12月10日、鹿島アントラーズがレネ・ヴァイラー監督の就任を発表し、監督の母国スイスでもその一報が報じられた。スイス最大のタブロイド紙『ブリック』が報じており、レネ・ヴァイラーのスイス国内での認知度の注目度の大きさを示している。
1.スイス代表監督候補に
それもそのはず、ヴァイラーはスイス代表監督の最終候補に残っていた1人だったのだ。ヴァイラーの他には、現在の監督のムラト・ヤキン、最近までコソボ代表を率いていたベルナール・シャランドが最終候補に挙がっていた。そういった背景もあり、ヴァイラーの去就は注目を集めていた。
『ブリック』紙によれば、鹿島の他にMLSのクラブとも交渉をしていたようだ。また、5月にはギリシャのパナシナイコスの監督候補にも挙がっていたことが報じられており、彼自身にとって納得のいくオファーを吟味していたことが見て取れる。
2016年にニュルンベルクの監督を務めていた頃、ドイツのポータルサイト『SPOX』に「エキゾチックなクラブにも魅力を感じている。サッカーだけの経験にしてしまったらもったいない。サッカーを通じて、人生を豊かにするための何かも得たいんだ」と話している。
2.フィンク監督もJリーグを好意的に紹介
ヴィッセル神戸前監督のトルステン・フィンクは『ブリック』紙に対し、ヴァイラーの日本行きは「すごく良い選択だ」と太鼓判を押す。
フィンクは日本の印象について「生活の質と食べ物は最高だ。サッカーのレベルも高い。フーリガンもいないし、人々は親切で優しい」と説明している。
同紙によれば、ヴァイラーは「生活の質」、「異国での新しい経験」、そして「質の高いサッカー」の3点を求めており、日本のビッグクラブの1つとしてタイトル争いに参加できる鹿島からのオファーは最も魅力的に見えたようだ。
3.“誤解されがちな人”
スイス国内では“誤解されがちな人”という評価が付けられている。2018年にルツェルンの監督に就任した際、スイスのスポーツポータル『Sport.ch』のインタビューでそのことについても答えている。「私は人々が聞きたいと思うことは言わない。そうではなく、私が『客観的に正しい』と納得したことを話しているからだろう」と説明し、饒舌なリップサービスはしない性格だということを示した。
ヴァイラーは現役を終えると、サッカービジネスとメディアの関係性を把握するためにビンタートゥールの大学でメディア・ジャーナリスト学科を学士卒業。シャフハウゼンの大学院ではコミュニケーション・マネジメント・リーダーシップの修士を卒業している。いずれも監督業と両立しており、「いつになったら卒論を書き終わるのだろう?」と自問自答していたことも明かしている。
メディアの性質を知りつつも、話題作りや見出し先行のやり方に批判的で、必要以上に冷静で慎重な言葉を選ぶため、メディアからの受けが良くないことが“誤解されがちな人”というレッテルにつながっているようだ。
4.ルシアン・ファーブレの影響
監督としてサッカー面で最も影響を受けたのはルシアン・ファーブレ。ドイツではヘルタ・ベルリン、ボルシアMG、ドルトムント、フランスでもニースで実績を残した名監督の1人だ。
2002年にアルゼンチンで選手のスカウティングをしている時に偶然知り合い、その後はずっとコンタクトを取り続けているという。監督の研修を受ける際にもファーブレが率いるヘルタを訪れており、その仕事ぶりに影響を受けている。
ヴァイラーは『SPOX』の中で「ルシアンは選手を選ぶ時、詳細まで見極める。彼の場合、それはサッカーのスタイルよりも重要だ。選手獲得の時もしっかり準備をして、とりわけ選手の人間性を吟味している。この点でとても感心させられる。それは人生の根本的なところでもそうだからね。仕事で成功を収めるためには、人選が非常に重要だ」と監督としての考え方の一端を説明した。
5.総合的なスタッフ陣
人選についての重要性を感じるヴァイラーは、同時にクラブのスタッフにも「成長したい」という意欲を持った能力のある人々を求めている。「仕事をする上で、一緒に成長できる人々は欠かせない。ブレーキをかけられるような環境だと、自分自身の限界にぶつかってしまう」とニュルンベルク時代に語っており、鹿島を選んだ理由が透けて見える。「内心、自分は完璧主義者だと思っている。ミスがなく、できるだけ多くの正しい判断を積み重ねたサッカーをしたい」と自身のサッカー観も話している。
ヴァイラーとともにやって来るマヌエル・クレクラーは、スイス時代やニュルンベルクでヴァイラーのアシスタントコーチとして長らく共同作業を続けてきた存在だ。アンデルレヒトやアル・アハリでは家族の都合で付いていくことができなかったが、2019年以来のタッグ結成となった。鹿島の公式サイトでは「フィジカルコーチ」となっているが、他の監督の下でもアシスタントコーチを務めており、トレーニング全般を支えることになるだろう。
大宮アルディージャや湘南ベルマーレでプレーした経験を持つドラガン・ムルジャがスタッフに加わったのは、ヴァイラーがよく知るスイス、ベルギーでのプレー経験があり、日本サッカーにも詳しいことが理由だろう。コーチとしての力量は定かではないが、日本で初めて仕事をするヴァイラーとクレクラーに「日本の選手たちが何をできて、何ができないか」といった感覚的な部分や「日本での仕事の進め方やコミュニケーションの取り方」といった文化的な部分を調整する役割が求められていると予想できる。
ここにクラブのOBである岩政大樹がコーチングスタッフに加わり、鹿島アントラーズのアイデンティティといった要素を加味していく。これまで、どのクラブでも確実に結果を出してきたレネ・ヴァイラーは、総合的に構成されたコーチングスタッフ陣とともに鹿島の王者奪還を目指す。