日刊鹿島アントラーズニュース

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2022年5月31日火曜日

◆上田綺世はラウルと同じ”論理的思考”のストライカー。「小心者」だから「常に考えてサッカーをしている」(Sportiva)






――3年連続二けた得点ですが?

 5月29日、試合後の記者会見で、そう質問を受けた上田綺世(鹿島アントラーズ、23歳)は素っ気なかった。

「......(感想は)特にないです。今日は(3-1で)負けたので、それがすべて。勝つために点をとっていて、『3点とられたから4点入れないと勝てない』と思ったし、前回(サガン鳥栖戦も4-4で)も、もう1点必要だった。通算何点って、考えてないです」

 この日、FC東京との一戦では、3-0から上田が1得点し、反撃の狼煙を上げたが、それで終わった。3年連続二けた得点は、鹿島では90年代に長谷川祥之が記録して以来だが、「勝利」を土台にする彼のロジックでは意味を持たない。負けたから素直に喜べない、と意地を張っているのではなく、彼らしい論理的思考だ。

 JリーグのFWとして唯一、6月シリーズの日本代表に選ばれたストライカーの肖像とは――。

 上田はストライカーとしてはマイノリティと言えるだろう。

 ストライカーは、思考よりも本能的に答えに辿り着く選手が多いポジションである。スペインや南米では「生来的」とさえ表現されるポジションで、ストライカーは生来的才能を研ぎ澄ますことで境地に近づく。逆説的に言えば、「ストライカーとして生まれなかったら、どれだけ鍛えてもモノにならない」と、やや突き放した考え方だ。

一方、上田は論理的、思索的なアプローチをするストライカーと言える。これは守備的なポジションの選手によく見られる傾向だろう。

「自分は小心者です」

 法政大学時代のインタビューで、彼はそう答えていた。

「緊張するし、不安もある。めちゃくちゃ自信を持っているわけではない。だから考えて、かみ砕いて、整理が必要です。例えば、大学(入学)でさえも、不安で仕方なかった。自分は茨城からやってきて、全国のレベルがわからなかったので、場違いなんじゃないかって。入寮の日は緊張しました。大学1年で代表に呼ばれた時もそうで、言われた瞬間から毎日ゲロを吐くくらい緊張していました」

「常に考えてサッカーをする」

 順を追って考える。そのひとつひとつの作業には、過程として成功と失敗がつきまとう。それが自身を緊張させる。

 ストライカーの場合、失敗を引きずると次の失敗を誘発することがある。それだけに、失敗を悔やむよりも「次に成功してありあまる称賛を得られる」という楽観的メンタリティが好まれる。直感的な行動パターンと言えばいいだろうか。

 しかし、上田は思考で向き合う。考えることなしに、答えに辿り着かない。

「僕は常に考えてサッカーをしています。茨城の小さな世界だけで生きてきましたが、そこでも他人を観察して、なんとなくではありますけど、考えを確立してきました」

 論理的思考で大成したストライカーもいる。

 1990年代から2000年代にかけ、レアル・マドリード、スペイン代表で活躍、欧州最高のストライカーのひとりであるラウル・ゴンサレスは論理的思考の人だった。幼い頃から居残り練習で、いくつものシュートパターンをコーチと仕上げた。本能に頼らず、体にロジックを覚えさせている。また、週末は各カテゴリーの試合を1日中、見て回った。それぞれのストライカーの癖、パサーとの呼吸、ディフェンスの対応など、「自分がそこにいたら」と、いくつもの場面を疑似体験した。日本で言えば、中学1年生の頃から思考を重ねる日々だった。

 膨大なデータを取り込み、練習でパターン化し、実戦でその精度を高める。「同じ場面は二度起こらない」。それはサッカーの本質だが、一方で、人工知能が最も似た成功例をはじき出すように、オートマチックに最善の選択を下せるようになるのだ。

「僕はシュートを打つ時、選択肢を消去法で消していきます。先(の映像)を見るというか」

 上田はそう語っていた。

「例えば、左サイドの背後に出たボールで、GKと1対1に近い状態になるとします。僕の選択肢はだいたい4つ。ファーにゴロ、ニア、ループ、かわす。GKを見た時、瞬間的にニアは当たる、ループできない......バババッと、写真が頭の中に4枚あって弾かれるんです、たぶん、0.2秒くらいのなかで。それが自動的に起きればいいんですけど......」

 FC東京戦、左サイドから入ってきたボールを中で受けた選手が背後に落とした時、上田は落ち着いてポジションに入った。GKの立ち位置や動きを見極め、右足で左隅に流し込んでいる。滑り込むようにしてボールへインパクトを伝え、ややタイミングもずらしていた。実に冷静な一撃だった。

 上田は理論的で哲学的ですらあるが、そのプレー選択は本能的にも見える。つまり、そこまで思考が極まっているのだろう。相応のフィジカル、テクニックを身につけ、トップスピードでボールを受けながら相手に体を当てられても動じず、前を向ける(FC東京戦でも長友佑都を吹っ飛ばしていた)。3シーズン連続二けた得点などでは足りない。シーズン30得点は狙える実力だ。

 6月シリーズ、上田は代表選手として存在感を示せるか。論理的思考のストライカーが答えに辿り着けたとき――。カタールW杯で世界の度肝を抜くはずだ。





◆上田綺世はラウルと同じ”論理的思考”のストライカー。「小心者」だから「常に考えてサッカーをしている」(Sportiva)




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