今月の北中米ワールドカップアジア2次予選を戦っている日本代表は16日夜に大阪でミャンマー戦(○5-0)を終えた後、夜が明けないうちにサウジアラビア・ジッダに移動し、21日のシリア戦に向けて再始動した。チャーター機移動のため17日午後にはジッダに到着し、18日から本格的なトレーニングを始められてはいるものの、過酷なスケジュールで次戦への準備が進められている。
3月の第2次森保ジャパン発足以降、1試合目と2試合目の間に大規模な長距離移動を強いられるのは初めての経験。ホーム&アウェーで戦うW杯予選ならではの日程で、W杯予選未経験者にとっては慣れない移動となる。それでも選手たちは各自、さまざまな工夫をしながらコンディション調整を進めている様子。この長距離移動も一つの大きな経験と捉え、サッカーキャリアの糧としていく構えだ。
ジッダでの初日練習終了後、キャプテンのMF遠藤航(シュツットガルト)は冷静にチームの取り組みを見つめた。「サウジは結構遠いなみたいな感じではあったけど、予選を戦ったことのある選手も多いので移動は慣れている。『2次予選がまた始まったな』という感覚なんじゃないかなと思う」。自身はロシア・カタールに続いて3度目のW杯予選。試合間の長距離移動はもはや当たり前のことだとして、冷静に受け止めているようだ。
今回の長距離移動に際して、周囲へのアドバイスは「特にしていない」と言う遠藤。「みんなそれぞれ時差対策とかコンディションの整え方はわかっていると思うし、ホテルでの過ごし方を考えたり、サウナを使ったり、ジムに行ったりしている」。すでに各自で取り組みが進んでいるため「自分から言う必要はないかな」という考えからだ。
森保ジャパンにおいて、長距離移動時の時差調整はチーム全体で全てを統制するのではなく、ある程度は個々人の裁量に委ねられている。海外組と国内組がミックスされた代表チームにおいて、活動前後の移動や試合日程は選手によってバラバラ。それぞれのスケジュールに配慮するため、選手の自己管理に信頼を置いているようだ。
とくに欧州組は所属チームに帰った後のことのことも見据えた時差調整が重要。試合はナイトゲームで行われることから、代表期間を通じて欧州のタイムゾーンで生活をする選手は珍しくない。カタールW杯予選を経験したDF冨安健洋(アーセナル)もその一人。それでも「時差対策は僕だけじゃなく、チーム全体でしっかりやれていると思う。問題ない」と述べ、遠藤と同様にチーム全員が自覚を持って取り組めているという考えを強調した。
経験豊富な選手たちにとっては長距離移動がルーティーンになっている一方、これまで海外遠征の経験が少ない国内組にとっては、そうした自己管理も含めた経験がサッカーキャリアの糧になっているようだ。
追加招集で初のA代表を経験しているMF佐野海舟(鹿島)は世代別代表の経験もなかったため、海外遠征は高校2年時のイタリア遠征以来の経験。それでもミャンマー戦で45分間プレーした後の長距離移動ながら、コンディション調整は順調。「睡眠であったり、水分を多く取ったり、なるべくリラックスできるように」と心がけて過ごした結果、18日のトレーニングでは5対5のミニゲームで持ち前の運動量を発揮するまでの状態に持ってきていた。
そんな佐野は自ら長距離移動時の心得を調べてきただけでなく、所属先の鹿島のトレーナーからも連絡をもらい、アドバイスを受けているという。鹿島は国際Aマッチウィーク直後の金曜日に次節の川崎F戦を控えているため、そうしたやり取りは代表活動後の試合を見据えた上でも有益なものになるはず。佐野は今回の活動で、疲労時にもプレー強度の落ちない欧州組のタフさに刺激を受けつつ「自分も波を少なくしないと今後こういうところに生き残っていけない」と課題を口にしていたが、連戦への向き合い方という点でも貴重な経験を重ねているようだ。
また国内組といえば、DF毎熊晟矢(C大阪)が着実な順応を重ねている。9月の欧州遠征、10月の国内活動に続き、今回が3度目の代表活動。W杯予選での長距離移動は初めてだが、「試合が終わってその日の深夜に移動というのは初めてだったのでいい経験になったし、キツさはもちろんあったけど、いろんなスタッフの皆さんの働きだったり、コーチの助言でそこまでキツくなく来られたかなと思う」と頼もしい言葉を口にする。
次戦のシリア戦に向けては最高気温30度を超える気候に合わせた暑熱順化も大きなテーマになるが、毎熊は「日本の時からそういった準備はしてきたので」と準備万端。初戦のミャンマー戦の出場も控えていた中でも、日本でのトレーニング期間からサウナで身体を慣れさせ、高温多湿下の試合を見据えた取り組みを進めてきていたのだという。
慣れないチャーター機の移動には「初めてだったし、すごいなと思った。アジアの移動でこんなに時間かかるんだと思った」と初々しい心境も口にした毎熊だったが、その待遇もA代表選手ならではの特権。「自覚は選ばれてからずっと持っている。こうしていろいろとサポートしていただいているのを返すのは、個人として試合に向けてしっかり準備していいパフォーマンスを出すことしかない。身体をパフォーマンス出せる状態に持っていくことをやっていかないといけない」。手厚いサポートを自身の力に変え、ピッチ上で恩返しをしていく構えだ。
対戦相手のシリアは第1戦の北朝鮮戦もジッダで戦っており、移動負荷や環境適応では向こうにアドバンテージがある。また同組では日本に次ぐポット2の相手とあり、このアウェーゲームが2次予選最大の山場になるのは間違いない。
しかし、W杯優勝を目指すからには「それでも勝っていかないといけないのが僕たち」(遠藤)というのも事実だ。今回の2次予選では大胆なターンオーバーを採用し、選手それぞれの負担は軽減されているが、最終予選では主力の連戦起用も濃厚。それぞれがコンディション面の向上に取り組み、確かな強さを示し続けていきたいところだ。
(取材・文 竹内達也)
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