日刊鹿島アントラーズニュース

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2016年12月22日木曜日

◆昌子源、激動の1ヶ月で学びとった鹿島の伝統。「『いい試合をした』じゃあ意味がない」(フットボールチャンネル)


http://www.footballchannel.jp/2016/12/21/post191059/

Jリーグチャンピオンシップ制覇から、FIFAクラブワールドカップ準優勝へ。今シーズンの終盤戦で圧倒的な強さを誇った鹿島アントラーズで、ひときわ大きな存在感を放ったのが昌子源だ。クラブ伝統の「3番」を託されて2シーズン目で、Jリーグのベストイレブンにも初めて選出されたディフェンスリーダーは、26日間で7試合にフル出場を果たしたなかで何を感じ取ったのか。昌子が残した言葉の数々から、成長著しい24歳が残した戦いの軌跡を追った。(取材・文・藤江直人)



アントラーズの伝統とは何か

 深紅のユニフォームを漆黒のタキシードに着替えて、鹿島アントラーズのDF昌子源は壇上にあがった。スタジアムのカクテル光線とはやや趣が異なる、華やかなスポットライトが緊張感を高めたのか。

 司会進行役を務めるサッカーに造詣の深い俳優、勝村政信から質問を投げかけられる。いきなり噛んでしまい、見守っていたチームメイトたちを苦笑させたが、思いはしっかりと伝えることができた。

「この賞を受賞するときに、まずはチームメイトの顔が浮かびました。僕一人での賞ではないので、まずはチームメイトに感謝したいと思います」

 20日夜に横浜アリーナで行われたJリーグアウォーズ。2016シーズンのJリーグを締めくくる晴れ舞台で、昌子は年間王者・アントラーズからただ一人、ベストイレブンに選出された。

 アントラーズからは、Jクラブのなかでは最多となる通算20人目の選出。背番号3の系譜に名前を連ねるクラブのレジェンド、秋田豊と岩政大樹に個人タイルの部門で肩を並べることができた。

 昌子自身も手応えを感じていたのだろう。レアル・マドリー(スペイン)とのFIFAクラブワールドカップ2016決勝を終えた直後。横浜国際総合競技場の取材エリアで、こんな言葉を残している。

「成長したな、と自分でも思うけど、ここにきて成長したわけではない。僕は今シーズンのJリーグを通して成長してきたと思っているし、だからこそ集大成となる試合で、チームを勝たせることのできる選手にならないといけなかった。秋田さんや(岩政)大樹さんは、そういう選手だったと思うので」

 年間勝ち点3位からの下克上を成就させたJリーグチャンピオンシップ。そして、未知の敵を次々と撃破したFIFAクラブワールドカップ。26日間で計7試合、延長戦をひとつ含めた660分間にフル出場してきたなかで、昌子は心のどこかで常に自問自答していた。

 アントラーズの伝統とは何か――。ディフェンスリーダーの証である背番号3を継承して2シーズン目。レギュラーシーズン後の大舞台に初めて臨むうえで、自然と芽生えた疑問でもあった。



CS準決勝直前に見た岩政の映像

 川崎フロンターレのホーム・等々力陸上競技場に乗り込んだ、11月23日のチャンピオンシップ準決勝直前のこと。普段は好きな音楽を聴きながら集中力を高めるはずが、まるで何かに導かれるかのように動画投稿サイト『YouTube』を開き、ある試合の映像をクリックした。

 自身が入団する前の2009年12月5日。アントラーズが前人未踏のリーグ3連覇を達成した浦和レッズとの最終節で、鬼気迫る表情でプレーしている岩政の一挙手一投足に目を奪われた。

「試合終盤は押せ押せになった浦和を鹿島がことごとく跳ね返して、結局はゼロに抑えて優勝した。確か高原(直泰)さんが放った決定的なシュートを、大樹さんが一歩寄せて、左足に当てて防いでいた。あの時間帯、あの場面で左足が出るなんて、もう奇跡としか言いようがない。何が大樹さんを動かしていたのか。あれが鹿島や、あれが鹿島の3番やと思いましたね」

 図らずもメディア上で名前を出された岩政から連絡をもらったこともあり、チームを勝たせる存在になるためのチャレンジへ、タイトルを取らせるための戦いへ、モチベーションはさらに増した。

 レッズの先勝で迎えた、今月3日のチャンピオンシップ決勝第2戦。開始早々に1点を失い、迎えた前半26分に、おそらくは語り継がれていく伝説のシュートブロックが生まれた。

 高い位置でボールを奪われ、前線のMF武藤雄樹へスルーパスが通される。ノーマークの状態でシュートを放った武藤の死角から、トップスピードでブロックに飛び込んできたのは昌子だった。

「一歩遅れたのでダメかなと思いましたけど……ここで僕が届かんかったらもう試合は終わりやと、本当に気持ちだけで滑ったし、そうしたら微妙に足の先に当たってくれた」

 からくもコーナーキックに逃れた場面を境に少しずつ試合の流れが変わり、前半40分、後半34分のFW金崎夢生の連続ゴールにつながった。年間王者を手繰り寄せたタックルといっていい。

クラブW杯で見せた「試合巧者ぶり」

 劇的な勝利の余韻が残るなか、埼玉スタジアムのロッカールームから試合後の取材エリアに向かいながら、昌子はメディアから投げかけられる質問を具体的に思い浮かべていたと笑う。

「鹿島の伝統とは、と聞かれるんやろうなと思っていたんですけど……プレーしている僕らも正直、わからないんですよね。でも、こうやって勝ったからこそ鹿島やと思うんだけど、これで浮かれてクラブワールドカップの1回戦で負けたりでもしたら、それこそ『何や、お前ら』となりますからね」

 1回戦でオークランド・シティ(ニュージーランド)、準々決勝でマメロディ・サンダウンズ(南アフリカ共和国)、そして準決勝でアトレティコ・ナシオナル(コロンビア)と、異なる大陸王者を撃破したクラブワールドカップ。アントラーズの戦いには“ある傾向”が顕著だった。

 前半は劣勢に立たされ、後半になるとまるで別のチームが戦っているかのようにピッチのうえで躍動する。実際、3試合であげた7ゴールのうち、6つを後半になってあげている。

 すべての試合で、昌子をして「寝る間を惜しんで分析してくれた」と感謝させた、小杉光正テクニカルコーチが弾き出した対戦相手の隙や弱点を頭に叩き込んで前半のキックオフを迎えた。

 そのうえで感性をフル稼働させて、実際に対峙した相手の“生きた情報”をインプット。微修正を加えながら後半で圧倒するパターンは、アントラーズ伝統の「試合巧者ぶり」そのものでもあった。

 もっとも、18日の決勝だけは例外だった。相手は銀河系軍団と畏怖されるヨーロッパ王者。スーパースターのFWクリスティアーノ・ロナウドは左ウイングを主戦場としながら、ゴール前、そして右サイドとアントラーズにとって危険なすべてのエリアに神出鬼没で現れては脅威を与えてくる。

「(西)大伍君あたりがロナウド選手とバチバチやって、僕はワントップの(カリム・)ベンゼマ選手なのかなと思っていたけど、一番やらなあかんのは僕かなと。そこはしっかりと覚悟したい。対策? まったくないです。対策を練っても多分、意味がないやろうなと思うので」



 決勝前日にこう語っていた昌子だが、何も白旗をあげていたわけではない。これまでの戦いを通して積み重ね、シーズン終盤に入ってさらに磨き上げた感覚や経験で対処する。思い描いてきたシーンが現実のものとなったのは、2‐2で迎えた決勝の後半42分だった。

 アントラーズの攻撃をしのいだレアル・マドリーが、電光石火のカウンターを仕掛ける。ベンゼマの縦パスに抜け出したのはロナウド。対峙するのは自分だけという絶体絶命の状況で、昌子はうかつに飛び込むことなく、絶妙の間合いを保ち続けながら下がっていった。

 そして、ペナルティーエリアの目前で、ボールがロナウドの足からわずかに離れた瞬間に素早く体を入れて、背番号7の自由を奪う。MFイスコがフォローにきたが、プレスバックしてきたMF永木亮太との共同作業で、ファウルを犯すことなくマイボールにしてみせた。

 7万人近い大観衆で埋まったスタンドを熱狂させたシーンは、年間王者をかけて戦ったライバルたちの胸をも熱くさせた。Jリーグアウォーズで歴代最年長の36歳で最優秀選手賞を受賞した、川崎フロンターレのMF中村憲剛は昌子に頼もしさを感じたという。

「試合ごとに成長していく姿を見ていましたけど、特にレアル・マドリー戦では『最後は自分が守る』という気概を感じました。これだけたくましい日本人のディフェンダーが、若い選手のなかから出てきたことを、率直に嬉しく思いますね」

 ともにベストイレブンに選出され、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に率いられる日本代表では、センターバックのポジションを争うライバルとなるレッズのDF槙野智章も昌子への賛辞を惜しまない。

「代表チームではハリルホジッチ監督から前へ出る守備、ファウルをしないでボールを奪う守備を僕たちディフェンダー陣は求められているけど、その意味で大会を通してMVP級の活躍をしたのは昌子選手だと僕は思っています」

 もっとも、当事者である昌子自身は、ロナウドを封じたシーンを含めて、アントラーズが一時逆転してからは本気モードになったレアル・マドリーと対峙した120分間をこう振り返る。

「あの場面は別にロナウド選手どうこうじゃなくて、あそこで僕が抜かれたら失点なので。相手が誰だろうと、意地でも止めるしかなかった。見ている人は『けっこうできたんじゃないか』と思うかもしれないけど、やっぱり負けたら意味がない。

満男さんが『負けたら2位も最下位も一緒』とよく言うのは、このことなのかと。優勝して初めて成長した、初めていいディフェンスだったといわれると思うので」



 日本中を熱狂させた一戦を終えて瞬間に抱いた思いこそが、実は昌子が抱いてきた疑問に対する答えなのかもしれない。相手がレアル・マドリーであろうが、戦うからには必ず勝つ。ミニゲームでボールを取られただけで顔を真っ赤にして激怒し、再戦を要求した神様ジーコの姿を通して黎明期に伝授された“負けず嫌いのDNA”が、21世紀のいまもなお伝統として脈打っている。

 だからこそ、レアル・マドリーに善戦したという結果に満足できない。最終的にはロナウドにハットトリックを達成されて、引き立て役に回った。最強軍団の本気を引き出した、と言われも「それが目標じゃないから」と昌子は一笑に付す。

「特に鹿島というクラブは、『いい試合をした』じゃあ意味がないんです。かなり大きな差があるとは思うけど地道に努力を積み重ねていって、今回のように『惜しかったけど負けちゃったね』という覚えられ方ではなく、いつかは『レアルに勝ったチーム』として、鹿島の名前を世界に広めたい」

 Jリーグアウォーズから一夜明けた21日、アントラーズはベスト8に勝ち残っている天皇杯へ向けて練習を再開させた。目の前にある戦いをすべて制し、タイトルを取り続けていくことで世界との差を埋められていくと考えれば、準優勝の余韻に浸っている時間はいっさいない。

 メンタル的にも難しい試合となりかねないが、昌子はクラブワールドカップの後に公式戦が残っていたことにむしろ感謝する。

「そこでふがいない戦いはできないので。誰が見ても『ああ、鹿島だな』という熱い試合をしなきゃいけないし、そういう調整をしていきたい」

 激動の1ヶ月間を通じて、昌子は無意識のうちにアントラーズの伝統を学び取った。誰にも負けたくないという想いを、初めて受賞したベストイレブンの個人タイトルを介して自信とともにさらに増幅させながら、ホームのカシマスタジアムにサンフレッチェ広島を迎える24日の天皇杯準々決勝から、新たなる目標をつかみ取るための戦いに臨む。

(取材・文:藤江直人)

【了】


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