日刊鹿島アントラーズニュース
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2018年3月24日土曜日
◆中田浩二は考えた。「元選手が 経営サイドに身を置くことは重要だ」(Sportiva)
遺伝子 ~鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学~(4)
中田浩二 後編
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3月10日のJリーグ第3節・サンフレッチェ広島戦を0-1で落とすと、3月13日のACL対シドニーFC戦も1-1と引き分けに終わった鹿島アントラーズ。試合後、SNSにはサポーターの厳しい声が上がっていた。
シュート数では相手を上回りながらも、ゴールを奪えず、勝利を飾れない。鹿島の勝利を信じているからこそ、そのフラストレーションも大きい。共に戦っているという自負があるからこそ、チームを甘やかさない。彼らの声は熱く、そして真摯だ。そんなクラブ愛に溢れているのはスタンドを埋めるサポーターだけではない。長年スポンサーを務める企業もまた、鹿島とともに戦っている。
2014年に現役を引退した中田浩二は、ピッチを離れた今、それを強く感じていると話す。
大岩剛監督、柳沢敦・羽田憲司両コーチ、そして今季からは新たに佐藤洋平GKコーチが就任。ユースチームでも熊谷浩二監督が指揮を執(と)っている鹿島アントラーズ。かつての現役選手を指導者として起用することに以前から積極的だった。ブラジル人監督時代もOBの日本人コーチを置き、指導者育成に努めてきた。
そんな鹿島が初めてクラブの職員にOB選手を起用したのが、2015年から事業部でクラブ・リレーション・オフィサー(C.R.O.)を務める中田だった。
* * *
――現役引退後、指導者のキャリアを歩む人は少なくありません。そういうなか、ピッチという現場ではなく、クラブの職員として仕事を始めたのはなぜですか?
「サッカーに関わる仕事は、指導者だけではないだろうという思いがありました。日本のサッカーをよくしていくうえで、元選手が経営サイドに身を置くことの重要性を感じたんです」
――メディアやスポンサー、サポーターとクラブとを繋ぐC.R.O.を3年あまり務めての実感や手ごたえとはどんなものですか?
「たとえばスポンサーさんのもとへ行けば、とても喜んでもらえます。そこは元選手という僕の強みだと感じます」
――現在、トップチームをどのように見ていますか?
「客観的に見ています。練習を見る機会はあまりないですが、試合を見て、感じることがあれば、選手に声をかけます。特に若い選手。ちょっと悩んでいるのかなと思えば、クラブハウスで会ったときに自然と声をかける。そこは先輩という感覚かもしれませんね。
でも、僕は強化部でもないし、監督でもコーチでもないから。事業部の僕はチームに干渉する立場ではない。でも、元選手、元チームメイトということで、話しやすいことがあるかもしれないし。そこは、適度な距離を保ちながら、『どうなの? なんか元気ないじゃん』と声もかけられるので。
C.R.O.というのは、クラブと外部とのリレーションという役割でもあるけれど、クラブと選手とを繋ぐ仕事でもあるなと。
たとえば、事業部としては、スポンサーやサポーターとトップチームとの距離を近づけたいと考えるけれど、同時に選手の負担になることは避けたい。そういうときに、『ここまでなら大丈夫』とか、『これは難しいかな』という意見を出すこともできます。
基本は選手がサッカーに集中できる環境を維持することが重要ですが、サポーターやスポンサーなど、自分たちを支えてくれている人たちの存在を選手にも理解してもらいたいという気持ちもあります。だから選手サイドにも元選手として、意見を反映させながら、距離を縮めていくことができればと」
――今の仕事に就いたことで、そういう支えがあることを、改めて気づいた部分はありますか?
「そうですね。本当に応援してくれている。でも、選手との距離を感じている部分があるというのは、この仕事をしないとわからないことでした。同時にサッカー選手として生きていくことができるのは、いろいろな人の支えがあったからこそということも強く感じました。『いっしょになって戦っている人』の存在を選手にも伝えたい。そこは元選手だから話せることもあると思うので」
――今、新しい環境で、ご自身の力不足を感じるのはどんな点ですか?
「たくさんありますよ。確かにずっとサッカーをやってきたので、たとえば、エクセルやワード、パワーポイントなどをうまく使えるかと言われたら、そういう普通の人ができることができない。そして、プレゼンテーション力だとか、ファイナンスの知識もないし、ビッグデータから何を抽出するのかというような思考も弱い。実務能力はまだまだ足りないと思っています。
それを認識したうえで、時間はかかるだろうけれど、学んでいくしかない。元選手というバリューに頼っているだけでは、この仕事は続けられないという覚悟はあります。実務面で仕事ができないとなれば、迷惑をかけてしまう。そこは元選手だからといって、甘えられるわけじゃない」
――鹿島アントラーズというクラブは、事業面、経営面でも「攻めの姿勢」というか、スタジアムの指定管理者になったりと、いろいろなチャンレジをしているなと感じます。
「スタジアムの有効利用をはじめ、いろいろな施策、仕掛けをしていかないと生き残っていけないクラブだという自覚があります。30km圏内をホームタウンと考えると、鹿島は半分が海だし、人口も少ない。立地としては恵まれているわけではないので、チャレンジし続けなくてはならない。
先日、スペインのデポルティーボへ行ったのですが、町(ア・コルーニャ)の規模としては鹿島と変わらないけれど、ソシオが2万7000人もいる。鹿島はその10分の1程度ですから、まだまだやれることはあるんじゃないかと」
――フランスのマルセイユやスイスのバーゼルといった、ヨーロッパでの選手経験が、クラブ経営という面で武器にもなるんじゃないですか? サッカーが文化として根づき、スタジアムが街の中心地として機能しているさまを体験したのだから。
「特にバーゼルは、スタジアム内にショッピングセンターや老人ホームがあったりと、有効利用しています。そして、充実したVIPルームやサービス面での工夫も怠らない。日本はプロ化されて25年。100年を超える歴史のあるヨーロッパとすぐには同じようにはできないけれど、それを目指して歩んでいます。
でも、ピッチ上のサッカーだけでなく、経営、ビジネス面でもヨーロッパのクラブはスピード感を持ち、進化し続けています。だからこそ、競技者としてサッカーを学び、経営も学んだ人間が必要だと思うんです」
――今の立場でも「チームが勝つためになにをすべきか」という思考は重要ですか?
「もちろん。クラブチームというのは、トップチームだけでは成り立たない。それを今つくづく感じています。当然クラブを引っ張るのはトップチームです。そこを充実させるためには資金も必要です。だから、事業部としてそれを準備する。強化と事業の両輪をバランスよく回すことで、いっしょに戦っている。
スタジアムへ足を運んでくれるサポーターは、遠くからも来てくれます。バスを2、3時間乗ってきて、つまらない試合を見せるわけにはいかない。満足感を持って帰ってもらいたいし、それが愛着を生むはずです。いっしょに戦い、タイトルを獲れたときの興奮を味わってほしい。
トップチームが勝つために『自分は何をやらなくちゃいけないか』をみんなが考えています。それがジーコのいう”ファミリー”なんだと思います」
中田浩二は考えた。「元選手が経営サイドに身を置くことは重要だ」
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