鹿児島&宮崎キャンプのキーマン7選/伸び盛りの上田に指揮官、柳沢コーチも大きな期待
Jリーグ開幕まで2週間。鹿児島・宮崎で調整を続けていたセレッソ大阪、清水エスパルス、ジュビロ磐田らが続々とキャンプを打ち上げ、本拠地へ戻りつつある。それぞれ練習試合を行ない、徐々にチーム完成度を高めている段階だが、やはり強固な組織を構築するためには、ピッチ上の牽引者が必要不可欠。そんな重要プレーヤーに焦点を当ててみた。
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まずはザーゴ監督体制の下、2016年以来のJ1タイトル奪還を狙う常勝軍団・鹿島アントラーズ。指揮官から「非常にポテンシャルの高い選手。彼の能力が開花すれば、将来的に日本代表になる」と名指しでキーマンに指名されたのが、新エースFWの上田綺世だ。実質ルーキーだった昨季はケガで苦しみながらも二桁得点を記録。今季はさらなるゴール量産が期待される。
「僕はシュートを打つ時に選択肢を多く持つことが余裕につながると考えている。数ある選択肢の中で最善な解決策を選ぶことを意識しています」と昨季終盤にも語ったが、プロ入り1年あまりで点取り屋としての冷静さを身に着けたのは大きな収穫だ。かつて鹿島の最前線に君臨した柳沢敦・ユース監督も「上田選手が自分に似ていると言われるけど、彼の方がずっとパワフルだと思う」と力強さと前線での迫力に太鼓判を押していた。
今季は背番号を18に変更し、エヴェラウドとともにFWの二枚看板としてゴール量産が求められる。それが鹿島の王座奪還、そして自らの日本代表定着にもつながる。コパ・アメリカなどの国際舞台も踏んでいる上田なら、何をすればその領域に近づけるかよく分かっているはず。伸び盛りの男の一挙手一投足が楽しみだ。
その鹿島をかわしてアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権を勝ち取ったセレッソはレヴィー・クルピ監督率いる新体制で攻撃的な戦いができるチーム作りを進めている。ただ、ユン・ジョンファン(現ジェフ千葉)、ミゲル・アンヘル・ロティーナ(現清水エスパルス)両監督が築いた守備のベースも維持しなければ、タイトルの取れる強い集団にはなれない。そう強調するのが、絶対的リーダーの清武弘嗣だ。
清武が語る理想のチームスタイル。清水が挑むロティーナ戦術でキーパーソンとなるのは…
「ユンさんとロティーナの守備を継続しつつ、もう少し攻撃的にできれば理想です。過去4年間を知っている選手が『ここに立ち返るんだ』というのを新戦力に伝え、すり合わせながらいいチームを作らないといけない」と言うキャプテンの清武は、宮崎で挑んだ徳島ヴォルティス、横浜FC、町田ゼルビアとの練習試合でも「立ち位置をしっかりしよう」と周囲に声をかけて戦った。
新戦力の進藤亮佑、鳥海晃司らセンターバック陣がケガで出遅れ、現時点では瀬古歩夢と西尾隆矢という若いDFが中心とならざるを得ないという懸念もあるものの、昨季主力組の攻守両面にわたる安定感は不動のものだ。清武自身もケガなしで2シーズン連続フル稼働できれば、チーム全体が揺れ動くことはないはず。攻撃のお膳立て、フィニッシュ、統率力を含め、あらゆる面で彼がカギを握っていると言っても過言ではない。
怪我続きだった清武を再生させ、セレッソに強固な守備を植えつけたロティーナ監督が指揮を執る清水も、守備組織の構築が着実に進んでいる印象だ。9日の松本山雅戦は3本目にまさかの3失点を喫し、合計スコアは4-4のドローに終わったものの、1本目に出た権田修一、原輝綺、鈴木義宣、ヴァウド、片山瑛一の守備陣は手堅い守りを披露。「1本目はミスも少なく、いい状態で入れた」と指揮官も満足そうだった。
スペイン人指揮官のポジショナルプレーは戦術浸透に時間がかかると言われる。実際、セレッソも1年目は結果が出始めるまで開幕から2か月以上の時間を要した。が、今回は指揮官の愛弟子である片山がピッチ上にいて、立ち位置やゾーンの守り方などの約束事を伝えてくれている。それは非常に心強い要素だろう。
「セレッソ時代の記憶を辿ると、現時点での手応えはほぼ近いものがある。片山がいることも大きい。彼は私のコンセプトを知っているし、彼自身が知っていることを周りに伝えられる。さらに複数ポジションをこなせるいい選手がいることは非常にプラスです」と指揮官も絶大な信頼を寄せていた。
今後、エウシーニョやウイリアム・マテウスが合流すれば、彼自身の立ち位置は微妙になるかもしれないが、「ロティーナの片腕」という役割は変わらない。要所要所で穴を埋める意味でもこの男の存在は欠かせない。
昨季キャリアハイの数字を残した五輪世代アタッカーと、攻守両面で輝く磐田のキーマン
監督交代のあったセレッソ、清水とは異なり、サンフレッチェ広島は城福浩監督体制3年目。大きなメンバー変更もなく、成熟度は確実に上がっている。彼らは6日の松本山雅戦を8-1で勝利した後、10日にはジュビロ磐田と対戦し、6-2で勝利。若い鮎川峻やレンタル復帰組の長沼洋一が3試合連続ゴールを挙げるなど、選手層の厚さを印象づけた。
ベテラン・青山敏弘、キャプテン・佐々木翔、幅広い役割をこなせる柏好文など計算できる選手が数多くいるチームにあって、あえて今季のキーマンを挙げるとすれば、背番号10をつけて2シーズン目となる森島司だろう。昨季はリーグ34試合に全て出場し、5得点を挙げるというキャリアハイの数字を残したものの、アシストは少なかった。本人は「今年はもっと得点に絡みたい」と意欲を燃やしている。
鹿児島での練習試合では4-4-2の左サイドに入ることが多く、ゲームメイクのみならず、自ら積極的に仕掛けていく場面も目についた。さらに得意のFK、CKからの得点機を作っていた。その精度を一つひとつ高めていくことで、エースナンバー10に相応しい存在になれるはず。4月には24歳になるだけに、もう若手とは言えない。青山ら大ベテランを自分から動かすくらいの強気の姿勢を前面に押し出し、一皮むけた「ニュー・森島」を見せてほしいものである。
この広島に10日の練習試合で脅威を与えたのが、磐田の大森晃太郎だ。3-4-2-1のシャドーの一角としてプレーした1本目は鋭くダイナミックな飛び出しを繰り返し、決定的シュートを3~4本も打っていた。その大半がサイドネットに飛んだり、枠をかすめたりと決定力の課題は残ったものの、彼の神出鬼没な動きは間違いなく今季の磐田の武器になりそうだ。
「身体を作っている段階で4割5割くらい。去年の途中から(鈴木政一)監督とは一緒で、やりたいサッカーは理解できてきていると思うし、その中で最後の精度、ゴールを取り切るところの精度を付けていかないといけないと思います。自分の(最適な)ポジションはシャドーやと思ってる。厚みのある攻撃を僕たち前の選手がやっていかないといけないと思いますし、もっとFWに近い位置でプレーできたらなと思います」と6日の清水戦後にも語っていたが、広島戦でも意欲はハッキリと出ていた。彼の献身性と運動量が遠藤保仁の攻撃力をより際立たせるという意味でも、その存在は不可欠。J1昇格のためには大森のフル稼働が重要だ。
選手層・成熟度で分がある磐田に比べると、ともにJ1昇格を争う松本山雅FCにはやや不安も残る。だが、昨季途中に大分トリニータから赴いた佐藤和弘のゲームメイク力と攻撃センスがいかんなく発揮されれば、2位以内への躍進の可能性もゼロではない。6日の広島戦、9日の清水戦では、ともにキャプテンマークを巻いてプレー。高い技術と戦術眼でチームを確実に統率していた。
「キャプテンはまだ決まってないですけど、柴田(峡)監督から指名されるようにならなければいけない。山雅の攻撃リズムを作るのは自分だと思っているし、味方を生かすも殺すも自分次第。試合に負けたら『俺のせい』と思うくらいの責任感を感じながら戦いたいですね。前線と距離感がまだ遠いんで、そこを修正しながらやらないといけないし、自分自身もミドルシュートを増やさないと。今年は5点くらい取れればと思っています」と本人も大黒柱の自覚を持って、鹿児島キャンプにのぞんでいるという。
これまでJ3のツエーゲン金沢を皮切りに、水戸ホーリーホック、ヴァンフォーレ甲府とJ2を渡り歩き、辿り着いたJ1大分では出場機会に恵まれなかった。だからこそ、松本山雅で再びJ1への挑戦権を得たいという気持ちは強いはず。今こそ雑草魂を示す時だ。
ラストの1人は、松本山雅と2月28日の開幕戦で激突するレノファ山口のエースFW高井和馬だ。昨季J2では、全42試合に出場し、11ゴールとプロ入り後、最高の実績を残した。他クラブからのオファーもあったが、今季は山口残留を決断。目下、4-4-2でチーム構築中の渡邉晋新監督体制でも最大の得点源としてフル稼働するつもりだ。
「ナベさんとも話して、本当に必要としてくれたので『また山口でやろう』と覚悟を決めて今季に挑んでいます。J1昇格するチームには絶対的エースがいる。僕自身も15~20点を取れる選手にならないといけない。そのチャンスは来ているので、全部決められれば達成できると思います。ただ、僕はゴールだけにはこだわっていない。アシストも同じ価値だと思っているので、それを意識して上のレベルに行きたい」と本人も士気を高めている。
今季J2は4チームが降格。昨季のような低迷は許されない。チーム浮沈のカギを握るのはやはりこの男しかいない。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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