[12.3 J1第34節 鹿島 2-1 横浜FC カシマ]
2試合連続の先発起用は今季のJ1リーグ戦で初めて。決して順風満帆な1年間を送ってきたわけではなかった鹿島アントラーズMF松村優太だが、シーズン最終節で確かな輝きを放った。
クロスに飛び込んだ今季2ゴール目に加え、決定機を導く高精度クロスも連発。「前半戦はなかなか苦しんだこともあったし、チームのやり方に悩んだこともあった。それが最後の最後に吹っ切れた感じがあった。自分自身として来季につながると思う」。大きな手応えとともにプロ4年目のシーズンを終えた。
最下位の横浜FCをホームに迎えた一戦。松村は前節の川崎F戦に続いて右サイドハーフで先発すると、1-0で迎えた前半41分に結果を出した。左サイドを走ったFW師岡柊生のクロスに対し、大外からゴール前に詰めてワンタッチゴール。これは試合の流れと自身の課題を踏まえたプレー選択だった。
「前半は裏を狙う回数はあったものの、なかなかボールが出てこなかったので、自分のリズムを作れないなと感じていた。でも逆サイドで作れている感じはあったので、クロスに入っていけばいつかこぼれてくるだろうと思っていた。うまくこぼれてきてよかった」
「最近、点を取っている形はカットインとかミドルが多かったけど、ああいう形でも点を取ることを増やしていけば、点数を取れるようになる。そういうのを重ねていけばシーズンを通して結果を残せることも増えてくると思う」
また後半には中盤からの展開を右サイドで受け、「フィーリングも良かった」と次々にゴール前へ決定的なクロスを配球。FW鈴木優磨のシュートがいずれも不発に終わり、アシストは未遂に終わったが、かつて課題とされていたフィニッシュ局面の精度でも成長の跡を見せた。
松村によるとクロスの成長は「どこで自分の感覚が変わったのかは自分自身でも分からないけど、見えている感覚、いまどこに誰がいるかという判断は今年自分が得たものかなと思う」と手応えがある部分。「それが最後の試合で出せて良かった」と充実感をのぞかせた。
静岡学園高での全国高校選手権優勝を引っさげ、2020年から鹿島に加入した22歳。爆発的なスピードを武器に初年度から出場機会こそ掴んでいたが、これまではプレー精度に課題を残し、過去3年間はなかなかコンスタントに結果を残すことができていなかった。今季も岩政大樹監督がシーズン開始から指揮を執った中、戦術への適応に苦しみ、出場機会は限定的。3月18日の横浜FM戦でシーズン初アシストを記録した後、10月21日の神戸戦で初ゴールを決めるまでの間、数字に絡む活躍はできていなかった。
だが、そうした苦悩の中での意識の変化が、開花への糸口になったという。
「できないことばかりに目が向いていたので、まず自分ができることをやろうと。もちろんチームのやることを最低限やらないといけないけど、自分がその中でどれだけ発揮できるかをフォーカスしたことが良くなった要因だと思う。僕みたいなタイプは丸く収まっていたら意味がない。メンタル面、考え方の切り替えが良かったのかなと思う」
その背景には鹿島でのトレーニングだけでなく、世代別代表の活動もあった。松村は今季、パリ五輪を目指すU-22日本代表にコンスタントに招集され、3月と6月の欧州遠征、9月のアジア競技大会に参加。そこでの活躍が評価されると、11月のアルゼンチン戦でも生き残りを果たし、来年4月のパリ五輪予選メンバー入りに近づいている。
所属クラブの活動と代表活動の並行では時に困難もつきまとうが、アジア大会後初のJ1リーグ戦となった神戸戦での初ゴールが象徴するように、松村の場合は前向きに両立できている印象だ。自身でも「自分のタイプ的に活動を続けたり、やっているほうがよくなっていく感覚がある。それが合っているのかなと思う」と充実感をにじませる。
代表活動という点では、鹿島のチームメートの飛躍も大きな刺激になっている。「佐野選手がいるけど、彼は(年齢が)一個上なので。彼も今年初めてのJ1で、あれだけ怪物みたいなパフォーマンスをしているから代表にも呼ばれる。追いつけ追い越せじゃないけど、歳も近いので、負けないように頑張りたい」。加入1年目でA代表に上り詰めたMF佐野海舟の存在も意識しながら野心を燃やしているようだ。
そんなA代表は来年1月1日、国立競技場でタイ戦を予定。アジアカップ前の壮行試合という位置付けが大きい一戦だが、シーズン真っ只中にある欧州組の招集は不透明なため、国内からも一定数の選手が選ばれるとみられる。過去の森保ジャパンの招集傾向を考えると、筆頭候補はパリ世代の選手。松村にチャンスが訪れる可能性もありそうだ。
松村本人はこの日の試合後、タイ戦の招集に関する質問に「いまは全く意識していないです」と笑顔でかわした。ただ、A代表の右ウイングにはMF伊東純也が君臨している中、同じく縦突破に強みを持つ自身が続く覚悟も見せた。
「日本人で足が速く、縦に行くタイプが出にくいのはある。それを活かしていくことができればと思って今年は左足のシュートもずっとトレーニングでしてきたし、クロスもそうだ。それが最近、結果としてついてきた」。コンディション最高潮のまま迎えたシーズン閉幕。しかし、来季への足掛かりを掴むチャンスは意外に早く訪れるかもしれない。
(取材・文 竹内達也)
◆最終節で堂々の1G&2A“未遂”…鹿島MF松村優太が乗り越えた葛藤「僕みたいなタイプは丸く収まっていたら意味がない」(ゲキサカ)