
日刊鹿島アントラーズニュース
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2021年3月20日土曜日
◆Jリーグ審判が使う「シュッと消える」スプレー秘話 開発した鹿島&浦和の熱烈サポーターがこだわった“芝への影響”とは(Number)

29年目のシーズンを迎えたJリーグは、プレーヤーの技術、戦術だけではなく、道具の進化によっても支えられてきた。
2015年に導入された「バニシングスプレー」も、そのひとつ。
試合中、審判が腰につけているのがバニシングスプレー。フリーキックの際、泡によって壁やボールの位置を一時的にマーキングするために使用される。
バニシングという言葉は「消える」を意味するが、このスプレーが実際に試合から消したものがある。壁の境界をめぐる“紛争”だ。
フリーキックのとき、ファウルを犯したチームはボールが蹴られる地点から9.15m離れなければならない。だが守備側の選手が自分たちに有利になるよう、どさくさに紛れて前に壁をつくることがあり、審判や相手選手ともめる。
紛争がヒートアップするとイエローカードが出たりして、ゲームの再開は遅れていく。いいことはひとつもない。
この紛争が、スプレーの導入とともに激減した。シュッと出て、シュッと消えるバニシングスプレーは、さりげなくゲームの円滑な進行に寄与しているのだ。
熱烈な鹿島&浦和サポ「ぼくらもやりたいねえ」
現在、Jリーグで使われているスプレーは、実は15年に導入されたものではない。
Jリーグは当初、14年ブラジルW杯で使用された海外製のスプレー『9・15 FAIR PLAY LIMIT』を採用した。だが、1シーズンももたずに、10月で使用中止に。液もれなど製品の不具合が確認されたからだ。
1シーズンの空白期間を経て、スプレーは17年シーズンに復活するが、このときから使われているのが『FKマジックライン』。スプレー商品を中心とした化粧品・医薬部外品の企画、製造、販売を手がける国内メーカー、株式会社クイックレスポンスが開発したものだ。このFKマジックラインが“Jリーグデビュー”を飾るまでには、紆余曲折の物語があった。
Jリーグでのバニシングスプレー元年となった15年、クイックレスポンス社の悉知秀行と金丸竹治はいち早くこの商品に目をつけ、「ぼくらもやりたいねえ」と言い出した。というのも悉知は鹿島アントラーズの、金丸は浦和レッズの熱烈なサポーターだからだ。「消える魔法のスプレー」と呼ばれて話題になったスプレーをスタジアムで目の当たりにして、「これは黙ってられない」と職業魂に火がついた。
さっそく会社の代表に掛け合うと、「それならチャレンジしようよ」。あっさりゴーサインが出た。だが、ここから鹿島と浦和、呉越同舟の苦難の旅が始まる。
いきなりぶつかった特許問題「お先真っ暗」
手始めにバニシングスプレーのリサーチを始めたふたりは、いきなり天を仰いだ。海外製のスプレーが国際特許を取得していたからだ。類似品をつくると、訴訟になるかもしれない。弁理士と特許を精査しながらリサーチを続けるうちに、いくつかの同業他社がバニシングスプレーに興味を示しながら、製品化を断念したということもわかってきた。
それでもふたりは、試作品をつくってみることにした。だが案の定、特許の壁が立ちふさがる。
「あちこちの研究担当にお願いしたところ、“この特許は回避できないよ、ウチではつくれない”と言われて、ことごとく断られてしまったのです」(金丸)
「いきなり外堀を埋められたような状態になり、目の前が真っ暗になりました」(悉知)
それでもふたりは粘りに粘って、なんとか研究担当者の協力を取りつける。同業他社があきらめた厄介な案件。反対する製造現場をなかば強引に巻き込めたのは、ふたりがただただJリーグが好きだったからだ。自分たちの作った商品で、大好きな世界を盛り上げられるかもしれない――そんなピュアな思いで、いばらの道を切り拓いていった。だれかに命じられた仕事だったら、すぐに音を上げていたかもしれない。
芝の知見はゼロ、すべてが手探り
試作品をつくるにあたって、ふたりは自分たちがこれから作るバニシングスプレーのイメージを思い浮かべた。
「芝生に吐出する商品なので、芝に影響を与えないようなもの、もしくは芝を養生するものをつくれないかな。そんなものをつくることができたら、特許を取得できるかもしれない」(悉知)
そう思いながら、ちょっと待てよと立ち止まった。
「よくよく考えたら、スプレーを吹きかけたところだけ芝が伸びるって、果たしていいことなのか?」(悉知)
「むしろグラウンドキーパーに迷惑かけるかもしれないよね」(金丸)
スプレーを熟知するふたりも、芝の知見はゼロに等しい。商品開発は手探りの中で進んだ。
それでも“芝を養生する”という素人に近い発想は、商品開発の大きなモチベーションとなった。海外製のスプレーとは違う独自性を打ち出すことで、特許を取得する突破口が開けるかもしれない。
ふたりはひとまず試作品をつくり、近所の草むらに出かけて海外製スプレーと試作品のふたつを雑草にかけて経過観察を行なった。どちらも葉の色が微妙に黄変する、ということはわかった。
「我々が検討した製品はケミカル品という側面があるので、植物に与える影響が強いのでは、と考えました。とくに海外製品の成分はその傾向があるのではないかと」(悉知)
「ただ、自分たちでそのことを検証したところで、なんの証明にもならない。では、どうしたら海外製のスプレーより自分たちのものがフィールドにやさしいと証明できるか。それができないと話は進まない」(金丸)
ふたたび行きづまったふたりは、農林水産省に問い合わせた。すると農薬などの植物への薬害を調べる、日本肥糧検定協会という機関があることがわかる。ふたりは藁にもすがる思いで、肥糧検定協会にお願いした。
試験に使うのは小松菜?
「私たちはサッカーの芝に境界線を引くスプレーを試作していて、海外製のものと私たちの試作品で植物への影響がないかどうか、第三者が立証できるような試験をしたいのです」
すると、協会の担当者から意外な答えが返ってきた。
「それでは小松菜に噴霧して経時変化を見る、植害試験をしてみましょう」
「小松菜? なんで? と驚きました。でも、どうやら試験で使う植物は小松菜だと、国が決めているようです。植物の中でも繊細で、薬害の影響が顕著に出るらしく。とはいえ仮に小松菜で成果が出たとして、その結果がどれくらい意味があるものなのか、正直よくわからなかったのですが」(金丸)
ほかに道もないので、ふたりは半信半疑のまま小松菜での実験を始める。この実験では、自分たちでも試そうと用意した小松菜にカビが生えてしまうなど、思わぬアクシデントが相次いだ。
だが、この過程でスプレーの中身の成分のなにが小松菜に影響を与えるのか、ふたりは徹底的にチェックしていく。
「スプレーの中身には複数の成分を配合していて、例えば泡を立たせるための活性剤、菌の繁殖を抑えるための防腐剤などを処方しています」(悉知)
「その成分の、なにが葉に悪影響を与えているのか。自分たちで検討しながら、ある成分を抜いたり、減らしたり、別のものを加えたり、といったことをひたすら繰り返したわけです」(金丸)
「葉を枯らさないことが最重要課題ですが、そちらを追求することで泡の質が落ちてもいけない。そのバランスを保つことも非常に難しかったですね」(悉知)
ふたりは根気よく改良に取り組み、試作品の山と格闘しながら製品は徐々に改良されていく。繊細な小松菜を相手に試行錯誤を繰り返す中で、クオリティは納得できるレベルに到達。植害試験にも合格する。
収穫だったのは「審判」による助言
試作品に一定のお墨付きが与えられたことで、ふたりは商品開発と並行してJリーグへの提案を始める。
「ツテを頼りにJリーグの担当者にお会いすることができたのですが、ここからも大変でした。先方にとっては、我々はどこの馬の骨かわからないメーカーですから」(悉知)
「Jリーグとしては一度導入したものが思わぬ形で頓挫し、代替品を探していたようです。ただ、前に採用したもので問題が発生したこともあり、非常に慎重な姿勢でした」(金丸)
「とくに特許の取得については、“間違いないですよね?”と何度も念を押されました」(悉知)
Jリーグにアプローチする中で、経験豊富な審判にも意見をもらえるようになったのは大きな収穫だった。実際に海外製スプレーを使用した経験から、具体的な助言をいくつも得ることができたからだ。
例えば従来のものは地面近くで吹き付けることで、しっかりとラインを引ける設計。だが審判としてはかがんだりせず、よりスムーズに、またスマートに使いたいという。時間をかけたくないし、加えてヒートアップする選手たちと、しっかり目を見てコミュニケーションを取りたいからだ。
「審判の方々にとっては、選手と会話をしながら、かがまずにサッとラインを引けるものが望ましい。ですから我々はある程度の高さから、素早くしっかりとラインが引けるようにしました」(悉知)
「スプレーを腰につけるホルダーについても、有意義なアドバイスをいただきました。試合中に落ちない、仮に落ちて踏んだとしても、破片が散らばって選手をケガさせないような素材を選定しました」(金丸)
ベストピッチ賞の埼スタと日本平で
審判との意見交換を行なう一方で、芝を対象とした試験がいよいよ始まる。
小松菜での植害試験に合格したものの、芝の検証ができていないことに不安を感じたふたりは、除草剤などの研究、試験を行なう日本植物調節剤研究協会(植調協会)に問い合わせ、ゴルフ場で試験をしようと考えた。
だが、植調協会に相談する中で、思わぬ回答が得られた。
「サッカー場での試験もできますよ」
そのサッカー場とは、埼玉スタジアムである。
浦和レッズに加えて日本代表がホームゲームを行う埼スタは、2001年から16年まで設けられた「Jリーグベストピッチ賞」に4度輝いた日本有数のスタジアムとして知られる。
埼スタでの試験が間もなく始まるというとき、スタジアム開場以来、グラウンドキーパーを務めてきた輪嶋正隆から、悉知と金丸の元に連絡があった。
「“従来品ではやっぱり芝に悪影響が出る”、日本平のグラウンドキーパー仲間がそんなふうに言ってるんだ。だから、ぜひともふたりがつくったものを試してみようよ」(輪嶋)
寒地型芝の代表が埼スタなら、暖地型は清水エスパルスの本拠地、日本平が有名だ。ベストピッチ賞に輝くこと実に9度。もちろん最多記録である。
日本平の芝を管理する佐野忍は、あるときJリーグから届けられた海外製スプレーをグラウンドの隅に吹きかけ、経過観察を行なったことがある。
「ラインを引いてから30分放置して水で流し、それを5日間、観察しました。すると翌日、はっきりと茶色い痕が出ている。遠目に見るとほとんどわかりませんが、ある程度近くから見ると、だれが見てもわかる筋が。その痕は、5日経っても消えませんでした」
試験結果をレポートにまとめた佐野は、馴染みの輪嶋にも報告。
「審判はフリーキックの地点に半円を引き、それから壁の位置にラインを引く。1試合で多いときは10回くらいあるのかな。それが1週間近く残るわけです。Jリーグは中2、3日で試合をすることがあるので、このスプレーではラインが残ったまま次の試合がやって来る。テレビでも、かなり見栄えが悪くなりますよね」
完璧なグラウンド・コンディションの維持に努めてきた佐野にとって、従来品のクオリティは受け入れがたく、懇意にする埼スタの輪嶋にも伝えたのだという。
そうした流れがあって、クイックレスポンス社の試作品の試験が埼スタで行なわれることになった。埼スタの輪嶋は、こうした試験にはうってつけの人物だった。というのも、植調協会のスポーツターフにおける試験を行なった経験者だったからだ。
特許もクリア、全国のスタジアムでみっちり観察
埼スタはメインが寒地型芝だが、サブグラウンドには暖地型芝が植えられている。輪嶋はグラウンドの四隅に試験用のスペースを確保して、経過観察を行なった。
「普通の量と多めの量、2種類のラインを引き、その後の芝の変化をチェックしました。数時間後、意外と早い時間で芝の変色が確認されました。でも、ほんの少しの変化で、生育不良につながるようなものではない。私のような専門家でなければ、ほとんど気づかないような変化でした」
輪嶋によると、薬害の判定基準は「大」「中」「小」「微」の4段階に分かれており、クイックレスポンス社のスプレーはもっとも変化が小さい「微」だった。
「変化はごくわずかしか見られないので、実際に試合で使うことには問題がありません。ただ、わずかな薬害が出ることは知ったうえで使いましょうということですね」
埼スタでの1カ月の試験は上首尾に終わり、その間に最大の懸案だった特許の取得も決まった。
「多くのメーカーが早々と製品化を断念したのは、海外製スプレーの特許を回避するのは無理だと判断したからだと思います。しかし我々は、海外製の特許と差別化できる独自性の追求が、製品化につながると考えました」(金丸)
「特許をしっかりと読み込んで“ぼくらの考えは間違っていない”という感触もありました。自分たちの特徴である“芝への影響を軽微に抑える”という部分を強く打ち出したことが、功を奏したのだと思います」(悉知)
最大の山場は乗り越えたが、埼スタのグラウンドキーパー輪嶋は完璧を期してさらにふたりに提案した。
「埼スタでの試験だけでは十分だと言い切れないので、日本全国のスタジアムでの試験を検討してはどうでしょうか」
そこでふたりは、芝の種類や気候なども踏まえてのスタジアムの選定を輪嶋に依頼する。
輪嶋は佐野がいる日本平をはじめ、大分、神戸、新潟などを選定。8つのスタジアムで3カ月、みっちりと経過観察を行なった。もちろん、ここでも問題が起きることはなかった。
記念すべき“デビュー”の対戦カードは…
ふたりが『FKマジックライン』と命名した新しいバニシングスプレーは、2017年2月18日、日産スタジアムでのゼロックス・スーパーカップで待望の“デビュー”を飾る。
数々の苦闘を乗り越えたふたりをねぎらうかのように、鹿島と浦和という顔合わせとなった。
「この日ばかりは勝敗よりもスプレーのことばかり考えていて、“早くフリーキックになれ”と念じていました」(悉知)

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