【No Ball,No Life】鹿島OBで元日本代表監督のジーコ氏(64)が17日、古巣のクラブハウスをサプライズ訪問した。選手、関係者には事前連絡はなく、練習場にジーコ氏が登場すると、見学中のサポーターから歓声が上がり、選手たちも一様に驚きの表情を見せた。
主将のMF小笠原満男(38)らと握手をかわしたレジェンドは“ジーコイズム”を受け継ぐ選手たちを激励した。何よりも勝利にこだわるジーコは「いまは首位にいるけど、常に勝ち続けることが大事」と選手にハッパをかけた。
“常勝軍団”の精神的象徴となっているジーコイズムはピッチに立つ選手だけでなく、クラブスタッフ一人一人に宿っている。チームが勝つために、選手たちをどのように支えていくのかをそれぞれが考え、勝利に徹する姿勢を見せている。
先日、このコラムで同じサッカー担当の清水記者が「濃霧の試合は中止してもよかった」と書いていた。5日のJ1第20節(鹿島2-0仙台、カシマ)で濃霧のため、試合が2度も中断するハプニングが発生した。「プロスポーツはファン、サポーターに見てもらってナンボの世界」というのが清水記者の見解だった。それも一理ある。
ただ、スタジアムにいた当事者たちの考えは違っていた。1点リードしていた後半に霧は一層濃くなったが、選手、関係者の思いは「続行」だった。再試合となれば状況、展開が変わり、勝っていた試合を落とすこともある。鹿島は7月にアウェー4連戦を戦うなど今季は過密日程となっているだけに、現行の試合を先送りにしたくない思いが強かった。
スタッフは大型送風機を使用するなど、状況の改善を試みた。クラブ関係者は「送風機で何とかなるとは思ってもいなかった。最終的な判断はマッチコミッショナーだが、何かしら策を打つ姿勢を(審判団に)見せることで続行させることだけを考えていた」と明かした。
「勝てる試合は何が何でも勝つ」。選手たちにとってはなおさらその思いが強く、小笠原は主審に「できるよ、できる。やろう、やろう」と訴え続け、中断時間中も集中力を切らせることはなかった。
「ファン、サポーターに見てもらってナンボの世界」だが、選手たちからしてみたら「結果を出してナンボの世界」でもある。勝ちにこだわることこそがプロの本質であり、ジーコ氏が説いてきた“ジーコイズム”なのである。試合後にスタンドから拍手がわいていたのは、鹿島のサポーターもそのことは承知しているからこそのもの。
川崎戦では黒星を喫したが、この敗戦、そしてジーコ氏の言葉で再び鹿島は目覚めることとなる。20冠目のタイトル獲得に向け、王者は一層強くなっていく。(一色伸裕)
鹿島で継承される勝利にこだわるジーコイズム “神様”の電撃訪問で王者は一層強くなる