鹿島アントラーズに今季、清水エスパルスから移籍してきたDF犬飼智也(24)は、こう言った。
「鹿島は全然違う。何かすごいんですよね。清水の選手もうまい選手は多いんだけど…。『何が?』と言われると難しいんですが、やっぱり意識が高いと思います。何年もタイトルを取ってきたチームだからこそ、現実的にタイトルがみんなの目標で、自然とそうなれるチームだと」
鹿島の強さとは何か-。同じ質問に、大岩剛監督(45)はこう説明した。
「自分は名古屋でやって磐田でもやって、鹿島でもやってきて、鹿島にはそういう空気感がありますよね。日常からの厳しさが。いろんな勝負事があるじゃないですか。1対1もミニゲームも、11対11もそうだし、じゃんけんもそう。ボール回しもリレーやダッシュもね。そういうのの勝ち負けに、みんなこだわる。無意識にある負けず嫌い。それが出るんでしょうね。『日常』の違いです。磐田が強かったときもそうだった。名のある人たちはやっぱり、勝負にこだわる。そういうところですよね」
では、今の鹿島でもっとも勝ち負けにこだわり「厳しさ」を追い求めているのは誰だろうか。おそらく、選手は口をそろえて「小笠原満男」と言うだろう。実際にDF昌子源(25)は「勝負への執着心、勝ちへの姿勢というのをもう1度、入れ直せる人」と言い、MF遠藤康(29)も「あの人が出たら、あの人にしかできないものがたくさんある。戦術どうこう言うけど、1番は『勝ちたい』という気持ちが大事。それを奮い立たせてくれるのは満男さんという存在」と語った。少なくとも「鹿島」を象徴する選手であることは間違いない。
その「鹿島」とは何か。どっちに転ぶか分からない試合をモノにしていく手堅さや、劣勢だろうと、例え不細工な試合だろうと、最後は勝ちを収める勝負強さ-だろうか。
だが、そう評されてきた鹿島は昨季、最終節で逆転優勝をさらわれた。らしからぬ逸失。それを、半年間も小笠原のリーグ出場がなかったことと結びつけるのは、あくまで結果論でしかない。ただ、小笠原以上に勝利を厳しく追い求めている選手だとして名前が挙がる存在が、まだまだ少ないことも否めない。
内に秘めた闘志は誰もが持っている。小笠原のように顔で名前で、背中で味方を鼓舞し、敵を畏怖させるには、経験も必要になる。だが、待っていれば自然とそんな存在になれるわけではない。より強く、日常から意識し続けなければ。
「昨年以上のモノをつくらないといけないし、もっと厳しくやらないといけないし、お互いに高いモノを要求しないと勝っていけない。それはどこでも普通でしょ。ウチのチームだけではないと思いますよ」。そう話す小笠原の“意識”に並び、上回る選手が多く出れば-。そのことを、誰よりも小笠原自身が望んでいるように聞こえた。【今村健人】
◆今村健人(いまむら・けんと)1977年(昭52)、さいたま市生まれ。昔はサッカー少年。入社後、スポーツ部にて06年トリノ、12年ロンドン両五輪を経験し、大相撲担当も延べ6年経験。おおむね今年からサッカー担当に。
鹿島に息づく勝利への執念の体現者、小笠原の願い