岩政大樹監督が退任、FC東京やC大阪を率いたランコ・ポポヴィッチ氏を招聘
今シーズンのJ1で5位に終わり、国内で7年連続タイトルを逃した鹿島アントラーズは2022年の途中からチームを指揮してきた岩政大樹監督が退任。代わって大分トリニータ、FC東京、セレッソ大阪、FC町田ゼルビアを率いたランコ・ポポヴィッチ氏が来シーズンの鹿島を指揮することが決まった。
“ポポさん”の愛称で知られる同氏はセルビア1部リーグのFKヴォイヴォディナ・ノヴィサドでの任期中であることから、相応の違約金を支払うことに鹿島側が同意したと伝えられる。吉岡宗重フットボールダイレクター(吉岡FD)は「ブラジルやヨーロッパへも広げて幅広くリサーチしていくなかで、最終的には攻守にアグレッシブで、かつ組織的にプレーできる戦術を落とし込める監督」と招聘理由を説明する。
「今シーズンなかなか攻撃の構築ができないなかで、攻撃面のアップデートを必ずやっていかなければいけない。ここ数年の課題だったんですけど、監督を選定するにあたって戦術どうこうというよりも鹿島らしさ、勝利への執着心であったり球際、切り替えの早さといったものを監督をフィルターをかけながら(探した)」
吉岡FDは岩政監督に限らず、過去数年でうまく行かなかった攻撃面の課題を強調していた。ただ、その課題だけに向き合い、国内外で幅広くリサーチしたのであれば、適任はほかにもいたはずだ。やはり理由として大きかったのは吉岡FDが、大分の強化部強化担当をしていた時の縁と信頼関係だろう。
これまでJリーグ最多の20冠を獲得した鹿島を支えてきた鈴木満前FDを昨年から吉岡FDが引き継ぐ形となった。レネ・ヴァイラー監督(現・セルヴェットFC)はコロナ禍で来日が遅くなり、宮崎キャンプから開幕数試合にかけては岩政コーチが監督代行を務める形で乗り切った。そこから正式にレネ監督が率いると、しばらくはハイプレスから素早く縦を突く形がハマり、勝ち点も積み上げることができた。
レネ監督のスタイル自体はおそらく鹿島の模索するサッカーと合致していたはずだが、ベクトルが前にかかりすぎていたことで、試合終盤の“ガス欠”や攻撃面でのノッキングを起こしたタイミングで相手に背後を狙われるなど、ウィークポイントも明確になってきていた。それでも監督交代の時点で5位。夏場以降、高強度を求めるスタイルではさらに下降線を辿る危機感はあっただろう。
23シーズンでスタイルそのものまで大きく針を振ってしまったことは疑問
2022年残りのシーズンに関しては岩政監督にとってもフロントにとっても、試行錯誤になったことは仕方がない。ただ、23年シーズンを戦うにあたり、スタイルそのものまで大きく針を振ってしまったことに関しては疑問がある。常に自分たちで主導権を取り、相手の逆や裏を突く。思考性の高いサッカーというが、岩政監督の掲げる基本プランだった。
そのためプレシーズンからビルドアップを継続的に高めてきたが、それはポゼッションをベースにするという意味ではなく、分かりやすく表現するならジャンケンの弱い部分を引き上げて、質の高い“あと出しジャンケン”をするための一手段であり、相手の出方を見ながら動かす、飛ばす、背後を突くと言った選択肢を自在に繰り出していく形だ。
よく鹿島のサッカーについて「形が見えない」と言った声もあるが、それは岩政監督が目指すスタイルを考えれば、ネガティブなことではない。ただ、それがチャンスやゴールになかなか結びつかなかったり、1つのミスから後手に回ると、ネガティブなイメージになってしまった。吉岡FDは岩政監督について「彼自身がいろいろやりたいことは把握してやってたんですけど、おそらく観ているサポーターや皆さんがどういうことをやりたいかまでは表現できなかった」と評価したが、観る側が簡単に分かる時点で、それは“岩政サッカー”ではないのだ。
そう考えると、今シーズンがスタートした時点で吉岡FDが結果だけでなく、最低限やってもらいたいベースを明確に提示して、そこに岩政監督のカラーを付けていく流れにしないと辻褄が合わない。岩政監督も就任当初はレネ体制で強く触れてしまったベクトルを多少修正したいという趣旨のコメントは出していた。それが2022年シーズンの終盤あたりから変わってきて、今年につながっている。逆に基本スタイルまである種“丸投げ”するなら、最低でも複数年は任せないと、継続性というのは生まれないだろう。そもそも難易度の高いサッカーにチャレンジしていたのだ。
話をポポヴィッチ新監督に戻そう。吉岡FDとしてもこれまでの反省を踏まえて、大分時代からの知古の関係であり、スタート時点でキャラクターや戦術的な方向性が把握できているポポヴィッチ監督ならば、基本的な戦い方を共有しながら、必要に応じた軌道修正も話し合って行きやすいというのはあるだろう。
「(ポポヴィッチ新監督に)明確なゲームモデルも事前に作成してもらって、スタッフにも共有しました。シーズンが始まる時にチーム全体に見せて、向かう方向を理解してもらいたい。アグレッシブなフットボールになるので、このフットボールをやるんだったらフィジカルやらないといけないよねと認識させてプレシーズンに入って、宮崎キャンプでチームの戦術を浸透できるバックアップ体制を取って行きたい」
現場だけでなく、フロントも現代サッカーの潮流に適応していけるか
吉岡FDはこう説明する。ポポヴィッチ新監督も攻撃的な中での選手の判断というのは重視するが、今年の鹿島よりもベクトルがよりはっきりしたものになるだろうし、ストロングポイントが明確になるだろう。観る側にも何がしたいか分かりやすいし、選手も共有しやすい。思考領域が限定される分、判断材料がシンプルになり、選手間でもつながりやすくなるが、逆に対戦相手も分析はしやすくなる。
いくら吉岡FCと気心がしれていると言っても、就任1年目である。しばらくはベースの構築段階で、ハマった試合とハマらない試合で、結果にバラつきがあるかもしれない。そこから相手の戦い方に応じたアレンジといったものも生まれてくるかもしれないが、大事なのは選手たちが「この監督ならば」と付いて行くこと、そのまとまりが勝てる集団としての強く太いベクトルになって行く。結局プレーするのは選手たちだからだ。
ここで監督交代に踏み切った以上、チームの成長を粘り強く見守っていく必要はあるだろう。もちろん鹿島というクラブで監督をやる以上、結果が出なければ続けることはできない。これはポポヴィッチ監督であろうと変わらないのだ。その前提で求めないといけないのは組織として現場をバックアップできるフロントの構築だ。鹿島が本当に継続的な強さを取り戻すというより、新たに身に付けていくためには現場だけでなく、フロントが現代サッカーの潮流に適応していく必要がある。
「(鈴木)満さんほどの経験がある方が引っ張るのと、私に代わって組織として強固にしなければいけないなというのは正直、痛感しています。そうした部分では来年も含めて、組織をしっかりと構築していくような準備を今しているところです」と吉岡FD。“フットボール本部”という名前を鹿島が使うかは分からないが、その言葉に期待しつつ、現場とクラブ両面から鹿島を見届けて行きたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
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