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かつてのナイーブな姿はもうなかった。筋肉の鎧をまとい、華奢だった以前とは見た目がすっかり変わっているDF内田篤人(シャルケ)。背番号2は、気づけば心にも良質の筋肉を付けていた。
2月に負った右太腿裏の故障は、ドイツのスポーツ医学界の権威である3人のドクターからそろって「手術」を言い渡されるほどの重傷だった。けれども、内田にはその場で首肯するわけにはいかない理由があった。4年越しのW杯出場への思いだ。
一縷の望みを託して緊急帰国し、検査を受けた結果、手術を回避する選択肢を手に入れることができた。ただ、それでも再発のリスクとは薄い壁一枚を隔てた程度の距離だった。
必死に始めたリハビリで、新たな仲間を得た。世の中は広く、深かった。分かっていたつもりだったが、それ以上だった。
「再発したらオフに入るだけ」と開き直り、スタッフとの連係でリハビリに邁進しながら、一方でメンタルコントロールだけは自分の作業であると心して取り組んできた。
14日のコートジボワール戦。内田は復帰後初めて90分間プレーした。右サイドでのプレーは及第点以上の躍動感があり、相手にしてやられた感のあるザックジャパンにおいて数少ない光明が内田だった。その彼が言った。
「ここにメンタルもコンディションも合わせるというのはもう分かっていることじゃないですか。(6月)14日に初戦があるって、何日前から決まっていたんですか。コンディションに関してはスタッフがピッタリ合わせてくれましたけど、メンタルの部分は自分で持っていくしかないですからね。そのための準備は何日前からできることなんだと。僕はそういうことは不得意だとは思っていないですから」
合わせるべき日にメンタルを整えていくのは、自分でなければできないこと。加えて「相手が強ければモチベーションもあるし、そういう戦いをずっとしてきましたから。ダービーもやったし、欧州CLもやったし。経験を出せた? 出せたんじゃないですか。ここで出さないと、もったいないでしょう」
ギリシャ戦に向けても内田の心はすでに突き抜けている。
「ギリシャは人に強く行くのは得意なチームであり、カウンターの良いチーム。引く時間帯があっても悪いことではない。試合の中でどう考え、どう表現していくか。それも実力だと思う」
コートジボワール戦では本田とのワンツーから右サイド深くをえぐり、惜しいシュートを打つ場面もあった。しかし、勝負には負けた。そして、泣いた。
W杯2戦目となるだろうギリシャ戦。内田は初戦以上の力強さを見せてくれそうだ。
(取材・文 矢内由美子)