日刊鹿島アントラーズニュース

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2016年12月4日日曜日

◆年間3位からJ王者へ。 アントラーズとレッズとは何が違ったか(Sportiva)


https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/jleague_other/2016/12/04/___split_32/

 その制度の是非はともかく、ルールはルール。最後にホーム&アウェーで行なわれる決勝戦で、勝ったチームがJ1年間優勝となるJリーグチャンピオンシップ。第1戦は鹿島アントラーズのホームで、浦和レッズが1-0と先勝していた。

 第2戦は浦和のホームで行なわれるうえ、浦和は勝てばもちろん、引き分けでも(さらに言えば、0-1の負けでも)優勝が決まる。浦和は間違いなく有利な条件で2016年の最終決戦を迎えていた。

 にもかかわらず、浦和は痛恨の逆転負け。裏を返せば、鹿島のしたたかな逆転勝ち。Jリーグ発足以降、過去17冠の鹿島に対し、今年のルヴァンカップを含めて5冠の浦和と、これまでに獲得したタイトルの数が示す「勝負強さ」が両者の明暗を分けた。



 初戦をホームで0-1と落としていた鹿島にとって、第2戦は2点以上取って勝つことが逆転優勝の条件だった。言い換えると、2-0でも2-1でも結果は同じ。だからこそ、試合開始からわずか7分で生まれた浦和の先制ゴールも、「ゲーム前から1点は(取られても)いいと言われていたので、焦りはなかった」(DF山本脩斗)。

 だが、冷静に考えてみれば、それはあくまでも「試合前の理屈」でしかない。先に1点を失った鹿島は、もう1点取られれば3点を取ることが必要になり、逆転優勝はさらに遠のく。理屈で言うほど、楽な状況ではなかったはずだ。

 対する浦和の側に立てば、ここが鹿島にプレッシャーをかけるチャンスだった。2点目を先に奪うことができれば、鹿島に相当なダメージを与えられたはずだ。

 ところが、実際はそうはならなかった。先制されても意に介すことなく戦えた鹿島の一方で、浦和はいくつかのチャンスがありながら追加点を奪えないことで、徐々にリズムを悪くしていった。

 そして前半40分、何でもないロングボールをきっかけに生まれた、鹿島の同点ゴール。鹿島の選手たちが「0-1のまま、前半が終わると苦しかった」(DF昌子源)、「前半に取れた1点が非常に大きかった」(MF柴崎岳)と口をそろえた、この試合の勝敗を分ける重要なゴールである。

 これで試合は、完全に「試合前の理屈」通りに動き出した。鹿島の石井正忠監督が語る。

「同点に追いついたことによって、浦和にプレッシャーがかかった。特に後半に入ってからは、前半のような勢いがなくなった」

 試合の流れは鹿島。そんななか、このまま1-1で終われば、優勝が決まる浦和は次第に意識が守備へと傾く。浦和のDF槙野智章は「後半に入っても攻撃に出たが、時間とともに守備的になっていった」と認める。

 はたして後半の79分、鹿島の決勝点が生まれる。

 浦和の守備陣の乱れから、途中交代で入った鹿島のMF鈴木優磨に独走され、最後は槙野が後ろから倒してPKを献上。これをFW金崎夢生が難なく決めた。

 それでも試合時間は、ロスタイムも含めれば、まだ優に10分以上はあった。逆転の必要はなく、同点に追いつけばいい浦和にとっては、焦る必要はないはずだった。

 ところが、浦和は失点直後から槙野をトップに上げ、途中出場のFWズラタンとの2トップにし、焦って雑なロングボールを放り込むばかり。すでに交代枠も使い切っており、まさにこうした展開の試合で勝負強さを発揮するFW李忠成も投入できない。

 結局、その後に訪れた浦和のチャンスは、ロスタイムにMF武藤雄樹が放ったボレーシュートくらいのもの。さしたる決定機を作り出せないまま、試合終了のホイッスルを聞いた。

 どちらにとっても、自力で優勝を決められる決勝戦。そこでは「勝ち慣れた者」と「勝ち慣れていない者」との差、特に心理面での両者の差は明白だった。鹿島の憎らしいまでの勝負強さには、ただただ感服するしかない。

 だが、試合後、キャプテンのMF小笠原満男は「勝負強い」のひと言ですべて片づけられてしまうのを拒むように、「勝負強いから勝てるほど、この世界は甘いものじゃない」と言い、こう語った。

「練習から一生懸命やって、試合でも必死に戦って勝ってきたチーム。そこははき違えてはいけない」

 なるほど、数々の栄光を知る37歳の言う通りだろう。だとしても、勝負強さという点においてあまりに対照的なクラブの対戦が、その見立て通りの結果に終わったことは、たまたまこの1試合だけの結果、とは考えにくい。

 柴崎は「選手が変わってもこれだけ勝てるのは、チームがしっかりしている証だと思う」と言い、昌子は「ソガさん(GK曽ヶ端準)と満男さんのふたりの存在がデカい。この人たちについていけば、優勝できると思わせる背中を見せてくれる」と、常勝軍団が持つ伝統の強みを口にする。

 セカンドステージの最後を4連敗で終えながら、勝たなければいけない試合、すなわち勝てば優勝できる試合では、少々不利な条件も覆して勝ってしまう。勝ち慣れたクラブの底力を思い知らされるような試合だった。石井監督は、鹿島の強さの理由に「クラブ全体が持つタイトルに対する執着心」を挙げ、こう語る。

「長い間、J1のタイトルを獲れず、タイトルを獲ることを義務づけられて始まったシーズン。それが、実現できて本当にうれしい」

 とはいえ、試合後の取材エリアには、心底優勝を喜ぶ笑顔も、弾むような声もほとんどなかった。例年の優勝決定試合とはまったく異なる、不思議な雰囲気があった。柴崎は取材エリアに現れると、開口一番、こう語った。

「大会のレギュレーションに対しては、どうかな? という部分がある。(年間勝ち点1位での)完全優勝でないという気持ちと、ルールに則って勝ったんだという気持ちが半々。川崎と浦和への敬意も忘れてはいけないし、試合が終わったときは、そういう思いが交錯した」

 鹿島は年間勝ち点3位からの”逆転優勝”を果たした。年間勝ち点1位の浦和とは、勝ち点15も離されており、チャンピオンシップという制度を最大限に活用したことになる。

 だが、その結果、どこよりも多くの勝ち点を挙げながら、J1優勝のタイトルを得られなかった浦和が悔しいのは当然としても、定められたルールのなかで勝利した鹿島にしても、素直には喜びにくい優勝となったことは確かだ。小笠原が語る。

「正直言えば、年間1位で挑んで、今日も勝ちたかったのが本音。ルールのなかで勝ちは勝ちだが、本音は……。そこは来年にとっておく」

 冒頭にも記したように、ルールはルール。チャンピオンシップという優勝決定方式は、リーグ戦が終わった後に突然実施が決まったわけではないし、シーズンが始まる前から今季のJ1年間優勝がどのように決まるかは、誰もが知っていた。

 だが、その一方で、こうした結果になることを、誰もが(とりわけ、チェアマンをはじめとするJリーグ関係者は)恐れてもいたのではないだろうか。

 昨季は、幸いにも年間勝ち点1位のサンフレッチェ広島が優勝したおかげで、大事には至らなかった。Jリーグが犯した失策が、目立たなかっただけのことだ。しかも、場当たり的に、つぎはぎだらけで強行された仕組みは、反省とはまったく違う理由で来季は姿を消す。

 まさに世紀の愚策。J1王者が決まる晴れやかな夜、Jリーグはその歴史に大きな汚点を残した。

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