【中古】なぜぼくが新国立競技場をつくるのか 建築家・隈研吾の覚悟 /日経BP社/...
両クラブの歴史と決勝戦の見どころ
(後藤 健生:サッカージャーナリスト)
2020年元日に開催されるサッカーの「天皇杯 JFA 第99回全日本サッカー選手権大会」決勝戦で鹿島アントラーズとヴィッセル神戸が対戦することが決まった。
天皇杯というのは、「第1種」(年齢制限なし)として日本サッカー協会に登録したすべてのサッカーチームが参加できるオープンな大会で、今年度(2019年度)の大会の予選はすでに2018年のうちに始まっており、2019年の春には都道府県代表が決定。その後、決勝大会からはシードされていたJリーグ勢が登場し、半年かけてようやく決勝戦進出の両チームが決まったのだ。
強豪チームが集まってホーム&アウェーの総当たりで優勝を決めるリーグ戦が各チームの実力を忠実に反映する大会であるのに対して、ノックアウト式トーナメントの天皇杯では「ジャイアントキリング」がしょっちゅう起こる。なにしろ、サッカーというスポーツは番狂わせが起こりやすい競技なのだ。
実際、今年の大会でも関東大学リーグの法政大学やアマチュアのジャパン・フットボールリーグの「Honda FC」(本田技研工業フットボールクラブ)がJリーグ勢を倒してともにベスト8まで勝ち上がってきた。
桁違いの資金力で補強を続けたヴィッセル神戸
そんな中で、準決勝を勝ち抜いたのはJ1で3位に入った鹿島と、8位の神戸だった。J1ではやや低迷した鹿島だが、やはり年に1つはタイトルを取りたいところ。なにしろ、鹿島はJ1リーグで8回、天皇杯でも5回優勝している常勝チームなのだ。一方のヴィッセル神戸はまだタイトルを獲得したことがない。
ヴィッセル神戸が、本格的に強化を始めたのは2004年に兵庫県出身の実業家、三木谷浩史氏が個人的に出資したクリムゾンフットボールクラブが経営に乗り出してから。2014年には三木谷氏率いる楽天グループが株式を取得すると、その後、元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキを加入させた。2017年にはFCバルセロナから元スペイン代表のアンドレス・イニエスタも加入(イニエスタは、21世紀の世界のサッカーで5本の指には入ろうというビッグネームだ)。
楽天グループは世界のビッグクラブの1つ、FCバルセロナのスポンサーとなって、「神戸をバルセロナ化させる」との触れ込みでビッグネームを加入させていった。
ただ、桁違いの資金力を使って補強を続けたものの、集めた選手が攻撃面に偏りすぎており、投下した資金ほどには戦績は上がっていない。今年も、当初はJ1リーグで低迷、J2降格の可能性すら囁かれていたが、シーズン途中でドイツ人のトルステン・フィンク監督が就任し、世界的なスターたちと新旧の日本代表クラスの選手たちが次第に噛み合ってきたところだった。
両クラブの共通点とは
つまり、天皇杯決勝は「古豪・鹿島」対「新興・神戸」という対決の構図となったのだが、対戦カードが決まってみると、両クラブの共通点も見えてきたように思える。
1つは、震災からの復興のシンボルとしての役割を果たしていることだ。
ヴィッセル神戸は「新興」のイメージが強いが、プロクラブとして発足したのは1995年に遡る。岡山県倉敷市にあった川崎製鉄サッカー部が神戸に移転する形でクラブが創設されたのが95年1月だった。そして、トレーニング開始が予定されていた1月17日の早朝に阪神淡路大震災が発生。練習場が使えなくなったり、筆頭株主だったダイエーが撤退したりと、クラブは発足早々に苦難の歴史を背負うこととなったのだ。
一方、鹿島も2011年3月の東日本大震災では被災地となった。本拠地のカシマサッカースタジアムが使用できなくなり、鹿島は東京の旧・国立競技場をホームスタジアムとして戦うこととなった。
また、製鉄会社にルーツを持つ点でも両クラブは共通している。
ヴィッセル神戸が川崎製鉄(現JFEスチール)サッカー部を母体としていたのに対して、鹿島アントラーズは住友金属工業(現日本製鉄)サッカー部から発展したチームだ。ともに、第2次世界大戦後の日本の高度成長を支えた製鉄会社、いわゆる「重厚長大産業」の象徴ともいえる大企業だ。
製鉄企業からネットサービス企業へ
話題は、ちょっと脇道に入る。
スポーツというものは本来は娯楽であり、それ自体が利益を生むものではなかった。そのため、高いレベルで競技スポーツを実践していくためには、強化費用として巨額の資金をどこかから募るしかない。頼れるのは、その国の中で「富」を独占する個人や集団である。
近代スポーツが始まった19世紀のイギリスやアメリカであれば、それは製造業を中心とする企業だった。「党」が権力を独占したソビエト連邦をはじめとする社会主義国では、「党」や党が主導する政府がスポーツを支えた。西側資本主義国に対する「体制の優位」をアピールするため、彼らはオリンピックでのメダル獲得に力を入れたのだ(最近の「ロシアのドーピング疑惑」なども当時の名残である)。
あるいは、中東の産油国では「富と権力」を独占する王族たちがスポーツクラブの出資者となって、互いの見栄の張り合いで豪華なスタジアムを建設した。また、中国ではバブルの主役である不動産企業が主な出資者となって、巨額の資金をスポーツに投じているし、韓国では財閥が各競技団体の後ろ盾となっている。
Jリーグが発足した1990年代前半の日本はちょうどバブル経済が弾けた時期だったが、世界第2の経済大国、日本をリードする大企業の力は圧倒的だった。松下電器(現パナソニック)や日立製作所を母体にガンバ大阪や柏レイソルが生まれ、トヨタ自動車や日産が母体となって名古屋グランパスエイトや横浜マリノスが誕生した。
そして、第2次世界大戦後の日本をリードしてきた製鉄業界からも住友金属工業を母体に鹿島アントラーズ、川崎製鉄を母体にヴィッセル神戸が生まれたのだ。
しかし、Jリーグ発足からすでに四半世紀以上が経過した現在、製鉄業は日本の経済を引っ張るような存在ではなくなっている。
ヴィッセル神戸の場合、21世紀に入って早い時期にIT系新興企業の総帥である三木谷浩史氏個人の出資を受け、その後、楽天グループの一員となった。また、つい最近の2019年7月には、「鹿島アントラーズの株式の60%以上が日本製鉄からメルカリに譲渡された」というニュースが流れた。
重厚長大産業の象徴のような製鉄業界を母体に発足しながら、日本経済の変化によって経営主体が様々なインターネットサービスを手掛ける楽天グループやメルカリに移っていったところも、鹿島アントラーズとヴィッセル神戸の共通点と言える。
決勝戦はどんな試合になるのか
最後に話題を再び決勝戦に戻そう。
「常勝軍団」と言われる鹿島だが、今季は負傷者や移籍で多くの選手が戦線を離脱した影響でかつてのような安定感は感じられない。天皇杯準決勝でもJ2の長崎に対してかなり苦戦していた。全盛期の鹿島では考えられないことだ。
一方、神戸はこのところイニエスタが絶好調で、決勝戦は引退を表明しているダビド・ビジャ(元スペイン代表FW)の最終戦というモチベーションもある。今の鹿島なら、神戸の攻撃力で崩せそうだ。だが、神戸も守備面では脆さがある。
つまり、どちらが勝つにせよ、互いの弱点を突き合って点の取り合いになるのではないだろうか。