日本代表の最大勢力は実は「プラチナ世代」である。この世代の選手たちが、先輩から学び、存在価値を示していくことが、ここまで続いてきた日本代表のさらなる前進につながる。ロシア・ワールドカップ。ここにきて緩やかではあるが見えてきた新たな物語とは?
■1992年生まれは今年で26歳
その称号に込められた期待を思えば、あまりに遅いと言えるだろう。
かつて比較された小野伸二、稲本潤一、高原直泰らの“黄金世代”が20代前半で日本代表の主力だったのに対し、彼らはすでに20代半ばなのだ。
だが、2010年の南アフリカ大会を戦った30代のベテランたちが今大会で経験に見合った活躍をする一方、彼ら――1992年生まれの“プラチナ世代”の一員である柴崎岳と昌子源の二人が際立つ存在感を放っているのは間違いない。
“プラチナ世代”がロシアの地でようやく日本代表の主軸として定着し始めた。
言うまでもなく、日本代表はあらゆる世代、年代の集合体である。西野朗監督が選んだワールドカップメンバー23人の中で、実は最大勢力なのが“プラチナ世代”だ。
この世代のトップランナーである宇佐美貴史を筆頭に、柴崎、昌子、武藤嘉紀、遠藤航、大島僚太の6人が名を連ねる。「多いよね、って話はしてます。僕らがもっと絡むのが理想ですけど、この世代がこれだけいるのはポジティブなことだと思います」と遠藤は言う。
西野監督が最も期待していたのは、間違いなく宇佐美だろう。
西野監督にとって宇佐美は17歳でトップデビューさせた、いわば教え子。5月の国内合宿初日にも「彼の魅力はフィニッシュ。シュート力があり、いろいろなバリエーションも持っているので、相手ゴールに近いところでのプレーを期待している」と話している。
だが、ここまで宇佐美はその期待に応えられていない。テストマッチのガーナ戦、スイス戦と先発出場したが不発に終わり、現状はスーパーサブの立ち位置だ。
■移り変わる。日本代表のメインキャスト
一方、宇佐美とは逆に、本大会直前で序列を覆したのが、柴崎と昌子だ。
柴崎がポジションを争っているのは、同世代の大島である。トラップとパスの技術がチーム随一で、ショートパスで局面を打開し、時にドリブルで運びもする大島に対して、柴崎のプレースタイルはもう少し攻撃的だ。ロングフィードやサイドチェンジを多用し、FIFAクラブワールドカップのレアル・マドリー戦や、ラ・リーガのバルセロナ戦に代表されるように、得点への意欲も高い。
それゆえ、事前キャンプではトップ下でも試されていたが、柴崎自身は「僕より適任がいるんじゃないかなと。もう少し低い位置から行きたいと思っている」と、あくまでもボランチでのプレーにこだわっていた。
ガーナ戦、スイス戦には大島が先発したが、スイス戦で大島が腰を痛めたことに加え、スタメンを入れ替えたパラグアイ戦で柴崎がチームに推進力をもたらす縦パスを連発。このパフォーマンスを見れば、コロンビア、セネガルと続けてスタメン出場したことにも納得がいく。
セネガル戦で長友佑都に通した糸を引くようなロングパスは、まさに彼の真骨頂。中盤のオーガナイザーと呼ぶにふさわしく、日本代表に新たな司令塔が誕生した瞬間だった。
昌子もパラグアイ戦での好パフォーマンスによってコロンビア戦での先発起用をたぐり寄せた。エムバイェ・ニアンを封じ込めたセネガル戦でのプレーは圧巻の一言。2試合通じて“陰のMVP”とも言うべき働きで世界的な注目を集めている。
2試合を終えた時点で、大島、遠藤、武藤の3人は出場機会を得られていないが、酷暑のヴォルゴグラードで行われるポーランド戦ではメンバーの入れ替えも予想される。とりわけ武藤は、5月の国内合宿に参加した当時からコンディションの良さが際立っていた。大会を勝ち抜いていくには、ラッキーボーイの存在が不可欠であり、ポーランド戦でゴールを奪えれば、決勝トーナメント以降、スタメンの座を射止めてもおかしくない。もちろん同じことは宇佐美にも言える。
日本代表とは、メインキャストが移り変わる壮大な大河ロマンである。
初出場となった98年フランス大会から02年日韓大会、06年ドイツ大会の3大会は中田英寿と黄金世代をめぐる物語だった。
10年南アフリカ大会から14年ブラジル大会、18年ロシア大会の3大会は本田圭佑とその仲間たちの物語である。
その物語の最終章で、遅ればせながらプラチナ世代が台頭してきたという事実――。それは、新たな物語のプロローグなのかもしれない。
文=飯尾篤史