【専門家の目|家本政明】名古屋×鹿島、上田の得点がハンドの反則で取り消しに
J1リーグ第18節・名古屋グランパス対鹿島アントラーズの一戦(1-1)が6月26日に行われたなか、鹿島の日本代表FW上田綺世の得点がハンドの反則で取り消された。リプレー映像では腕にボールが当たっているように見える反面、そのジャッジに真偽性を問う声が噴出。2021年シーズン限りでサッカー国内トップリーグの担当審判員を勇退した家本政明氏は、このジャッジについて「100パーセント(%)ボールに触れたとは言い切れない」と見解を示している。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部)
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議論となったのは前半20分のシーンだ。鹿島GKクォン・スンテが前線へロングパスを供給し、そのボールをMFアルトゥール・カイキが頭ですらす。バイタルエリアへのこぼれ球に再びカイキが反応し、最終ラインの背後へ抜け出した上田へラストパスを通すと、これを右足でゴールに沈めた。
得点は一度認められたものの、山本雄大主審はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の介入を経て、オンフィールド・レビューを実施。そのうえでハンドの反則とジャッジし、得点を取り消した。リプレー映像では、名古屋DF中谷進之介と競り合った際、上田の左腕がボールに触れているようにも見えるが、公にされた映像だけでは確証を得にくいジャッジでもあった。
元レフェリーの家本氏は、ハンドの反則になる条件を「1つは自分の手をボールの方向に意図的に動かして触れるということ。もう1つは、偶発的であってもボールが自分の手や腕に触れた直後に得点をすること」だと説明。そのうえで、今回のシチュエーションに関しては、ディフェンスとコンタクトがあった事実を踏まえ「左腕が自分の意図とは関係なく動かされたとも言えますし、自ら腕をボール方向に伸ばしたとも言えます。もしくは、意図とは関係なく腕に当たった直後にシュートを打った。いずれにせよ、ボールが腕に当たっていれば得点は認められないという条件になります」と見解を示す。
焦点は、上田の左腕がボールに触れていたかどうか。この点については「VARから提示された映像を見る限り、100パーセント(%)ボールに触れたとは言い切れないと、個人的には思います。確かにボールに触れた『ように』は見えます。ただ、あのアングルだけだと『それ触ったの』というところでは議論の余地があると思います。触ったと断言できるのかと問うと、個々の解釈によって分かれると思うんです」と述べ、さらにこう続ける。
「J1リーグのカメラ台数は、海外に比べるとそれほど多くない」
「そうなると別のカメラアングルが欲しいという話になるんですが、それがあったのか、なかったのかという話で言うと分かりません。J1リーグのカメラ台数は、海外に比べるとそれほど多くないんです。ベストなアングルの方向、例えばバックスタンド側からの真横のアングルに関しては、おそらくないと思います。そうなると、確実に腕に当たったと言い切れる映像がない可能性がある。主審とVARがどのようなコミュニケーションを取ったのかは分かりませんが、そもそも、オンフィールド・レビューで見せたことが良かったのか、主審も見たのは良かったんでしょうけど、あの映像だけで確実に当たったと言い切って良かったのかは議論の余地があるというのが、個人的な見解です」
この場合、レフェリーはどのような対処を施すべきだったのか。重要なポイントとして、家本氏は「その映像だけで、10人中9人が『ボールが手に当たった』と確実に確認できるような映像をもとに最終決断をすることが非常に重要」だと指摘。今回、VARから提示されたリプレー映像のみで真偽性を問われた場合、確証度は下がってしまう。そこですべてを判断してしまうことは、リスクがあるとしている。
「あの映像だけを見てはっきりと手に当たったと言えるのかと問われると、やはり厳しいと思います。そこで、他のアングルがないのかという問いが立つんですけど、ほかの映像でも不確定だとなると明白なハンドの反則があったとは言い切れない。僕がもし同じような状況でジャッジを担当したならば、ボールが手に当たった可能性は否めないものの、その事実を明確に映し出したものがないので、証拠不十分として得点を認めている可能性は高いですね」
VARを介したジャッジながらも議論に発展した今回のシーンは、レアケースといえるだけに「このあたりの見解については、DAZNさんの『ジャッジリプレー』で識者の方たちがどのような意見を述べてくれるのかも興味深いです」と、家本氏。他者による見解の行方にも注目していた。
◆鹿島FW上田綺世の“ハンド判定”は妥当? 元レフェリー・家本政明氏が見解「100%ボールに触れたとは言い切れない」(FOOTBALLZONE)