サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第250回。
現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したことや、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。
今回のテーマは、現在J1リーグで首位につけている鹿島アントラーズについて。その好調の理由のひとつには、鈴木優磨の復帰があると宮澤ミシェルは語る。
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鹿島が好調だよ。この時期にJ1リーグの上位をキープしているのは、久しぶりっていう感じだよな。
2020年シーズンは最終的に5位だったし、昨シーズンも4位。ただ、シーズン序盤に苦しんで尻上がりに順位を上げていった。もちろん、最終的な順位は大切なんだけど、そこは鹿島だからね。
ひと桁順位なら御の字というクラブもあるだろうけど、鹿島には30年間で20ものタイトルを獲得した歴史と伝統があるんだぜ。やっぱり毎シーズン、優勝争いに加わってくれないとダメな印象が強まっちゃうし、Jリーグだって盛り上がらないよな。
その鹿島は今季からブラジル路線をやめて、ヨーロッパ路線に大転換した。前監督のザーゴもブラジル人だけど、やろうとしていたサッカーはヨーロッパスタイル。ただ、それがうまくいかなかったことで、今回は監督からヨーロッパ。スイス人のレネ・ヴァイラーを新監督に迎えた。
新たな挑戦に乗り出したのに、新型コロナの影響で新監督は来日できないままシーズンが開幕しちゃった。これは先行きが思いやられるなと心配していたんだけど、代理監督の岩政大樹コーチのもとでJリーグとルヴァンカップの5試合を3勝2敗で乗り切った。
それで3月11日にようやくレネ・ヴァイラー監督が入国できて、3月15日のルヴァンカップから采配をとっている。初戦の大分戦は引き分けたけど、その後はJ1リーグ戦で5勝1分1敗、ルヴァンカップで2勝0敗。チーム合流が遅れたハンディを跳ね返す結果を出しているよな。もちろん、それまでチームを率いた岩政大樹コーチの存在があるにせよ、だよ。
チームスタイルを改革するってのは、そう簡単に結果の出るものではないからね。もともとポテンシャルの高い選手が揃っているチームだと、馬なりでも結果が出ちゃうこともあるから、そこについて言及するのはもうちょっと試合数を重ねてからにしたいね。
ただ、現状でチームが好調な要因をあげれば、ひとつは鈴木優磨の復帰があるだろうな。
鈴木の前線での動きはチーム全体に躍動感を与えるし、最後までゴールに強烈にこだわる姿勢は勝負への粘り強さをもたらしていると思うよ。
それに鈴木の姿勢ってのはさ、鹿島が30年間で積み上げてきた伝統でもあるんだよな。ジーコにしろ、小笠原満男にしろ、歴代のチームには勝利への執念があったし、そういう姿勢が相手チームに嫌がられたわけでもあるからね。
スタイルをブラジルからヨーロッパに変えるのは大いに結構! もっと強いクラブになることを目指して、進化しようっていう意欲は大事だからね。でも、勝負に対する姿勢は、鹿島の場合は変える必要はないなって、鈴木のプレーを見ていたら再認識したよ。
今シーズン最後まで優勝争いに加わっていくためには、守備のところの強度と安定感が高まってくると期待できるんじゃないか。
シーズン当初は関川とキム・ミンテがCBコンビを組んでいたけど、新型コロナの陽性者が出たことや少し守備が不安定だったこともあって関川郁万と三竿健斗になった。いまは、そこにブエノとキム・ミンテが絡んでくる形になっているけど、まだまだ危なっかしさはあるんだよな。
高卒4年目の関川は時々ポカもやらかすけど、しっかり成長しているし、なにより三竿には驚かされたね。開幕前からボランチに加えて、センターバックでの準備してきたっていうけど、センターバックをあのレベルでプレーできるとは予想外だったね。シーズンが進んでいけばコンビネーションはもっと高まると思っているよ。
3連覇を狙う川崎フロンターレ、アグレッシブなサッカーの横浜F.マリノス。この2強に鹿島アントラーズが最後まで優勝争いに食らいついていけると、Jリーグは本当に盛り上がると思うよ。ACL組が復帰するのは5月7日だけど、それまでに勝ち点をしっかり伸ばしておいてもらいたいね。
◆好調の鹿島を牽引する鈴木優磨に宮澤ミシェル「彼は鹿島の伝統を体現している」(週プレNEWS)