日刊鹿島アントラーズニュース

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2019年6月24日月曜日

◆【ACL鹿島対広島│戦評&展望】衝撃のレオ・シルバ、広島が越えるべき壁(サカノワ)



レオ・シルバ Léo Silva


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試合開始から間もなくして、ゾッとした。

[ACL 決勝T1回戦-1st] 鹿島 1-0 広島/2019年6月18日/県立カシマサッカースタジアム

 スタジアムを包む熱量により、夜が深まっていくなかでも汗ばんでいくのを体感する。それは試合が終わった時に、ふと気付いた。まさに手に汗握るナイスゲームだったのだろう。

 試合開始から間もなくして、ゾッとした。

 ここからは負けたら終わり。一発勝負のカップ戦ならではの緊張感。立ち上がりのテンションは、リーグ戦とは少し異なる(ように感じた)。両チームともに主導権を握ろうと、球際で激しい攻防が続く。そこで徐々に中盤のスペースを自分のモノにしていく選手がいた。

 鹿島の4番、レオ・シルバだった。まさに「レオ=百獣の王」と言わんばかりに、敵を周囲に寄せ付けない。ボールを持って危険なゾーンに来れば、確実に奪い取る。そうして自らのスペースを確保し、試合自体をも鹿島が支配していった。赤とネイビーのユニフォームの選手のほうが多くいるような錯覚にも陥った。

 そしてチームとしての起点が定まったことで、セルジーニョも勇気を持って最前線から挑む。背後を突くボールを受けると、明らかに広島の守備陣を困らせていた。

 唸らされた。昨季のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)優勝に導いたブラジル人助っ人コンビは、しっかりこのACL決勝トーナメント1回戦に合わせ、コンディションを最高レベルに仕上げてきていた。

 昨季はリーグ戦で2敗を喫している。今季初対戦。ここからリーグ戦を含めた同一カード3連戦が続く。鹿島を毎試合取材しているわけではなく定点観測的に観てきたが、こうした大勝負に、申し分のない高いパフォーマンスを発揮してしまうところは、まさにプロの鑑だと痛感させられた(まだ第2戦を残すが)。

 そんな彼らに引っ張り上げられるように、あるいは後押しされるように、最近絶好調をキープする白崎凌兵も惚れぼれするような精度の高いプレーで攻撃にアクセントを与える。広島はボールの奪いどころを定めきれず、序盤からやや混乱しているようだった。

 すると――。俺を忘れるなよ、と言わんばかりに、土居聖真が間隙を突く。左サイドを突き抜けるドリブルからクロスを放って、24分、セルジーニョの先制点をもたらした。

 主導権を握った時間帯にワンチャンスを仕留める。勝負どころを、チームとして、誰もが見逃さなかった。

 一方、松本泰志と大迫敬介をコパ・アメリカに臨む日本代表で欠く広島だが、勝機はあった。とりわけ前半終了間際、何度か惜しいチャンスを作り出した。稲垣祥と川辺駿のボランチコンビも鋭い出足からチェックを怠らない。そのなかで、一度、レオ・シルバがそのプレッシャーに抗いきれず、ミスパスをしたシーンがあった。

 レオ・シルバも33歳になり、最近は欠場も少なくない。この日の先発も5月26日のリーグ13節のサガン鳥栖戦(●0-1)以来だ。それに暑さもある。1試合をパーフェクトにこなすことは、さすがに難しいはずだ。

 そのあたりを広島が突き切れるか。そのあたりが焦点になりそうだった。

 後半、グループステージ首位突破を果たす原動力にもなったアグレッシブなチャレンジで、広島が巻き返し図る。そんな構図がイメージできた。

 ところが、レオ・シルバは別格だった。





 逆にそんな意図を見透かすように、広島の素早いプレッシングをかわし、早めにボールを散らして、ボールの奪いどころとしての的を絞らせない。かと思いきや、広島ボールになれば、改めて牙を剥いて襲い掛かった。球際の厳しさは、むしろ前半より強度が高まったように感じた。あるいは、広島の選手たちのプレー精度が落ちたのか。

 そして試合終盤の82分、86分、稲垣が立て続けにイエローカードをもらい退場処分を受けた。そこで、カシマスタジアムでの90分間は、勝負あった、と言えた。

 ただし、鹿島の三竿健斗は「相手に退場者が出たあとの守り方などはもうちょっと上手くできたかなと思う」と振り返っていた。したたかな鹿島が”本調子”であれば、この残り4分とアディショナルタイム、抜け目なく2点目も奪っていたに違いない。トドメを刺すチャンスだった。

 実際、伊藤翔らがゴールに襲い掛かった。が、そこは広島も必死に耐え抜いてみせた。鹿島の1-0で”前半の90分”を折り返した。

「五分五分と言えるボールで、相手で競り勝っていたのはレオ・シルバぐらい。あとは決して負けていなかった。彼はやはりエクセレントな存在。(第2戦は)そこをどのように越えるか。越えた先に、ベスト8がある」

 広島の城福浩監督は試合後、悔しそうに語った。やはりピッチレベルでも、この日のレオ・シルバは特別だったと感じていたという。

 鹿島の選手たちは、改めてスコアレスから臨むぐらいの気構えだと誰もが声を揃えていた。

「1-0なんて、リードのうちに入らない。改めて0-0から戦う気持ちで入る」(土居)

 もう一つ、駆け引きがあった。永木亮太がサイドバックに入った「鹿島の右サイド」を、広島は柏好文らが徹底的に突いてきた。しかし永木は冷静に与えられたタスクをこなして切り抜け、最後はパワープレーに備え町田浩樹を投入させてホームチームが逃げ切りに成功。鹿島の大岩剛監督も「相手の攻撃に注意深く対応しながら、逆にウィークポイントを突いていく駆け引きをみせて、五分五分以上の戦いをしていた」と永木のプレーを評価していた。プラン通りのクローザー投入だったことも分かる。

 ”後半戦の90分”の第2戦、そのあたりの駆け引きもまた見どころの一つだ。

 広島は稲垣が出場停止になる。城福監督は柴崎晃誠や野津田岳らをどのように組み込んでくるのだろう。昨季アウェーのリーグ戦で広島に1-3で敗れていることについて、三竿は「その時は青山(敏弘)さんがいたから(今回と戦い方も異なっていた)」と語っていた。そのあたりの心理(苦手意識!?)をどう突くかもポイントになってくるか?

 史上初のACL2連覇を狙う鹿島が、見事と言える試合巧者ぶりを見せた。ただ、盤石とまでは行かなかった。詰め切れなかった、とも表現できる。ただ、その小さな差で上回り、一つずつ勝ち上がっていく大会であるのも確かだ。

 一方、「勝利」というターゲットを定めて戦える広島は、チームとしてのベクトルを向けやすい点ではメリットもある。

 鹿島が改めて勝負強さを見せつけるのか、広島がいろいろな意味で新たなるステージへ向かうことができるのか――。ACL決勝トーナメント1回戦のセカンドレグ、広島対鹿島は、6月25日午後7時から広島広域公園陸上競技場で行われる。

取材・文:塚越始
text by Hajime TSUKAKOSHI


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