日刊鹿島アントラーズニュース

Ads by Google

2021年11月21日日曜日

◆小笠原満男が教えることから距離を置いていた理由。「教科書どおりじゃない選手のほうが面白い」(Sportiva)






短期連載:「鹿島アントラーズの30年」
第2回:「小笠原満男が描くアカデミーの夢」

 今年創設30年目を迎えた鹿島アントラーズ。Jリーグの中でも「すべては勝利のために」を哲学に、数々のタイトルを獲得、唯一無二のクラブとして存在感を放っている。

 その節目となる年にあたり、クラブの歴史を独自の目で追った単行本『頂はいつも遠くに 鹿島アントラーズの30年』が発売された。それを記念し、本の内容を一部再構成・再編集したものを4回にわけてお届けする。第2回は「小笠原満男が描くアカデミーの夢」。


 2018年シーズン終了限りで現役を引退した小笠原は、鹿島のアカデミー・アドバイザーを経て、現在はアカデミーのテクニカル・アドバイザーを務め、主にユースチームを指導している。

「今、アカデミーとしては、ひとりでも多くの選手をトップチームに上げるだけでなく、トップチームの主役になれる選手を輩出しようという意識で、選手の意識と質を高めたいと思っています。なぜアカデミーかといえば、早い選手だと幼稚園のころにアントラーズでサッカーを始め、小中高と続けてきた子どもたちにトップチームで活躍してほしいから。

 鹿島はすごく特殊なチーム。練習中の空気や勝敗に対するこだわりなど、いろいろあるけれど、2、3か月間のプレーだけでは、鹿島のサッカーを完全に理解するのは難しいと思う。だから、小中高の年代から、アカデミーで、鹿島のメンタリティーや戦い方を教えていければ、18歳になったとき、より完成された選手になれる。鈴木優磨や町田浩樹、沖悠哉がいち早くチームの主軸になっていったのも、小学生のころから、アカデミーでプレーし、ボールパーソンをやったり、アントラーズをずっと見てきているから。どういうときにどういうプレーをすべきかをわかっていたんだと思います。そういう選手を次々送り出すようなサイクルを作りたい。トップの選手が海外へ挑戦するというときに、アカデミーから『次の選手のスタンバイはできています』というふうにしたいんです」

 アントラーズユースでは今、柳沢敦が監督を務めている。柳沢監督は小笠原の存在の大きさを次のように語っている。

「守備でも攻撃でも攻撃的なサッカーを目指したいと考えています。選手たちが勝ちたいという欲を持つことが最も重要なので、それを引き出すような問いかけを意識しています。育成年代とはいっても、ユースの選手はプロ一歩手前の世代。勝つために必要なゲームコントロールを全員に求めています。そういう意味でも、数多くのタイトルを獲得し、勝ち方を熟知している小笠原満男の存在は大きい。ボールの奪いどころ、守備のタイミングなどをゲームや練習のなかで、リアルに伝えられるのは彼しかいない」

 小笠原はまず「守備では失敗してもいいから積極的にボールを奪いにいこう」と訴えている。

「攻撃で大事なのは、怖がらずボールを受ける、ミスを恐れずにプレーすること。その重要性を伝えたい。ミスをすることは悪いことじゃない。たとえミスをしても、積極的にトライし、自分で取り返すというのが、僕がプロで世界を見てきた大事な姿勢だと思うので。プロや世界で通用する選手になりたいなら、1対1でいかに勝てるかは重要なポイントになる。もちろんグループで守る守備も必要ですが、個人で奪える選手は魅力的です。そうやって人との違いを生み出せるくらいじゃないと、上にはつながっていかないから」

 鹿島では選手たちの自主性や自立が長く重要視されてきた。指導者が掲げるサッカー、戦況、チーム状況などに応じた臨機応変さが求められてきた。

「僕は、鹿島だけでなく、代表でも数多くの監督のもとでプレーしてきました。監督が変わればサッカーも変わります。それに対応できなければ試合に起用してもらえない。鹿島では『臨機応変』という言葉をよく使います。ひとつのスタイルだけでなく、あらゆる戦術のなかでプレーできることが大事なんです。鹿島の選手が一番多くワールドカップに出場しているのも、どんなサッカーにも適応し、勝てる選手という意味で、評価、信頼されているからだと思います。

 だから、ユースの選手にも『どんなサッカーでもできますよ』という選手になってほしい。監督が絶対というチームを否定はしないけれど、うちは違う。柳沢監督が求めているのは、指導者が押しつけるのではなく、選手たちがアイディアを出し合って勝っていける集団。選手たち自らが考えられるようになることが重要で、目の前の相手にどうやって勝つのかという思考力を育むことを大事にしています。

 それはプロサッカー選手になれなくても、いろんな環境で生きていくうえでも役に立つ。指示を待っているだけの人間はどこかで息が詰まってしまうだろうし、どういう人生を送るにせよ、自分で考えて行動できるのは、すごく重要なことなので。選手それぞれに適した形でヒントを与え、方向性は示すけれど、そこからは自分たちで思考し、プレーできる自立した集団として、試合に勝てるようになることを理想としています」

 小笠原自身も子どものころから、自分で考える力を身につけた選手だった。そしてプロになってからも、「チームメイトに教えること」からは距離を置いていたという。

「教えるのは好きじゃないタイプでしたね。僕は人に言われたことじゃないことをやろうとする選手が好きなので。教え込まれた選手は、ある意味プレーも教科書どおりのところがあるから、予想もつくのでボールが獲れる。でも、中村俊輔や小野伸二、本山雅志みたいに何をしてくるかわからない選手、基本通り、教科書どおりじゃない選手のほうが面白かった。特に攻撃は破天荒くらいのほうが面白い。久保竜彦みたいに。僕も『アイコンタクトしましょう』と言われたとき、『見ないふりして出すからいいのに』って、一切、言うことを聞かなかった」

 育成制度が整理され、指導者もさまざまな手段で世界中の指導法や最新の戦術などに触れる機会が増加した。それにより、選手の能力の平均値は向上したに違いない。けれど、小笠原がいう強い個性を持った選手は減ってしまったのかもしれない。

「Jリーグが始まったのは僕が中学2年くらいのとき。子どものころにはプロもなかった。ただサッカーが好きでずっとやりたくて、『ブラジルへ行けばプロになれるかな』くらいの知識しかなかった。僕らの世代はプロになりたいから頑張るんじゃなくて、本当にサッカーが好きで、あいつに負けたくないとか、試合に勝ちたいから、必死になってサッカーをしていただけだった。

 でも今はプロが身近にある。だったらもっと頑張れと。プロはそんなに甘くはないけれど、ユースの選手なら、あと一歩なのだから。『もっと本気で取り組もう。姿勢や気持ちは100パーセントなのか?』といつも問い続けています。『お前の100パーセントと大迫勇也、柴崎岳、鈴木優磨の100パーセントは全然違うぞ!』と話すだけでもメッセージは浸透していく。問答無用で、言い返させない。そういう成功した選手の話をしてあげられるのも僕のメリットだと思うので。後輩たちの名前を使ってうまくやってます(笑)」

 数多くのタイトル獲得に貢献してきた現役時代の小笠原の存在感の大きさをここで説明するまでもないだろう。タイトルから遠ざかる現在のトップチームへの小笠原復帰を望むファン、サポーターの声もあるが、現在の小笠原のモチベーションは、アカデミーからトップチームのスターとなる別のところにある。

「今は、とにかくアカデミーの選手を上へつなげたい。トップチームにいる土居聖真や町田浩樹、永木亮太たちには、これまでいろんなものを伝えてきた。だから、今はプロを夢見ている子どもたちに、自分の経験を伝えて、トップのピッチに立たせてあげたいという想いが強いし、その仕事にやりがいを感じています。

 夢見てる子たちって、かわいいじゃない。目がキラキラしていてさぁ。その子たちが、プロになってから、プロを感じるんじゃなく、より早くプロというのを知ってもらいたい。僕が『こういうふうにしておけばよかった』と思うことを教えてあげたい。リュックにアントラーズのキーホルダーをつけていたり、リストバンドしてボールパーソンをやっていたり。小さいころから、アントラーズを見て育ってきた子どもたちをカシマスタジアムのピッチに立たせてあげたい、立ってほしいなという希望や理想があるんです」


[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

頂はいつも遠くに 鹿島アントラーズの30年 [ 寺野 典子 ]
価格:1870円(税込、送料無料) (2021/11/21時点)



◆小笠原満男が教えることから距離を置いていた理由。「教科書どおりじゃない選手のほうが面白い」(Sportiva)





Ads by Google

日刊鹿島

過去の記事