世界基準の交渉術 一流サッカー代理人が明かす「0か100か」のビジネスルール /...
常勝軍団・鹿島アントラーズからは今夏、安部裕葵(バルセロナ)、安西幸輝(ポルティモネンセ)、鈴木優磨(シントトロイデン)の3人が海外移籍に踏み切った。この1年間だけでも昌子源(トゥールーズ)ら計5人の主軸が欧州に旅立った現状に鈴木満強化部長は「高卒選手を3~4年かけて主力に育てるという旧来の価値観が通用しなくなった」と嘆く。有望な若手を抱えるクラブであればあるほど、悩みを抱えている。
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鹿島は安部らの移籍を受け、2019年コパ・アメリカの日本代表で唯一の大学生FWにして21年春に入団予定だった上田綺世(当時法政大)獲得を前倒し。7月末からプロ契約を結んだ。さらに柏からMF小泉慶を獲得し、今月に入って、名古屋からもMF相馬勇紀を半年間レンタルで補強。素早い動きで戦力ダウンを阻止しようとしている。
常勝軍団は1993年のJ発足時から「生え抜きを鍛え上げる方針」を貫いてきた。が、近年はその考えが成り立たなくなってきた。内田篤人、大迫勇也、柴崎岳ら若手の主力が続々と海外移籍し、この1~2年で傾向に拍車が掛かったからだ。
「今の移籍サイクルの速さに対応するのは本当に大変。『鹿島のDNAに合った移籍組』を探して補強している」と鈴木部長は説明する。とはいえ、上田も入団会見で「できるだけ早く海外へ行きたい」と公言し、相馬も同様の発言をしている。東京五輪後の欧州行きを念頭に置いているようで、1年以内にいなくなる可能性が高い。
「我々ができるのはしっかりと移籍金を取り、次の戦力を確保し、さらなる若手を育成すること。それしかない」と前出の鈴木氏は強調する。
10年夏にセレッソ大阪から移籍金ゼロでドルトムントへ移籍した香川真司の例に象徴されるが、かつてのJクラブは「選手の飛躍のためなら金に関係なく送り出してやろう」という親心を示すケースが多かった。が、これだけ若年層の海外移籍が増えてくるとそんな余裕は持てない。「移籍金をしっかり取って先々のクラブ運営に生かすべき」という考えになるのも当然だろう。
7月下旬にポルトガルのマリティモにコパ・アメリカ日本代表FW前田大然を送り出した松本山雅にしても、1年後のレンタル期間終了時に相手方が「買い取りたい」と言ってきた場合、0円移籍にならないような対応策を講じているという。「選手の売買はビジネス」という欧州では当たり前の価値観が、Jクラブにも根付き始めたのはいいこと。そうしなければ、日本の若く輝ける才能が根こそぎ青田買いされる恐れもある。Jクラブは、今まで以上の危機感を持つべきだ。
一方で湘南の曹貴裁監督は「個人の成長最優先で海外へ行きたい気持ちも分かるが、チームで勝敗を背負う立場を経験することも大事。それをせずに自分のことだけ考えるのはどうなのか」と選手側の意識にも警鐘を鳴らした。自分を育ててくれたJクラブへの貢献や恩返しを重視する若手を増やすためにも「主力になってから外に出ろ。出る場合には移籍金を残せ」という教育を早いうちから行うことも必要だろう。
さまざまな対策を考えていかないとJの空洞化は一段と進みかねない。