日刊鹿島アントラーズニュース

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2018年10月21日日曜日

◆鹿島で優勝する術を学んだ山本脩斗。 「満男さんがそれを示してくれた」(Sportiva)



山本脩斗 Shuto.Yamamoto


遺伝子~鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学~(33)
山本脩斗 後編

◆土居聖真「ボールを持つのが 怖くなるほど、鹿島はミスに厳しかった」(Sportiva)
◆中田浩二「アントラーズの紅白戦は きつかった。試合がラクに感じた」(Sportiva)
◆中田浩二は考えた。「元選手が 経営サイドに身を置くことは重要だ」(Sportiva)
◆スタジアム近所の子供が守護神に。 曽ヶ端準とアントラーズの幸せな歩み(Sportiva)
◆曽ヶ端準「ヘタでも、チームを 勝たせられる選手なら使うでしょ?」(Sportiva)
◆移籍組の名良橋晃は「相手PKに ガックリしただけで雷を落とされた」(Sportiva)
◆名良橋晃がジョルジーニョから継ぎ、 内田篤人に渡した「2」への思い(Sportiva)
◆レオシルバは知っていた。「鹿島? ジーコがプレーしたクラブだろ」(Sportiva)
◆「鹿島アントラーズは、まさにブラジル」 と言い切るレオシルバの真意(Sportiva)
◆「ジーコの負けず嫌いはハンパなかった」。 本田泰人はその魂を継いだ(Sportiva)
◆「アントラーズの嫌われ役になる」 本田泰人はキャプテン就任で決めた(Sportiva)
◆ユースで裸の王様だった鈴木優磨が 「鼻をへし折られた宮崎キャンプ」(Sportiva)
◆鹿島・鈴木優磨のプロ意識。 いいプレーのため、私生活で幸運を集める(Sportiva)
◆岩政大樹の移籍先は「アントラーズと 対戦しないこと」を条件に考えた(Sportiva)
◆三竿健斗は感じている。勝たせるプレーとは 「臨機応変に対応すること」(Sportiva)
◆三竿健斗は足りないものを求めて 「ギラギラした姿勢で練習した」(Sportiva)
◆森岡隆三が鹿島で過ごした日々は 「ジレンマとの闘いだった」(Sportiva)
◆清水への移籍を迷った森岡隆三。 鹿島と対等での戦いに違和感があった(Sportiva)
◆安部裕葵は中学でプロになると決意。 その挑戦期限は18歳までだった(Sportiva)
◆安部裕葵は断言。「環境や先輩が 僕をサッカーに夢中にさせてくれる」(Sportiva)
◆ジーコが鹿島を称賛。「引き継ぎ、 やり続けたことが成果になっている」(Sportiva)
◆ジーコは意気込む。鹿島のために 「現場に立ち、構築、修正していく」(Sportiva)
◆山本脩斗の鹿島加入時の逸話。 「強化部も僕をよく知らなかったと思う」(Sportiva)


 10月14日。ルヴァンカップ準決勝第2戦、対横浜Fマリノス戦。ホームで終了間際の失点で1-2と敗れた鹿島アントラーズが決勝進出するためには、この試合での勝利が絶対条件だった。第1戦に続き、この日も鈴木優磨はベンチ外。休むことなくピッチに立ち続けた結果のコンディション不良が原因だろう。そしてセルジーニョも先発を外れている。しかし、ベンチには久しぶりに、昌子源、山口一真の名前が並んだ。

 20分に先制した横浜は34分にも追加点を決め、第1戦同様に大津祐樹を中心に攻守に渡るハードワークを保ったままの勢いがあり、押し込まれたような鹿島は精彩を欠き前半を終える。

「3点獲るぞ!」

 ハーフタイム、ゴール裏の鹿島サポーターの声がスタジアムに響いた。失点しないことが条件だが、3つのゴールが決まれば、4-4。アウェイゴールの差で鹿島は勝ち上がれる。勝利が義務付けられた試合での2失点。しかし、ここで、折れてしまうことは許されなかった。

 ボランチの永木亮太に代わり、セルジーニョがピッチに立ち、鹿島の攻撃のエンジンがかかる。後半16分にはサイドバックの山本脩斗に代わり、山口が出場。サイドMFだった安西幸輝がDFラインに下がる。

 今季阪南大学から新加入したルーキーの山口。リーグ戦では第6節で初ベンチ入り。第8節で途中出場したが、出場時間は15分のみ。第11節で26分間出場したものの、その後は10分未満の試合出場が5試合あるだけで、ベンチ外になることも少なくなかった。そして8月19日の第23節を最後にベンチ入りすらできなくなった。

 中3日、中2日で試合が続く過密日程では、トレーニングもコンディション調整が中心となり、紅白戦を行うこともままならない。それでも連勝を続け、走り続けるチームのなかで、山口は置いて行かれたように存在感が薄れていく。

「今まで高校、大学と自分中心のサッカーをやっていたけれど、プロというのは、チームという組織のなかで、選手は駒という意識も必要になってくる。自分がどういうふうに駒になっていくのかっていうのを考えなくちゃいけなかった。1年目っていうのは、そう簡単に出番が回ってくるものとは、加入する前から思っていなかったけれど、ほかのクラブの大卒の選手が試合に出て、活躍しているというのを耳にすると、すごく悔しかった。なるべくそういうのは、聞かないようにしていたけど、どうしても耳に入ってくるので。試合に出ていないときは、いろいろ悩んだし、考えたし、どうすれば試合に出られるかを毎日考えた。そういうなかで、人としてもいろいろ考え方とかが成長していると思います。

 自分が一番意識したのが、食事のこと。大学時代は、結構食事をするときに、ジュースを飲んでいた。でもそれだと脂肪がつくので、今は、お茶や水しか飲まないようにしたり、野菜中心の食生活をとるようにしたり、コンビニでお菓子を買わないとか、プロとして当たり前のことをやるようになった」


 レベルの高い環境に身を置いていることは自覚しても、思うように試合に出られない現実を素直に受け入れることも出来ない。同時に結果を残せていないからだという事実も理解している。「ここで腐ってはいけない」という気持ちは当然のように抱いていても、やり切れないという感情が当然のように芽生えるだろう。プロになるために必要だったプライドや勝気な性格が、厚くて高い壁を前にしたとき、邪魔になることもある。厳しさから逃げるのは容易だ。誘惑はいつもそばにある。そんなふうに揺れる心を抱えた選手を起用する甘さは、プロの世界にはなく、チャンスの扉が遠のくのを実感するだけで、ただただ迷路のような毎日が続く。

 山口にとってのプロ最初の夏は、そんな葛藤の日々だったことは想像できる。それは多くの選手が味わう空しさであり、迷いであり、戦いだからだ。

 差し伸べられた手を頼りに立ち上がったとしても、それは答えではない。自分の足で立ち上がり、強い意志と共に足元を見つめ、実直にできることを探し、それに取り組んでいく。レベルの高い場所へのチャレンジに葛藤はつきもの。小さな一歩を積み重ねていくしかできなくとも、前へ進むしかない。

 久しぶりのピッチに立った山口は、吹っ切れたように軽快なプレーを見せていた。その姿は頼もしく、夏前の山口よりも怖さがあった。

 後半17分土居聖真のゴールに続き、後半25分には、山口のパスから安西のクロスに反応したセルジーニョのヘディングシュートで2点目が決まる。2-2。あと1ゴールで勝ち抜けられる。後半39分、金森健志に代わり昌子がピッチへと送り込まれる。その直後にはコーナーキックのチャンス。昌子がサポーターを盛り上げるように両手を振った。

 何度も得点の匂いを漂わせながらも、結局あと1点が決められず、試合終了。鹿島のルヴァンカップが終わった。

 厳しい残暑が続いた2018年9月。鹿島は負けなしで走り続けた。しかし、秋の訪れとともに3戦未勝利。今季何度目かの正念場を迎えている。日々戦いの舞台に立つプロチームには、息をつく間はないのかもしれない。常に歓喜と落胆は背中合わせなのだろう。

 それは山口とて同じだ。壁をひとつ乗り越えただけで、安堵できるものでもない。乗り越えたと思った壁に足をとられる可能性だってあるのだから。

「今日チャンスが回ってきたんで。いつも出られない選手がたくさんいる中、僕がチャンスをもらえたので、出られない選手の分まで頑張ろうと思いました。少ない(チャンスの)なかで結果を出してこそのプロだと思うし。次は結果を出せるようにしっかり練習をしていきたいです」

 試合後、笑顔を見せることなく語る山口の言葉には重さがあった。


 このインタビューが行われた直後の9月9日ルヴァンカップ対川崎フロンターレ第2戦は、山本脩斗の2ゴールで試合を決めた(2016年シーズンのチャンピオンシップ対川崎戦での決勝ゴールとなる金崎夢生<現鳥栖>のゴールをアシストしたのも山本だった)。この試合から、公式戦7連勝。リーグ戦でも順位を上げ、ACL、天皇杯でもトーナメントで勝ち残っている鹿島アントラーズ。



 鹿島スタイルとも言える、サイド攻撃も冴え、堅い守備も復活。攻守に渡る鍵を握るサイドバックを担う山本。今年33歳となった男の覚悟を訊いた。

――移籍組だからこそ伺いたいのですが、外から見る鹿島のイメージは、どういうものでしたか?

「敵から見たら『嫌なチーム』ですよね。特にカシマスタジアムでの試合は、本当に嫌な雰囲気になるんですよ。したたかで敵から見るとズル賢い。たとえば、ポゼッションで言ったらそれほどボールを握っていなくても、拮抗した試合であっても、結果的に最後に勝つのは鹿島。そういうイメージがあるんです」

――鹿島アントラーズというクラブが持つ「カルチャー」みたいなものへ馴れるのに時間はかかりませんでしたか?

「ほかはジュビロ(磐田)しか知らないですが、アントラーズのような『カルチャー』と言えるものを持っているクラブって、そうそうあるものじゃないと感じています。ジュビロも黄金時代と言われたころには、それがあったのかもしれませんが、僕が在籍していたころのジュビロにはなかったから。ブレない柱みたいなものをクラブに感じたのは、アントラーズに来てからです。その柱があるから、ロッカールームやクラブハウス、そしてそこで働く人たちもブレずに仕事ができるんだと思っています」

――選手にとっては安心感に繋がるのでしょうか?

「大きいですね。迷ったというか、うまくいかない時に、『こうあるべきだ』という立ち返る部分があるというのは大きいと思います。それが『スピリット・オブ・ジーコ』だったり、『勝つために』という部分だと、個人的には感じています」


――たとえば、まずは守備からという守備意識。そして、サイドバックを活かした攻撃というのも鹿島らしさだと感じます。歴代サイドバックの名手を輩出している。

「確かにそうですね。でも単純にサイドバックだけでどうにかするというようなことではなくて、センターバック、ボランチを中心に、サイドハーフ、フォワードというそれぞれのポジションの選手との関係性が大事だということを感じましたね。繋がりがあるから活きるということです。リスク管理も攻撃も含めて、すべてが連動することで威力を増す。そういうなかで、サイドバックとして、育ててもらっています」

――鹿島に来て成長した部分というのは?

「今話した、周囲のポジションとの関係性への意識もそうですし、同時にコーチングですね。ジュビロ時代はセンターバックの声を聞いて動く、という感じでしたが、鹿島へ来てコーチングの大切さも知ったし、声を出すことで、楽というか効率的にプレーができると思うようになったんです。そこが成長できた部分かなと思います」

――在籍4シーズン半の間で、3人の監督のもとでプレーしてきました。監督が代わってもアントラーズの哲学は変わらない?

「スピリット的には変わりませんね。戦術面でもベースという部分での大きな変化はないけれど、選手起用や采配など、監督それぞれに微妙な違いは当然ありますね」

――「気持ち」問題。勝てないと「気持ちが足りない」と言われてしまったり、選手自身もその点を反省点として口にすることが多いですが……。

「チームとして強い気持ちをプレーに出すことは、勝利を目指す上で本当に大切です。サッカーは技術も大切だし、気持ちだけでは成立しないのも事実。それでも、最後に勝負を分けるのは、精神的な強さだったりしますから」


――この企画で鹿島アントラーズについて訊くと、「勝つことへのこだわりが強いチーム」という話になりますが、今季のリーグ戦で勝てない試合も多く、そのこだわりについての言葉を空しく感じることもありました。

「結果が伴わないと、いくら口で言っても説得力がないというのも事実ですが、鹿島はそこから逃げるわけにはいかないし、それを持ち続けなければいけない。だからこそ、サポーターからの要求の高さを日々感じているし、引き分けでブーイングになることもある。でも、勝利することが自分たちの責任であり、担っているものの重さを鹿島でプレーするこの4年間で痛感しています。確かにプレッシャーはあるけれど、それも鹿島アントラーズの一員としては当然だと思っているし、それによって自分が成長できていると感じているんです」

――リーグ戦では現在、3位に浮上しました(10月7日時点)。天皇杯、ACLもありますが、今季のタイトル獲得へ向けて、どんなふうに感じていますか?

「リーグ戦もまだ可能性は残っているし、ACLを含めたカップ戦も優勝が手に届く位置にあります。とにかく、ひとつひとつ、目の前の試合を勝ちとっていくことによって、自信を得ることで、先に繋がっていくから、続けていくしかないと思います。勝つことで、その経験が来季にも繋がっていくだろうし、やっぱり優勝して頂点に立つことは大きいですから。若い選手にとっても、優勝を経験できることで得られるものはたくさんあります。僕は移籍2年目の2015年にナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)で優勝できたことで、その喜びを知り、『また優勝したい』と思えるようになりました」

――優勝したい、そのためにどうすべきかを知ることができる。

「そうですね。勝ちきるという試合をしながら、90分間どう戦わなければいけないかを学べました。2015年ナビスコカップ決勝のとき、(小笠原)満男さんが、最初の開始10分、20分間で、それを示してくれたんです。今でもその姿や雰囲気、オーラは覚えています。それこそ強い気持ちというのを教えてくれた。試合に出ないと感じられないものなんだと僕は思ったし、決勝の舞台に立ったからこそ味わえた体験です。そういう意味でも、下の世代の選手に、それを見せなくちゃいけないし、その舞台に立つチャンスをクラブとして作らなくちゃいけない。言葉で伝えるというよりも、そういう経験を共に味わえるよう、ここから先も勝ち続けなくてはいけないと思っています」

――勝利でしか伝えられない経験があるということですね。

「このクラブにいる限りは、勝利を求められているし、僕自身もそれを求めていくつもりです」




◆鹿島で優勝する術を学んだ山本脩斗。 「満男さんがそれを示してくれた」(Sportiva)


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