLは面白いですね。国を背負って戦う舞台は初めてなので、ワクワクする。このタイトルは鹿島の歴史に自分の名を刻めるチャンスだと思う」

 今季加入したばかりの安西が語ったのが印象的だった。

 過去、決勝に進出したJリーグ勢はみなタイトルを手にしている。鹿島がそれに続けるのか? クラブ20冠が悲願のアジア制覇となるのか? そのためにやるべきことは少なくない。決勝第1戦は11月3日ホーム、カシマスタジアム。Jリーグ柏レイソル戦を挟み、11日に敵地テヘランでの第2戦が待っている。




 スカウト歴24年。それは鹿島アントラーズの歴史そのものでもある。

 椎本邦一スカウト担当部長は、今年還暦を迎えたとは思えないエネルギッシュなオーラをいつも放っている。今も全国各地を飛び回り、将来、鹿島アントラーズを支える高校生、大学生を探している。1994年から現職につき、最初に手掛けたのは、1996年加入組からだ。その後、彼に見いだされ、クラブの一員となり、日本代表でも活躍した選手の名前を挙げればキリがない。

――ワールドカップロシア大会では、センターバックに昌子源、ボランチに柴崎岳、センターフォワードには大迫勇也と、椎本さんが獲得した選手が並びました。

「自分から何かを言うことはないけれど、それでも、ニタっと笑っていましたね。周りから『すごいね、椎本さん、全員に絡んでいる』と言ってもらえたりして。でも、いつも言うことだけど、獲得とか、獲ったというのとは違う。選んだのは僕らじゃなくて、選手だから。選手が鹿島を選んでくれたんです。言葉としては、僕も『獲得』とか『獲る』というふうに使うことはあるけれど、あまり好きじゃない。昔から、選んでもらうという意識です」

――最終的には選手に『選んでもらう』ということになるのでしょうが、どんな選手にオファーを出すんでしょうか?

「僕のベースにあるのは、1998年加入組の選手たち。あれくらいのレベルの選手が集まらないとチームは強くなれないと思っています」

――小笠原満男、曽ヶ端準、中田浩二、本山雅志ら6選手が加入した年ですね。ほとんどの選手が高校選手権に出場し、U‐18など日本代表候補でした。しかし、現在アンダーの日本代表のほとんどがクラブの下部組織に所属しているので、当時のようにはいかないですよね。

「まあ確かにそれは事実だけど、Jリーグのクラブがない地域の子どもたちは高校でサッカーをしているわけだし、高体連(高校体育連盟)に加盟している高校は4200校。絶対にいい選手は出てくるはずですから」




――だからこそ、全国をくまなく回っているんですね。何試合くらい見て決断するんですか?

「ケースバイケースだけど、たいていは、最初に見て、『コイツだな』と感じる選手じゃないとダメかな。その選手にストロングポイント、特長があるかというのが、僕のなかでは重要なポイントになっています」

――椎本さんは、選手のポテンシャルとか将来性について見抜いているように感じるのですが。

「そこは難しいところですよね。鹿島という環境、プロの世界で伸びるかどうかというところは、難しい判断。性格も関係してくるところだから。僕自身は、そういうポテンシャルはあまり意識して見ていません。身体の強さやスピード、技術、パスセンス……ポジション毎に違うけれど、そういう選手の強みを重要視しています」

――安部裕葵選手は、インターハイで数試合見て、オファーを出されたんですよね。

「視野が広くて、タッチのリズムが独特で、一目見て気になりました。でも、ちょうど、同じポジションで別の選手にオファーを出していて、それが断られたタイミングでした。あっちに断られたから、次はこっちというのは、本当に失礼なこと。だから先生にすべてを打ち明けたうえで話をさせてもらったら、『これも縁ですから』と言ってくれました」

――隠し事はしない。

「しない。嘘も言わない。すべてを正直に話す。ずっとそうやってきました。だから、いかに厳しい競争が待っているのかとか、もっとこういうところを伸ばすべきだ、ここが足りないからプロになったら苦労もあるよと、はっきり言います」

――すぐに試合に出られるというような甘い言葉はない。

「出られないと断言はしないけれど、出られると保証することは一切ないですね。だけど、厳しい環境のなかで絶対に引っ張られて、成長できる。そうすれば、2年後、3年後には主力に絡む選手になる。そんなベースを持つ選手だと信じて声をかけさせてもらっているわけですから」

――言葉は悪いかもしれませんが、あとは自分次第ということですね。

「『鹿島から声をかけてもらっただけで、自信になります』と言ってもらえることもあった。そのうえで、『すぐに試合に出られるチームへ行きたい』と断られることもあります」

――厳しいとわかっている環境へ飛び込めるか、そしてそこでやっていけるか。技術的には魅力があっても、性格的にどうかという部分の判断は難しいですよね。

「先生との信頼関係があれば、正直な話を聞かせてもらえるし、実際選手と話すことでわかる。(安部)裕葵と話したとき、僕のなかでは(柴崎)岳に似たものを感じました。自分を客観視する眼を持っているなって。成長するためには、そういう客観視できる冷静な眼と心が不可欠ですから。あと、プロ向きの性格かどうかというのもありますね。やっぱり、優しすぎる選手はプロの競争のなかでは生きていけない。『こいつを蹴落としてでも俺が』という欲は必要です」

――Jリーグへは行かず、海外のクラブへ入団するなど、選手の選択肢も増えていますね。海外のクラブがライバルになる。

「そういう時代になっていくんじゃないかな。2010年に宮市亮(現ブンデスリーガ2部・FCザンクト・パウリ)にオファーを出したときはアーセナルに負けましたからね(笑)。『やっぱり海外で挑戦したいです』と電話をもらって、そのあと、律儀に鹿嶋まで挨拶に来てくれて。『こういう世界だから気にするな』って言ったのに、本当に真面目な男。そのときはまだアーセナルに決まったわけじゃなかったけど、ヨーロッパで挑戦したいと、わざわざ伝えに来てくれたんです」

(つづく)

◆鹿島のスカウト担当部長は、 「安部裕葵に柴崎岳と似たものを感じた」(Sportiva)





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