明治安田生命J1リーグ第26節、湘南ベルマーレ対鹿島アントラーズが21日に行われ、1-1の引き分けに終わった。前節、鹿島は新体制初陣を勝利で飾ったが、今節は残留争いに巻き込まれつつある相手に苦戦。常勝軍団がさらに上を目指すためには、何が必要なのだろうか。(取材・文:元川悦子)
難敵に苦しんだ鹿島アントラーズ
岩政大樹監督率いる新体制で8月14日の初陣・アビスパ福岡戦を2-0で勝利し、好発進した鹿島アントラーズ。だが、その勢いを持続しなければ意味がない。21日の相手・湘南ベルマーレはJ1残留争いに巻き込まれつつある分、危機感も闘争心も強い。しかも13日の横浜F・マリノス戦が台風で流れた分、鹿島対策を入念に行う時間があった。それだけに、鹿島にとって難しい相手なのは間違いなかった。
新指揮官は前節を踏襲したメンバーを送り出した。入れ替わったのは出場停止のディエゴ・ピトゥカら3枚。今回は最終ラインに安西幸輝、三竿健斗が入り、ボランチも中村亮太朗が陣取る形となった。
「相手は背後へのボールを徹底してきた。特にサイドバック(SB)の背後へほとんど全てと言っていいくらいボールを入れてきた。自分たちも前進していきたかったので、セカンドボールを拾いやすい状況を作る準備をした」と指揮官は試合後に語ったが、そういった湘南の戦い方を事前にイメージし、選手たちに提示。そのうえでゲームに挑んだ。
しかしながら、この日の鹿島は序盤からデュエルで負ける部分が目立ち、思うようにボールを拾えない。開始早々の8分には土居聖真が惜しいゴールチャンスを迎えたものの、得点の匂いが感じられたのはこのくらい。45分間通してバトルの部分で後手を踏み、ボールを奪われ、攻め込まれるという苦しい時間帯を余儀なくされた。
「自分たちが準備してきたこと以前に、局面局面の球際の部分で負けていたり、セカンドボールの反応や予測がチームとしてできていなかった。当たり前のことをやって初めて戦術のことを話せる。ベルマーレとやる時はいつも物凄い熱量で向かってくるので、そこで上回らないといけなかった」と三竿も反省の弁を口にした。
前半のデータを見ても、支配率こそ52%と相手を上回ったものの、シュート数は7対3と少なく、パス成功率も68%台。それだけミスが多かったということになる。理論派の岩政監督も停滞感を色濃く感じたはず。すぐさま修正を図るべく、後半頭から和泉竜司、エヴェラウド、キム・ミンテの3枚を投入。三竿をボランチに上げて樋口雄太と組ませ、鈴木優磨とエヴェラウドのコンビを最前線に配置することで主導権を握ろうと試みた。
的確な対応が奏功し、後半の鹿島は多少、流れがよくなかった。後半8分には安西が左サイドから強引なシュートを放つなど、ゴールへの姿勢も増していく。そして迎えた14分、右サイドで和泉が畑との競り合いからセカンドボールを保持したところからビッグチャンスが生まれる。
和泉からパスを受けたエヴェラウドがDFをかわし、背後を抜けた樋口へパス。次の瞬間、リターンを受け、左足を一閃。数少ないチャンスを決めきり、先制点を手に入れたのだ。
「相手より走るとか球際で勝つとか根本的な部分でずっと湘南に優位に立たれてきたけど、得点のところはそこで取りきってゴールにつながった」と和泉も安堵感を吐露した。
こういう展開になったのだから、鹿島としては虎の子の1点を守りつつ、攻めに出てきた相手の裏を取って追加点を挙げるような形に持ち込みたかった。伝統的に「ウノゼロ勝利」を得意とするチームだけに、そのDNAは鈴木優磨や三竿ら鹿島在籍年数の長い選手たちには刻み込まれていたはずだ。
にもかかわらず、彼らはワンチャンスから失点してしまう。後半29分の湘南の右CK。茨田陽生の精度の高いボールをファーサイドで大野和成がヘッドで折り返し、ニアで合わせたのが瀬川祐輔。序盤から再三決定機を逃していた背番号13にフリーで飛び込まれ、鹿島守備陣としては致命的な1点を献上してしまった。
「セットプレーで同点にされるっていうのは弱いチーム。それが今のウチを表している。内容が悪い中でも勝ち点3を取れていたらまた違ったけど…」と鈴木優磨も神妙な面持ちで語っていたが、勝負どころで守り切れない脆さを彼らは露呈してしまったのだ。
結局、試合は1-1のドローでタイムアップの笛。鹿島は新戦力・エレケを投入し、もう1点を取りに行ったが、それも実らなかった。岩政体制初の連勝も叶わなかったが、やはりそれ以上に気になるのがデータだ。
支配率は最終的に48%と下回り、シュート数も14対5と大差をつけられた。パス成功率は前半より若干上がって70%まで回復したが、走行距離やスプリント回数でも湘南に凌駕される形となった。そういう苦しい内容と結果を招いたのも、やはりデュエルや競り合いの部分で勝ち切れなかったからだろう。
自身も失点に絡んだ三竿は、自分たちの「サッカーIQの低さ」を嘆いていた。
タイトル奪還に必要なものとは…
「今の僕らはピッチで判断する力がまだまだ足りない。1人がこうだと考えても、周りが反応しなかったら、その考えはないに等しいんで、もっとサッカーIQを上げないと。用意してきた戦いができないんだったら、自分たちで応用していかなきゃいけない。チャンピオンになるチームっていうのはいろんな戦い方ができる。それをこれから身に着けていかないといけないと思います」
三竿が自戒の念を込めてこう話すのも、2018年にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)制覇を果たした頃のチームを知っているからだろう。当時は小笠原満男(アカデミー・テクニカルダイレクター)を筆頭に経験豊富な面々がいて、臨機応変に戦い方を変えることができていた。賢さや判断力というのは紛れもなく常勝軍団の強みだった。
「常に考えてはやっていますけど、それが優磨や僕だけだとキツイ。今は真面目な選手が多いですけど、いやらしさとか相手が嫌なプレーが何なのかを考えながらやらないと、今の時代のサッカーは勝てない」と彼は改めて強調していた。
岩政監督は徹底した分析を踏まえて勝利への最短距離を導き出せる指導者だが、それを選手が忠実に遂行するだけではタイトルは奪還できない。その厳しい現状を再認識したうえで、鹿島は前に進んでいくしかない。27日の次節・川崎フロンターレ戦まで時間は限られているが、まずは球際やハードワークという原点に立ち返り、個々が戦える集団にならなければいけない。今こそ選手たちの自覚が問われる。
(取材・文:元川悦子)
◆鹿島アントラーズが上を目指すには? 三竿健斗と鈴木優磨だけではキツイ。「チャンピオンになるチームというのは…」【コラム】(フットボールチャンネル)