ゴールに直結する仕事も遂行
史上初の元日での日本代表戦となったタイ戦。直後に控えるアジアカップを視野に入れ、チームの底上げが求められる一戦だった。
代表経験の浅い選手中心の陣容で、コンディション面のバラツキもあり、前半の日本は思うようにゴールに迫れず苦戦。キャプテンマークを初めて巻いた伊東純也(スタッド・ドゥ・ランス)の圧倒的な個の力ばかりが際立つ印象だった。
2024年の幕開けの試合で停滞した状況を続けられない。森保一監督は後半のスタートから堂安律(フライブルク)と中村敬斗(スタッド・ドゥ・ランス)を投入。堂安が中央のポジションで細谷真大(柏)や伊東と好連係を見せつつ、攻撃をテコ入れし、田中碧(デュッセルドルフ)の先制弾を引き寄せる。
そして勝負を決定づけたのが、72分の中村のチーム2点目。この場面で光る動きを見せたのが、ボランチで先発した佐野海舟(鹿島)だった。
中村とパス交換した彼は、機を見てペナルティエリア左奥に侵入。ボールを受けると鋭いマイナスのクロスを送った。これが南野拓実(モナコ)に通り、シュートにつながり、GKが弾いたボールを中村が押し込んだのだ。
このシーンのみならず、佐野の縦への配球、攻撃のお膳立てへの意欲の高さは目を引いた。前半は主に中盤の底に位置してセカンドボールを拾い、組み立てることに比重を置いていたが、後半は前に出ていくシーンも増加。ゴールに直結する仕事もできた。
「バランスを見ることを意識しながら、上がっていける時は上がっていかないといけなかった。ゴールにつながる上がりができたのは良かったです」と本人も安堵感をのぞかせた。
2023年に町田から鹿島に赴き、岩政大樹前監督に重用された佐野は、これまでボール回収力、対人守備の強さなどディフェンス面が注目されがちだった。しかしながら、11月に日本代表に初招集され、遠藤航(リバプール)や守田英正(スポルティング)ら主力ボランチ陣の攻守両面の強度、鋭さ、的確な判断、発信力を目の当たりにし、「このままじゃいけない」と意識が劇的に変化したという。
それが今回のタイ戦に表われた。鹿島の先輩・柴崎岳を彷彿させるような攻撃的パフォーマンスを披露し、フル出場で5-0の勝利に貢献。ライバルと目された川村拓夢(広島)、伊藤敦樹(浦和)を抑えて、カタールで開催されるアジアカップのメンバー入りを果たすことに成功したのである。
タイ戦後に森保監督が発表した26人のリストには、タイ戦でボランチコンビを組んだ田中碧が不在。トップ下、インサイドハーフ、ボランチをこなせる鎌田大地(ラツィオ)も選外となった。代わってマルチプレーヤーの旗手怜央(セルティック)が入ったが、本職のボランチは遠藤と守田、そして佐野だけだ。
DF陣に渡辺剛(ヘント)が加わったことで、板倉滉(ボルシアMG)と冨安健洋(アーセナル)の怪我の具合次第ではあるものの、板倉や谷口彰悟(アル・ラーヤン)をボランチに上げる余裕も生まれたのも確か。
だが、やはり本職には本職としてタスクを確実に遂行してもらわなければいけない。佐野にかかる責任やタスクはより大きくなるのだ。
「(アジアカップに)入ったらやるしかないし、入れなくてもやるべきことは変わらない。どうなったとしても、自分がやることをブラさずに成長していきたい」と、本人は地に足を着けて取り組んでいく構えだ。
が、万が一、遠藤や守田にアクシデントが生じた場合は、佐野がチームを担っていくくらいの覚悟と統率力が求められる。そこは偉大なキャプテン・遠藤から学ぶべきところだ。
「航さんはずっと見本にしています。ただ、自分の奪い方があると思うので、自分の像っていうのをもっともっと作っていければいい。身体が大きくない分、駆け引きで奪うところで勝負しないといけないですね。
守備で良さを出さないといけないし、攻撃の部分でもできることを増やしていく必要があると思います」と佐野自身も語っていたが、アジアカップの約1か月間で世界基準に近づければ、森保監督も躊躇することなく、彼を大一番に送り出せるようになるだろう。
2019年UAE大会を振り返っても、ボランチのアクシデントが続発。大会前に守田が離脱し、塩谷司(広島)を追加招集したものの、冨安を初戦でボランチ起用する事態に陥った。途中には青山敏弘(広島)が離脱。最終的には遠藤も怪我をしてしまい、決勝のカタール戦で不慣れな柴崎・塩谷コンビのギャップを突かれて敗れるという結末になっている。
それだけボランチというのはチームの命運を左右する重要ポジション。何が起きても絶対に安定感を欠いてはならない。第3のボランチに浮上した佐野は、自身が担う役割の重みを今一度、頭に叩き込んでカタールに向かうべきだ。
今回の代表活動に帯同した中村憲剛ロールモデルコーチから指導された「常に首を振って情報を収集しながらプレーする」ことを体得し、多彩な仕事をこなせる佐野海舟へと変貌を遂げてくれることを、大いに期待したいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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