名古屋のシュートはゼロ
プレスを“ハメる”とはよく言うが、この試合における鹿島アントラーズの守備は、どちらかといえば“ぶつけにいく”といった表現の方がしっくりきた。12日に行われた明治安田生命J1リーグ第21節にて、名古屋グランパスと対戦した鹿島。2021シーズン、堅守で鳴らすグランパス相手の試合となったが、この試合で守備が目立っていたのはアウェイチームの方だったと言っていい。
鹿島の守備に対する意識の高さは、先発メンバーの人選からも窺い知ることができた。この試合に臨むにあたって、相馬直樹監督はトップ下のポジションにアグレッシブな守備的を得意とするMF小泉慶を起用。今季はルヴァンカップでも何度かこの形は採用していたが、アルビレックス新潟や柏レイソル時代から守備的MFや右SBを主戦場としていた小泉のトップ下起用に驚かされた人も少なくなかったことだろう。
だが、これが見事に的中。鹿島は前半から積極的に前に出る守備で、名古屋のリズムを崩すことに成功した。小泉やファン・アラーノといった前線の選手たちの圧力は素晴らしく、ホームチームの自由を奪う。名古屋も必死に前線へボールを繋ごうとするが、勢いよくボールを刈り取りにくる鹿島の前に為す術がなかったといっても過言ではない。
すると、そのプレスが名古屋に焦りを生んだのか。33分には、CKから名手ランゲラックのミスが絡んで鹿島が先制に成功。その後もアントラーズは圧力を弱めることなく、試合はハーフタイムを迎えた。この時点で、完全にペースは鹿島が掴んでいたと言っていい。
そして、後半も鹿島は狙いどころにボールが入ると、果敢にボールを刈り取るしたたかさを見せる。前線からプレスに行く機会は減ったものの、インテンシティの高さ自体は前半と同じレベルをキープ。結局その勢いは最後まで衰えることなく、鹿島は86分にも追加点を奪い2-0で堅守・名古屋を打ち破ることに成功した。
90分を通して名古屋に強い圧力をかけ続けた鹿島。この試合、名古屋に許したシュートはゼロというのだからなお驚きだ。そのキーマンとなったのは、やはりトップ下で起用された小泉だろう。彼がいたことで、鹿島のプレスは強度を保つことができたといっても過言ではない。試合後、DF犬飼智也も小泉に関しては次のように語る。
「(小泉は)『全部のところに顔出したんじゃないかな』というくらいに走っていました。あまり目立たないプレイも多いですが、チームのためにあれだけやってくれたら後ろは楽になるなというのを体現していたと思います」
「(後半は)たぶん前から行けと言われれば、慶は行けていたと思います。ですが、(後半途中からは)守備の位置をチームとして少し下げて、スイッチを入れる場所やタイミングを明確にしていました。チームとしては、そうしたときのスイッチを入れる強度をもう少し上げることができれば、もう少し自分たちの時間を作れた気がします。あとは奪った後にボールを早く攻めるのか、ゆっくり持つのかという判断。そこはまだまだ上げていけるのかなと思います」
今季好調の名古屋に対して、まさに“試合を支配”して勝ち点3をもぎ取った鹿島。一時は調子の上がらない時期もあったが、ようやく鹿島らしい手堅いサッカーが帰ってきた。現在は7位だが、逆襲のアントラーズが早々に上位追撃モードとなっている。
◆[MIXゾーン]アントラーズが見せた90分間の“完全支配” 強烈プレスで名古屋を圧倒(the WORLD)