10月の日本代表2連戦を終えて、フィールドプレーヤーで唯一出場機会がなかったDF植田直通。それでも、新たな決意を胸に前を向いている。
顔で笑って、心の底で悔しがって――。
ハイチ代表戦を終えたDF植田直通の胸中を察すれば、こんな表現になるだろうか。
「今回の合宿では、あまり出ていなかった選手に出場機会を与えたい。2試合とも違ったメンバーで戦うことになると思う。それぞれの選手がチャンスをつかんでほしい」
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が今回のキリンチャレンジカップ2017に向けた日本代表メンバー発表会見で発信した檄を糧に、植田も待望の国際Aマッチデビューを目指した。
だが、6日のニュージーランド代表戦(豊田スタジアム)はリザーブのまま、吉田麻也と槙野智章が組んだセンターバックの一挙手一投足を目に焼きつけた。そしてハイチ戦が行われる横浜へ移動後も、植田が非公開練習で主力組に入ることはなかった。
ハイチ戦のキックオフをピッチで迎えたのは槙野、そして鹿島の先輩である昌子源だった。ならばと、途中出場を目指してウォーミングアップを重ねた。そして後半、続々とベンチの選手が投入されていく。中には今回の10月シリーズで初めてA代表に招集され、ニュージーランド戦でともに出番なしに終わった左サイドバックの車屋紳太郎も含まれていた。
迎えた80分。最後の交代枠として武藤嘉紀が乾貴士に代わって投入される。21人を数えたフィールドプレーヤーでただ一人、植田だけが2試合を通じてピッチに立てないことが確定した。
「後半からチャンスはあるかな、と思っていたんですけど。ただ、試合展開的にも負けている状況になったので、攻撃陣の枚数を増やすのが当たり前なのかなと」
取材エリアで心境を語る姿からは、悲壮感の類は感じられない。しっかりとした口調で、時には柔和な笑顔すら浮かべている。努めて前を向こうと、自らを必死に鼓舞する思いが逆に伝わってくる。
今回こそは――自分自身に期待しながら、愛知県内で開始された合宿に参加した。代表メンバーの発表直前に行われた明治安田生命J1リーグ第27節のガンバ大阪戦。後半アディショナルタイムに劇的な決勝弾を叩き込み、雄叫びを上げた試合後に、興奮さめやらぬ22歳はこんな言葉を残している。
「自分は代表に行っても、いつも試合に出られない。悔しさを感じている中で、もっと成長しなければいけないということも分かっている。来年のロシア大会まで残された時間は少ないけど、日々の練習からやっていかないと」
彼が初めてA代表に招集されたのは2015年1月。オーストラリアで開催されたアジアカップ2015に臨むアギーレジャパンへ、故障で辞退したDF内田篤人に代わって追加された。しかし、準々決勝でUAE(アラブ首長国連邦)代表に敗退するまでの計4試合で出番はなし。帰国後にはこんな言葉とともに、捲土重来を期していた。
「A代表の先輩たちが真剣勝負を繰り広げている姿を間近で見ることができた点で、すごくいい経験にはなった。普段はどのような生活をしているのかも分かったので」
その後に発足したハリルジャパンで、コンスタントに招集され始めたのは昨年9月。昨夏にはリオデジャネイロ・オリンピックを経験し、鹿島ではリーグ戦と天皇杯の二冠獲得に貢献。12月のFIFAクラブワールドカップで準優勝するなど、心身ともに成長したはずだが、A代表デビューだけが遠い。
6月シリーズからは負傷の森重真人(FC東京)に代わり、昌子が吉田の相棒に指名された。植田の中で新たな目標が生まれた。
「いつも隣でプレーしている選手が、日の丸を背負って戦っている。『自分も』という気持ちになるし、負けていられない、いつか必ず追い越してみせる、という思いでプレーしている」
2歳年上の昌子も、アギーレジャパンでA代表に初招集されてから、ハリルホジッチ監督の信頼を得るまでに約2年8ヶ月もの雌伏の時を強いられた。植田の気持ちは、誰よりもよく理解している。
「こんな試合をして申し訳ない。お前が出ていたらどうなっていたのかは、お前が一番よく分かっていると思うけど」
ハイチの猛攻の前に3失点を献上し、何とか引き分けに持ち込んだ直後、ロッカーへ戻る途中で昌子は植田にこう話しかけたという。そこには先輩からのエールが込められていた。
「自分がいいパフォーマンスやったか、と言えばそうじゃなかった。チームが3失点している時に『自分が出ていたら』と思うのは、選手ならば当たり前のこと。一番悔しい思いをしているのは間違いないし、だからこそナオには頑張ってほしい」
息をつく間もなく、次なる戦いは訪れる。J1では首位を走るものの、代表に合流する直前にサガン鳥栖に苦杯をなめた。残り6試合で、2位の川崎フロンターレとの勝ち点差は5。ホームにサンフレッチェ広島を迎える14日のゲームで負けは許されない。連覇が懸かる天皇杯も、25日にヴィッセル神戸との準々決勝が待つ。
「ショック? 今ですか? もちろんです」
偽らざる心境を笑顔とともに表した植田は、自らに言い聞かせるように決意を新たにする。
「僕はやり続けるしかない。Jリーグもすごく大事な時期に入ってきているし、クラブでしっかりと結果を出し続けて、また呼ばれるように頑張っていきたい」
初招集からまもなく3年が経過する。186センチ、79キロの屈強なボディをさらに鍛え上げ、テコンドー仕込みの闘争心を静かに燃え上がらせながら、植田がA代表デビュー、そしてロシア行きの切符という獲物を追い求め続ける。
文=藤江直人
初招集からまもなく3年…代表デビューを待つDF植田直通の新たな決意