[4.21 プレミアリーグEAST第3節 流通経済大柏高 2-2 鹿島ユース 流通経済大柏高G]
ピッチのどこにいてもわかるような存在感は、短く刈り込まれた初々しい髪型だけが理由ではない。常にゴールを狙い続けている姿勢は、極めて鋭い視線からも容易に伝わってくる。その上、もうプレミアリーグという舞台で結果を出しているのだから、やはり普通の高校1年生とは一線を画した才能を持っているということなのだろう。
「プレミアというのは高校の中の最高峰のリーグで、自分の思ったようにプレーができない時もありますけど、自分が得意としているところは点を獲るところなので、これからも点を獲り続けられるようにしたいと思いますし、このアントラーズの中で中心になってやっていきたいと思います」。
いきなりの2試合連続ゴールで早くもその実力を示し始めている、鹿島アントラーズユース(茨城)の40番を託された15歳のストライカー。FW吉田湊海(1年=FC多摩ジュニアユース出身)が磨いてきた得点感覚は、高校最高峰のステージでも眩い光を放っている。
「前半で2失点してしまって、悪い流れで自分たちのゲーム運びができない中で、自分にボールが入ってもあまりチャンスを作ることができなかったです」。吉田もそう振り返ったのは、アウェイに乗り込んで迎えたプレミアリーグEAST第3節の流通経済大柏高(千葉)戦。鹿島ユースは14分に失点を喫すると、25分には2失点目を献上。小さくないビハインドを負って、最初の45分間を終える。
ただ、40番は抜け目なく決定機を掴んでいた。20分。相手の最終ラインでのビルドアップが乱れると、ルーズボールに誰よりも速く反応してダイレクトでフィニッシュ。軌道は左のポストに弾かれたものの、何もないところから一瞬で得点の香りを漂わせてみせる。
ハーフタイムを挟むと、FW島田ビクトルゆうぞ(3年)が前線に投入されたことで、チームの戦い方もより明確に。「ビクトル選手にボールを集めて、そこから攻撃の起点になって、後半の立ち上がりは流れも良かったのかなと思います」と吉田も話したようにリズムを掴んだ鹿島ユースは、15分にMF福岡勇和(1年)のゴールで1点を返す。
同じ1年生のゴールに、この男も燃えないはずがない。「福岡選手が1点目を獲ってくれて、その流れで自分も『絶対に点を獲ってやる』という気持ちではいました」。3分後の18分。DF土橋竜之介(3年)がややラフに前方へ蹴り込んだボールは、吉田の“範囲内”へ落ちてくる。
「ロングボールが来た時に、前に12番の大きい選手がいて、ファウルギリギリだったとは思うんですけど、身体をぶつけて自分のボールにしました」。力強くボールを収めると、そのままグンと縦に持ち出して右足一閃。「1本目の右足のシュートはちょっとうまく当たらなくて、『入らないかな』と思ったんですけど、キーパーが弾いたボールが左足の方に来たので、空いていたニアに流し込みました」。左足で打った“2本目”のシュートはゴールネットへ滑り込む。
前節の市立船橋高(千葉)戦に続く2戦連発弾。絶叫しながら走り出す15歳へ、チームメイトたちも叫びながら駆け寄ってくる。「嬉しかったのは嬉しかったですけど、まだ同点ゴールだったし、次に点を獲れないと勝てなかったので、『まだ試合は終わっていない』という感じでした」という吉田はユニフォームのエンブレムにそっとキスすると、そのまますぐに自陣へと戻っていく。
以降は双方にチャンスもありながら、2-2のままでタイムアップ。試合が終わったことを告げるホイッスルを聞いた吉田は、その場に崩れ落ちて、しばらく立ち上がれない。「鹿島アントラーズというチームは常に勝利を求めてやっているチームで、まだプレミアで勝利がなくて、アウェイでもホームでも勝ちにこだわってやっている部分はあったので、勝ちたかったです」。このクラブに求められているマインドを、早くも強烈に滲ませるような感情の発露も印象に残った。
FC多摩ジュニアユース時代から周囲の耳目を集め、中学3年時の夏のクラブユース選手権では大会MVPと得点王に輝き、チームの日本一に大きく貢献。年代別代表にも招集され続けるなど、その才覚を高く評価されてきた吉田が、高校年代の進路先として選んだのは本人も「本当に伝統あるクラブですし、鹿島の熱い感じが自分は好きだったので、そこで選びました」と語る鹿島ユースだった。
中学卒業を前にユースの練習には合流していたため、ある程度の準備はできていたが、「プレースピードには最初の方に比べれば慣れてきたんですけど、『まだまだ自分に足りないところはあるな』と感じるので、そこをもっと高めてやっていきたいなと思っています」と自分の現在地も冷静に見つめている様子。高い向上心も言葉の端々に垣間見える。
チームを率いる柳澤敦監督は「これから世界で活躍するとなれば、1年生でもゴールを量産してほしいですし、まだまだ機動力の部分では物足りない部分も感じているので、そういったところはもっと成長してほしいなと思います」と課題に触れながらも、「キャラクターはいいですね。熱いですし、100パーセントで一生懸命やる選手で、『こっちが止めないと』というぐらいの選手なので、そういう選手が上に行ってくれればいいなとは願っています。基本的には純粋でかわいい選手ですよ」とも言及。実際に開幕から3試合続けてスタメンに指名しているあたりにも、指揮官からの信頼が窺える。
渡された背番号は40番。昨季はキャプテンの小倉幸成(法政大)が、一昨季はやはりキャプテンの下田栄祐(いわきFC)が付けていた鹿島ユースの特別な番号は、1年生へと引き継がれた。
「背番号は40番ということで、鹿島の中では重要な番号だと思うんですけど、自分は背番号を気にするよりも、常に鹿島の勝利に近付けるようなプレーをしていきたいと思っています。でも、40番を付けると気合が入るというところもあります」。気負うようなところはないが、自分がその番号を背負うことの意味はしっかりと理解しているようだ。
掲げた2024年の目標も頼もしい。「今年から鹿島アントラーズがプレミアに上がって、より高いレベルでプレーすることができますし、自分はトップ昇格を目標にしているので、プレミアも戦っていく中で、トップチームにより近付ける年にしたいなと思っています」。
鹿島アントラーズとともにキャリアを歩むことを決意した、15歳の楽しみなストライカー。プレミアのピッチでの躍動が続く、「100パーセントで一生懸命やる」吉田湊海の期待感、実にハンパない。
(取材・文 土屋雅史)
◆プレミア2戦連発の「100パーセントで一生懸命やる」1年生ストライカー。鹿島ユースFW吉田湊海が眩く放つハンパない期待感(ゲキサカ)