鈴木優磨が岩政監督に確認、そしてピトゥカは….
リーグ4連敗中の鹿島アントラーズが、4月19日のルヴァンカップのアビスパ福岡戦でもアディショナルタイムのウェリントンによる失点で1-2と落とした。シーズンスタートからキャリア初めてトップチームを率いる岩政大樹監督のもと、内容がなかなか伴わず、不振脱出のキッカケを掴めずにいる。
この連敗期間の中で、特に気になった一つのシーンを取り上げたい。
0-1で敗れた4月9日のアウェーでの柏レイソル戦。立ち上がりから両チームともにハイテンションでぶつかり合う、J1のレベルの高さを感じさせる攻防を繰り広げていった。しかし鹿島はなかなか決定機を作り出せずにいた。
そうしたなか、中盤と前線の右サイドの間にスペースが空き、そこを柏に活用されていた。鈴木優磨がここは誰が埋めるのか、とベンチに聞く。すると岩政監督は、ボランチのディエゴ・ピトゥカに、そこを見るように伝えた。
ピトゥカは頷いた。
しかしそうすることで、ピトゥカは武器でもある前へ出ていくスペースを自ら埋めてしまうことになった。そして鈴木はさらに右サイドに開いてフリーでボールを受けようとする。
結局、ピトゥカは手詰まり、サイドにしかパスを散らせない。そして右に張り出した鈴木がクロスを上げる。が……それが味方に合わずつながらない。
そうしたなかハーフタイムには指揮官が「珍しく」選手たちを叱ったという。
「ハーフタイムにかなり渇を入れました。前半はのらりくらりと時間を過ごしてしまいました」
「僕たちは非常に流動的なサッカーをしていて、相手に捕まらない、相手に読まれないサッカーを目指しています。そのうえで大事なのが、後ろで動かすテンポ。ここ数試合、(ボールを)動かしながらどこを見ておくか、そして相手が来ないのであればどのように動かすのかに取り組んできました。今日はレイソルのやり方を踏まえ、強調していました。前半はそれが出なかったというより、やろうとしなかったように見えたので、テンポを出せる選手を入れたのが(交代の)一番大きな理由です」
指揮官はハーフタイムを挟み、ピトゥカと右サイドバックの常本佳吾に交代を告げていた。
スタンドから見ていた限り、むしろ選手たちは戸惑いながら、少し迷いながらプレーしているように感じた。そうであれば、選手ではなく、監督の責任だったはずだ。
最終ラインからの組み立てで決まりごとがあり、アタッキングサードでは創造性を生かし崩していく。そんな狙っているシーンはなかなか見られない。選手が一つパスをつなげば、そこで顔を上げて、どのような選択肢があるかを考える。という繰り返しが続き、柏の鋭いプレスの餌食になっていた。選手が入れ替わった後半や終盤に、その判断のスピードがさらに遅くなるのは必然かもしれない。
岩政監督は新たなスタイルの構築に着手したばかりであり、その意図は現場では共有できているとも強調してきた。それでも「これが鹿島の戦い方だ」というものがまだ見えてこない。
もちろん「鹿島は鹿島」という岩政監督のスタンスがまず大切だろう。横浜F・マリノスや川崎フロンターレと同じような、似たようなスタイルを目指しているわけではないと言う。
アントラーズはむしろ4-4-2(4-2-3-1)の王道スタイルで、そこに合う選手が入ってきて、例えばサイドバックのタイプ(縦抜けタイプなのか、中盤フォロータイプなのか、守備型なのかなど)によって時代とともにスタイルも変遷してきた(ブラジルの王道スタイル――。だからこそ抱えている大きな問題もあるわけだが)。
一方、昨季途中から就任した岩政監督は、どちらかと言うとまず相手の目先を変えるやり方で勝点を獲得していった。そこからスタイルを築くと言ってきたのだが、今季もどちらかというと奇襲的な感が否めない。佐野海舟、土居聖真と主力クラスの負傷離脱と追い討ちもかかる。
ボールを確実に収められる鈴木の能力は間違いなくJ1トップレベルにあるが、チームとしてその武器を最大限に生かせているのか。鈴木について岩政監督は「昨季ほど好き放題にはやっていない」と言っていたが、その位置取りは基本的には変わっていない。鈴木がボールをもらいたがり、どんどんサイドに出ていけば、ゴール前の脅威は明らかに下がる。
もしも基本的に前線に立っていて、突然、相手の急所といえる位置に出てきて数的優位を作られる――。そんな弱点を徹底的に突くユリアン・ナーゲルスマンばりの戦略をとられたほうが、相手は困るだろう。あるいは垣田裕暉も加わったなか、日本代表でも試されているトップ下にストライカータイプを配置する。オプションでは取り組んでいるが、そのようにチームに落とし込んでも面白そうだが……。
Jリーグ開幕から2か月、チームのコンセプトの有無、そしてそれが浸透してきているかどうか。そのあたりがチームによって明白になりつつある。
岩政監督は「私たちはあくまでもチャレンジャーだ」と強調してきた。もちろん結果(勝利)さえ出ていれば、そう見えるものなのかもしれないし、試合途中は選手の判断に委ねられる部分もある。
選手が思い切ってプレーする。迷わずピッチに立ち、頭をクリアにして向かっていける。その立ち向かっていく正々堂々としたファイティングポーズを取れるか。それが鹿島が鹿島らしく闘うための最低条件であり、逆襲への一歩になるはずだ。萎縮した挑戦者はまず勝てない。
◆【鹿島】柏戦で気になったシーン、選手は迷っているようだった(サカノワ)