フットボールサミット サッカー界の論客首脳会議 第16回 それでも「内田篤人」が...
クラブ史上における、一大転換期を迎えている鹿島アントラーズ。経営権がどこに移っても、主力が大量に移籍してしまっても、内田篤人をクラブに関わる皆が待ちわびているということに変わりはない。
新旧の経営陣だって、海を渡った若手たちだって、内田の全力の、全開のプレーを早く見たいという思いは、だれもが持っているはずだ。
あらためて振り返ると 、内田は昨季いっぱいで引退した小笠原満男のあとを引き継ぎ、今季から主将に就任した。サッカースタイルにおいてもそうだが、過去からの一貫性、連続性を重んじるというのが鹿島のカラーであるように見える。
主将になるといっても、本人がなりたいからなるというのではなく、周囲からそのカラーの守り手として認められて引き継ぐというものだ。だから、精神的な重さが他チームのそれよりも重いのではないかと思う。
ただ、役割を担ったは良いが内田はここまで、Jリーグでは出場4試合、ACLではベンチに2度入っただけだ。
3月30日に行われた磐田戦での接触により、再び右ひざを負傷した。当初はもう少し早い時期での復帰が予想されていたが、その期待をよそに時間はかかり、7月に入ってようやく全体練習に合流。7月29日に紅白戦で初めてプレーできたばかりという段階だ。夏明けごろの公式戦復帰を目指すのだという。
怪我をするたびに思うんだけど。
紅白戦に入った感想は、
「うーん、ま、こんなもんかな」
というところだったという。そんな風にあっさりしているのはいつもの内田だ。
ただ、やはり負傷離脱には忸怩たる思いが常につきまとう。
「怪我をするたびに思うんだけど、チームを離れたくないなって。(監督・大岩)剛さんも(強化部長・鈴木)満さんも、“何をしてるんだ”って思っているだろうし、なによりいつも一緒にやってないと、周りに思ったことを強く言えないんだよね。監督とかスタッフはそれでも周りに言ってくれ、っていうんだけどねえ……」
今の俺に文句言える人って……。
ドイツで7年半プレーし、鹿島に復帰するにあたって内田に求められたのは欧州トップレベルでの経験の還元でもある。それなのに、怪我をしてピッチを離れていてはチームメイトを見ていて思うことがあっても強く言えない。
これが海外にいれば違う。おもしろいことに外国人選手は、自分が思ったことであれば立場などどうであっても、思ったことをどんどん口にする。ただ、日本ではそうではない。
「リハビリやっててさ、若い奴らと練習してたりするとさ、やっぱり紅白戦とかちゃんとやってるやつじゃないと発言権ってないよな、って思うんだよ」
プレーができないだけでなく、具体的なアドバイスはおろか思いも伝えられない。
自分の発言にどうしても慎重になってしまう。それは立場が強いからでもある。年長者であり、主将であり、圧倒的なキャリアを誇る先輩なのだ。
「今の俺に文句言える人っていないんだよね。わがままを言えちゃう。だからその分、気をつけないと。もし俺が若手だったら『何言ってんだ、お前』って(先輩に)言ってもらって、それで終わりだと思うんだけど、そうもいかないしさ」
過去にはない悩みが1枚上乗せされている感じである。
いっつも難しいところを怪我する。
今回の膝の負傷は、予想以上に重かった。右ひざや周辺の骨や靭帯の複数箇所を同時に痛めた。
「ドクターからさ、いっつも難しい、症例の少ないところばっかり怪我するって言われるの。もっと簡単なところ怪我すればいいのに、って」
といって笑う。そういった治療の難しい箇所のけがだからこそ、復帰まで毎回長引くのだと思うと本来は笑えることではないのだが、どうにもならないことは笑ってしまうのが内田だ。
試合をしなきゃうまくならない。
今後の方針は、明確だ。
「練習で怪我をしたくない。このキャリアになって、もう練習を100%の力でやってうまくなるっていうことはないし、試合をしなきゃうまくならない。
だから練習では怪我をしないようにして、コンディション調整はチームとは別にやって、試合にもっていけるようにっていう感じ。剛さんも『できるだけチームから離れないで』って言ってくれるからさ」
現役選手はピッチにたってこそ、でもある。苦しいのは本人だが、それでも「もがいているし、もがきたい」のが内田なのだ。
右サイドを駆け抜ける姿を想像しつつ、夏が明ける頃を待ちたい。