奈良市の奈良公園のシカが、紀伊半島の他の地域に生息するシカにはない独自の遺伝子型を持つことを、シカの研究に取り組む福島大、奈良教育大、山形大のチームが突き止めた。1400年くらい前に周辺のシカから分かれ、集団内で繁殖したためと考えられるという。チームは「奈良公園周辺でシカが古くから手厚く保護されてきたことが科学的に裏付けられた」としている。31日付の米哺乳類学会誌に論文が載った。
奈良公園のシカは「ニホンジカ」で、約1200頭いる。768年創建の春日大社が「神の使い」として保護したことが起源とされる。明治以降は殺傷禁止区域が設定され、「奈良のシカ」として国の天然記念物に指定された。
チームは奈良のシカの起源を探ろうと、奈良公園を含む奈良、和歌山、三重、京都の4府県30地点で、交通事故で死んだり、捕獲されたりした294頭からDNAを抽出し、遺伝子型を分析。これらのシカは元々、同じ集団だったと分かった。
さらに詳しく調べると、奈良公園の32頭には、他にはない独自の遺伝子型があることが判明。1400年くらい前に元の集団から分かれ、奈良公園の集団内で繁殖する中で生じた独自の遺伝子型が受け継がれてきたと結論づけた。
チームの兼子伸吾・福島大准教授(分子生態学)は「奈良公園周辺のシカの集団は古くから人の手で大切に守られてきたと考えられる。国天然記念物にふさわしい『生きた文化財』であることが科学的に確かめられた」と話す。
◇「神の使い」奈良公園のシカに独自の遺伝子…1400年前から集団内で繁殖(読売新聞)