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Jリーグ屈指の常勝軍団、鹿島アントラーズの周辺が騒がしい。
7月30日、鹿島は親会社である日本製鉄が保有していた株式72.5%のうち、61.6%がメルカリへ譲渡されることを発表。鹿島の経営権が、日本製鉄からメルカリへ移ることになった。
古今東西、オーナーが変われば、よくも悪くもクラブはガラッと変わってしまうことが少なくないが、鹿島がどう変わっていくのかは、現段階ではわからない。
ただ、今回の出来事とは無関係に、鹿島がひとつの転換期に差し掛かっていたことは、間違いないだろう。少なくとも、ピッチ内を見る限り、それは明らかだった。
かつての鹿島と言えば、主に高卒の有望新人を獲得し、彼らを主力に育て上げることで、チームを強化するのが常道だった。いわば、生え抜き集団。柳沢敦、小笠原満男、中田浩二、本山雅志などが、その例だ。
しかしながら、近年、そんな強化方法を続けるのが難しくなっていた。なぜなら、若い選手の海外移籍が増えてきたからだ。以前、鹿島のスタッフから、こんな話を聞いたことがある。
「今は(高卒新人が)18歳で入ってきて、2年後にレギュラーになっても、3、4年活躍したら海外へ行ってしまうことがある。こうなると、もう若い選手を育てるだけでは(チームの強化は)間に合わない」
とくに最近は、その傾向が加速している。
2013年シーズンを最後に23歳で海を渡ったFW大迫勇也を皮切りに、FWカイオ、MF柴崎岳、DF植田直通、DF昌子源と、次々に20代前半のレギュラーが海外移籍。極めつきは今夏で、FW鈴木優磨、MF安部裕葵、DF安西幸輝と、主力級がまとめて3人もヨーロッパに新天地を求めた(安西は2018年に東京ヴェルディから移籍加入のため、生え抜きではないが)。
これだけ毎年のように戦力の流出が相次ぐのは、ちょっとした異常事態。優勝争いはおろか、最近のJ1の混戦ぶりを考えれば、J2降格の危機に陥っても不思議ではない。
ところが、そうは簡単に落ちていかないのが、鹿島が常勝軍団たるゆえんである。近年は他クラブからの移籍によって戦力補強をし、若手の海外流出をうまく穴埋めしている。安西の他、MF永木亮太、MF三竿健斗らが、それにあたる。
しかも、”外様”を加えたからといって、志向するサッカーが大きく変わることはない。誰が出てもやるべきことに忠実な、実に手堅いサッカーが繰り広げられる。そこが鹿島の強さである。
7月31日に行なわれた直近の試合、J1第16節の浦和レッズ戦を見ても、控え選手を含めた鹿島の登録メンバー18人のうち、11人(外国人選手4人を含む)が移籍加入の選手だったが、鹿島は鹿島だった。昌子、植田に代わってセンターバックを務める、DF町田浩樹が語る。
「選手が変わってもブレない哲学が、鹿島にはある。代わりに出た選手がチャンスをつかんでいるので、(シーズン途中に選手が入れ替わることを)気にしていない」
結果的に先制しながら、同点に追いつかれ、試合は1-1の引き分けに終わった。今の鹿島には経験豊富な選手が多いとは言えず、不安定さも垣間見える。しかし、序盤は相手の攻撃に苦しみながらも、試合のなかで修正を施し、徐々に主導権を握っていく。そんなゲーム運びは、鹿島らしいものだった。
チームを率いる大岩剛監督も、「最後は勝ち切りたかったが、プランどおり、自分たちのゲームをしてくれた。いいゲームだった」と話しているとおりだ。今季もここまで、AFCチャンピオンズリーグではベスト8に勝ち残り、J1でも首位のFC東京と勝ち点4差の3位につけている。
とはいえ、移籍加入組への依存度が高まるのは、必ずしもいいことばかりではない。若手育成の観点からも、地域密着の観点からも、やはり自前で育てる生え抜きの選手は、Jクラブにとって欠かすことのできない存在だ。
その点においても鹿島は、盤石とは言えないまでも、抜かりなく手を打っている。それを証明しているのが、前出の町田である。
2015年に鹿島ユースが初めて日本一(高円宮杯U-18優勝)になったときのメンバーである町田は、プロ4年目の今季、主力に定着。植田、昌子とレギュラーが去った最終ラインを支えている。今年8月に22回目の誕生日を迎えるセンターバックは、充実の今季についてこう語る。
「シーズンを通して戦うことでいろいろなFWと、今日(浦和戦)で言えば、興梠(慎三)選手のようなすばらしい選手と対峙できる。試合に出て、ミスや失点をすることもあるが、そこから学ぶところはたくさんある。それは練習だけでは感じられないことだと思う」
23歳の鈴木や、20歳の安部が海を渡るのを見て、「もちろん、(彼らのように)海外へ行きたいという気持ちはある」と町田。だが、「チームにまだまだ貢献できていないので」と言い、こう続ける。
「その前に、国内で結果を出さないといけない。(海外移籍は)しっかりチームに貢献してからの話なので」
同点ゴールを許したシーンでは、警戒していた興梠に、まんまと背後を取られた。
「試合に出ているからには、結果を残さなければいけない。だからこそ、こういう試合を勝ち切りたかった。自分のところから失点したので、そこはもっとレベルアップして、勝ち続けられるようにしたい」
悔しそうに振り返る表情には、今季ポジションを手にしたばかりの若手の甘えはなく、常勝軍団を支える覚悟がうかがえる。
時代は変わった。じっくり時間をかけて高卒新人を育て、チームを強化する。そんなやり方は、もはや今の時代にはそぐわない。常勝軍団と言えども、否応なく変化を求められる。
だが、移籍補強の力を借りつつも、その一方で、クラブの伝統である生え抜き選手が育たなければ、勝ち続けることは難しい。ユース出身の21歳は、転換期を迎えた鹿島の、それでいて変わらぬ強さを象徴している。
◆海外移籍続出。転換期の鹿島にあって、 町田浩樹は変わらぬ強さの象徴(Sportiva)