http://www.sanspo.com/soccer/news/20140605/jpn14060516260024-n1.html 2月9日のハノーバー戦で右太ももを痛めながら、3カ月半の長期リハビリを経て、5月27日のキプロス戦(埼玉)で念願の公式戦復帰を果たした内田篤人(シャルケ)。この一戦で自ら決勝点を叩き出し、復活を大いにアピールした。
その後、アメリカ入りし、多少の筋肉の張りを訴えたが、6月2日のコスタリカ戦(タンパ)は60分の予定を自ら志願して70分間出場。コスタリカのブライアン・ルイス(PSV)の失点場面に絡んだものの、遠藤保仁(G大阪)の同点弾をお膳立てするなど、キプロス戦より格段に良いパフォーマンスを見せた。(文/元川悦子)
「時間が伸びた割には、意外に体に来てない感じがします。キプロス戦ではボールを持ったときに見えないところがあったけど、この前は大迫(勇也=1860ミュンヘン)のいる奥も見えてましたし、嘉人(大久保=川崎F)さんが前に入ったので近めにボールを渡したりと、だいぶ視野が広がってきたかな」と、4日のメディア対応に現れた彼は順調な回復ぶりを強調した。この日夕方の約1時間半にわたるトレーニングも問題なくこなしたという。
その一方で、まだ物足りない部分もあるようだ。
「体はいいので、あとは相手の動きに慣れていかないといけない。失点したシーンもそうですけど、あそこでちょっと味方と見合っちゃった部分があった。ターンももっとうまくできるし、こぼれ球も何回か行けたなってシーンがあったので、そのへんですね」と彼は自らの課題を明確に見据えていた。ブラジルワールドカップ本番前最後のテストマッチとなる6日のザンビア戦(タンパ)は「監督に(90分)行けと言われたら行けます」とフル出場を目指す考えだ。
ちょうど4年前の南アフリカワールドカップで、内田はスイス・サースフェーでの事前合宿で右サイドバックの定位置を今野泰幸(G大阪)に明け渡すことになった。その今野がコートジボワール戦(シオン)で負傷した後も、内田ではなく駒野友一(磐田)が使われた。「(岡田武史)監督の信頼を得られなかった」と当時の彼はどこかメンタル的な不安定さを垣間見せていた。けれども、シャルケへ移籍してからの4年間でドイツのタフな環境に適応し、チャンピオンズリーグ決勝トーナメントを何度も経験した今は決して動じない。6月14日の初戦・コートジボワール戦(レシフェ)も「普通っしょ」とこれまで踏んできた数々の大舞台と変わらない気持ちで挑めそうだ。
「初戦が大事ってことはみんな分かってる。初戦でこけたらどうなるかって心配もありますけど、負けたり引き分けたりしてもガックリ来るのか、開き直るのかは、ここまでやってきた場数にもよると思います。個人的にはあんまり心配してない。今までもいろんな国、いろんな選手とやってきたからいつも通りです」と本人は堂々とした様子だった。
日本代表の最近1年間を振り返ってみると、ブラジルやメキシコ、ウルグアイ、オランダ、ベルギーといったワールドカップ出場国との対戦で毎回のように先に失点している。本田圭佑(ACミラン)のように、そのことを深刻に捉える選手もいる。内田も堅守の一翼を担う覚悟はできている。
「まあそういう試合もあるんじゃないですか。自分はディフェンスなので、無失点で行きたいですけど、相手もいいチームだし、点を取るやつは取ってきますからね。サッカーは点が入るスポーツだし、仕方ない面はある」と内田らしい飄々とした口ぶりで、状況に応じた対応力の重要性を語っていた。
長友佑都(インテルミラノ)も「コートジボワールは前線や攻撃の選手はすごいけど、守備ができる選手がいないし、サイドバックの僕らがオーバーラップする動きにはついてこれないと思う。サイドの攻防が一つのカギになりますね」と指摘した通り、右の内田、左の長友の2人が揃ってこそ、日本の攻撃的なスタイルが完成に近づく。世界トップレベルで数々の修羅場をくぐってきた内田なら、多少の困難に直面しても、冷静に対処できるはず。彼の経験値を本番までの10日間で、チームにしっかりと注入してほしいものだ。(Goal.com)
元川悦子
1967年長野県松本市生まれ。94年からサッカー取材に携わる。Jリーグ、日本代表、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は練習にせっせと通い、アウェー戦も全て現地取材している。近著に「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由」(カンゼン刊)がある。