遺伝子 ~鹿島アントラーズ 絶対勝利の哲学~(6)
曽ヶ端準 後編
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2月21日のACL水原三星戦で、久しぶりに公式戦のゴールマウスに立ったクォン・スンテは、PK阻止という大仕事をやってのけ、勝利に貢献した安堵感に包まれていた。
韓国代表ゴールキーパーとして2017年に鹿島アントラーズに加入。クラブ史上初となる外国人ゴールキーパーだった。しかし、その年の7月に左指を痛めると、そこから試合出場機会を失うことになる。
「誰もが試合に出たいと思っている。でも、僕からソガさんに何かを言うことなんてないですよ(笑)」
スンテは敬愛の念に溢れた表情でそう語り、目を細めた。
他のポジションと違い、ライバルと近い距離でトレーニングを行ない、ひとつの椅子を競い合うゴールキーパー。長らく正GKの座を守り続けてきた曽ヶ端準(そがはた ひとし)とて、その場所に安住できるわけじゃない。
スンテの加入はそれくらい大きなインパクトがあった。しかし曽ヶ端は、ライバルの負傷によって得たスタメン出場のチャンスを活かし、ポジションを奪い返した。ケガから復帰したスンテをベンチに座らせたまま、正GKとして活躍を続けたのだ。
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――これまでもさまざまなライバルがいたわけですが、スンテ選手の加入は新たな危機感を与えたのではないでしょうか? そもそも補強というのは、現状に満足していないというクラブからのメッセージでもあるわけですが。
「特別に何かを思うことはありませんでしたね。過去にも櫛引(政敏/モンテディオ山形)をはじめ、いい選手が加入してきましたから。現役の韓国代表というのは過去になかったですけど。そして、『ベンチでいいや』なんて気持ちで移籍してくる選手はいませんからね」
――誰もが、曽ヶ端選手の座を脅(おびや)かすことを考えていたと。
「当然でしょう。だから僕も、そういう選手との競争だということは自覚していますし、覚悟している。でも、こういう厳しい競争がある環境が僕には合っています」
――その競争に勝ち抜くために重要なのは?
「練習です。練習で見せるしかない。ブレながら練習していたらダメ。しっかりと自分を持ち、アピールすることが大事です。心身ともにコンディションがいいことを見せるのも練習だし、監督だけじゃなくて、チームメイトも納得させられるプレーをしないと試合には出られない。だから、必死に練習するだけです」
――10代の頃に憧れたゴールキーパー像があったとして、現時点で目指しているキーパー像と違いはありますか?
「身体能力的な部分には、昔ほど頼れなくはなっている。でも、勝たせられるゴールキーパーというところで、チームに貢献する方法があると考えています。ゲームの流れを読んだり、流れを作ったり……多方面からアプローチができると思う。でも、自分のミスで失点してしまうこともありますからね。漠然としたもので表現するのは難しいけれど、極論を言えばヘタでもいいんですよ。チームを勝たせられれば。そういう選手であれば、試合に使うでしょう?」
――例えば、「あいつは持っている」というオーラでもいいと。
「そうそう。そういう選手は外せない。それはゴールキーパーに限らず、『あいつはゴールを決めるね』でもいいんです。それを練習で見せなくちゃいけない。練習でできなければ、ピッチには立てません」
――そういった「勝たせるオーラ」を、曽ヶ端選手は鹿島の守備陣から感じてきたんでしょうね。
「はい。僕が若い頃のディフェンス陣はすごかったですね。相手にとってのやりづらさは、僕らにとっては安心感でもあった。そういうものを背中で見せてくれました」
――今季、チームに復帰した内田篤人選手のことはどう評価していますか?
「篤人が鹿島に来たときから、すごく守備センスの高い選手だなと思っていました。日本代表では『攻撃力は高いけど、守備は……』となってしまい、ワールドカップ南アフリカ大会では先発を外れた。でも俺は、篤人が『攻撃の選手』と言われるのを聞くたびに、ずっと『違うな』と思っています。篤人の守備能力は抜群です。守備範囲の広さや1対1の読みもそう。何度も彼のカバーで助けられてきたから」
――内田選手が不在だった8年弱の間に、若い選手も中堅、ベテランとなりました。
「そうですね。ヤス(遠藤康)も篤人がいたときはまだレギュラーじゃなかったですからね」
――今では遠藤選手がゲームキャプテンになっていますね。
「僕はそれほど多くキャプテンマークをつけた試合はないんですけど、それでも責任感が生まれたし、それによって発言や言動にも変化がありました。でも、今のヤスや(昌子)源ほどではないです。僕がキャプテンマークをつけた頃は、他に引っ張ってくれる選手がいたからでしょうね。それに比べると、ヤスや源は本当に変わりました。積極的になったし、会話もそう。その内容や雰囲気にも違いを感じます。自覚と自信の表れだと思います」
――鹿島の歴史を振り返ると、「紀元前、紀元後」みたいに、「小笠原満男前、小笠原満男後」と言えるのではないかと。曽ヶ端選手をはじめ小笠原選手と同年代の選手が歴史の中心に立ち、過去から未来へとバトンを渡す立場にいるんだなと思えます。
「若い時に比べたら、満男も変わりましたからね。あそこまでしゃべるヤツじゃなかったですから。何がきっかけかはわからないですけど」
――長年プレーを続けていくうえで、何がモチベーションになっているのですか?
「結局はタイトルですね。勝つことに対するモチベーションがなければ、長くはできないと思います。厳しい練習を何のためにするのかといえば、やっぱり優勝の喜びを味わいたいから。『また、もう一度味わいたい』と思うからです」
――特に印象深かった優勝はありますか?
「どの優勝もうれしいです。2016年シーズンは、年間勝ち点は3位だったのにチャンピオンシップに勝っての優勝でいろいろ言われたけれど、やっぱり優勝すればうれしかった。クラブワールドカップは、いくらレアル相手であっても負ければ悔しい。それで、その後の天皇杯で勝ってまたうれしい。その喜びのためにやっているんじゃないですかね」
――レアル・マドリードとの一戦を振り返るとどうですか?
「今のレアルの試合を見ると、僕らが対戦したときのチームとはスピードも違うし、最高の(状態の)レアルとやったわけじゃない。それにレアルは、僕らが格下の相手と戦うときに感じるようなやりづらさを感じていたかもしれない。だからこそ勝ちたかったけれど、そこまで甘くはないということです」
――ACL(AFCチャンピオンズリーグ)では、なかなか勝てない状況が続いていますが。
「それは事実ですから、今までと同じようにはやっていたらダメだと思う。クラブワールドカップもACLで優勝して出場したわけじゃなかったし、去年はJリーグのタイトルも獲れていないわけですから。選手が入れ替わったりといろいろと変化はある。その中で何かを変えなくちゃいけないし、もっともっと細かいところを追求して、こだわっていくべきだと思っています。
それは僕自身も同じです。チームが1点を獲ったとして、それが勝ち点1になるのか、3になるのか。どうすれば『3』にできるのかを考える。単純なミスをしないよう、毎日の練習から意識を高く持っていないといけません」
――ACLで優勝しないと、曽ヶ端選手も小笠原選手も引退できないですね(笑)。
「獲ったら引退しろってことですか(笑)」
——いえいえ。その先もタイトルを獲ってください。
「(笑)。年齢を考えたら、先が短いのはわかっています。だけど、引退のことなんてまだ何もイメージできないですから」
曽ヶ端準「ヘタでも、チームを勝たせられる選手なら使うでしょ?」