「監督の言うことだけをやっていてはいけません」
[J2第23節]仙台1-1山形/6月25日/ユアテックスタジアム仙台]
長年Jリーグで激しい戦いを演じてきた仙台と山形の“みちのくダービー”。今季、リーグ戦では7年ぶりに行なわれ、3月20日の第5節での対戦はNDソフトスタジアム山形で開催され、3-2で仙台が勝利した。そして6月25日、ユアテックスタジアム仙台での第2ラウンドでは、1万5372人と、コロナ禍になってからの仙台のホームゲームでは最多の観客が集まった。
試合は仙台が序盤、多くの決定機を作るが、山形の守備陣が踏ん張りを見せる。そして33分、ゲームが動く。山形のMF國分伸太郎のフリーキックから、仙台の選手がラインを下げた前のスペースへフリーで入り込んだDF野田裕喜が鮮やかなボレーシュートを決めて、アウェーの山形が先制する。
その後、仙台は後半の早めに選手を入れ替えながら同点弾を目ざすが、相手の好守もあってなかなか得点を奪えない。苦しい状況のなか、MF名倉巧に代わって60分に投入されたのは、今季J1の鹿島から完全移籍したベテランMF遠藤康だった。
ベンチで戦況を見ていた遠藤は「相手の嫌がることをできていませんでした。途中から入ってもっとクロスを上げても良いと思ったので、簡単にクロスを上げていきました」と振り返るように、積極的にクロスを上げ始めた。「パスだけじゃ勝てません。グラウンドを広く使って相手の嫌がることをもっとみんなでやらないといけません」という狙いは当たり、82分には遠藤のクロスからFW中山仁斗がヘディングシュート。シュートはゴール右にそれたが、決定機ができ始めた。
そして85分、MFフォギーニョからのパスを受けた遠藤がクロスを上げる。これを受けたFW皆川佑介のシュートは山形GK後藤雅明に阻まれるが、こぼれ球を中山がゴールに押し込み、仙台が同点に追いついた。その後も88分に遠藤のクロスから中山を経由し、皆川がヘディングシュートを放つ場面が生まれるなど、決定機を演出したが、逆転ゴールは奪えず1-1の引き分けに終わった。
一時はJ2で首位に立つなど勢いのあった仙台だったが、6月はリーグ戦2分2敗と勝ちがなく、苦しんでいる状況だ。長い現役生活で勝てない状況も経験している遠藤に、こういう時期に何が必要なのかを問うと「監督の言うことだけをやっていてはいけません。もっと自分で考えてやるようにしないといけないと思います」という答えが返ってきた。
「1対1で勝つのが一番だと僕自身、思っていますし、相手の嫌がることを常に考えながら、監督の言っている戦術をうまく採り入れて整理できれば、もっと良いチームになるかなと思います」
監督の指示、戦術に従うことはあくまで大前提だが、それだけにとらわれず、ピッチの中で常に相手が何をしたら嫌がるのかを判断し、そういうプレーを思い切って出していく柔軟性がなければいけないと遠藤は語る。
「みんなが同じ方向を向くようにしないといけません。そこで監督の言っていることだけをやる人が出てきたら絶対勝てなくなります。理想のサッカーはありますが、現時点でできるサッカーを選手みんなが一緒に解決しながらやることで、勝つ道筋が一番近くなると思います」
チームとしての約束事を守ること、プラスアルファで相手の嫌がるプレーを、遠藤だけでなく多くの選手が積極的に出せるようになってくれば、仙台は再び昇格争いで一歩抜け出せる存在になれるかもしれない。
取材・文●小林健志(フリーライター)
◆「相手の嫌がること」ベガルタ遠藤康が強調する再浮上へのカギ「もっと自分で考えてやるようにしないと」(サッカーダイジェスト)