淡々黙々。 / 内田篤人 【本】
J1リーグの31節を終えて、優勝争いはFC東京、横浜、鹿島、川崎の4チームに絞られた。このまま首位のFC東京が逃げ切るのか、それとも……。過去の実績、今後のスケジュールなどを判断材料に、今後の注目ポイントを探った。
■らしくない敗戦の鹿島は次節の広島戦を落とすと……
2019年10月26日、川崎が札幌をPK戦の末に下したルヴァンカップ決勝のあと、ミックスゾーンで囲み取材に応じた中村憲剛(川崎)は興味深いコメントをした。「こういう大会で鹿島が決勝に進んだ時、メディアの皆さんは『鹿島が決勝で勝つ』みたいな空気感を作りますよね。鹿島かあ、なら優勝かあ、みたいな。少なくとも、こっちはそういうのを感じるんですよ」。
鹿島は昨季に20冠(J1、リーグカップ、天皇杯、ACLを合わせたタイトル獲得総数)を達成。「常勝軍団」とも言われており、中村のコメントには頷ける部分がある。いわゆる〝伝統の力”は今回のタイトルレースを展望するうえで無視できないファクターだろう。
実際、勝負強さを痛感させられたのが16年シーズンのチャンピオンシップ(ファーストステージ覇者として参戦)。準決勝で年間勝点2位の川崎を1対0で、決勝では同勝点1位の浦和を2試合トータル2対2、アウェーゴールの差でいずれも破り、同勝点3位から"逆転"でJ1王者に輝いた戦いぶりは「さすが鹿島」と称賛できるものだった。
しかし、本当に「常勝軍団」なのだろうか。翌17年シーズンは勝てばリーグ優勝が決まる柏とのホームゲーム(33節)に続き、磐田とのアウェーゲーム(最終節)もスコアレスドロー。その結果、同勝点の川崎に得失点差で上回られて2位に後退した。一時は4冠の可能性があった今季もルヴァンカップの準決勝で川崎に、ACLの準々決勝で広州恒大(中国)に敗れている。
確かに負傷者続出というアクシデントはあった。しかも離脱したのは、レオ・シルバ、三竿健斗、セルジーニョ、伊藤翔など主力ばかり。これでは苦戦して当たり前との見方もできるが、ただ、彼らが復帰してもどこか決め手に欠ける印象だ。
実際、J1リーグ・31節のホームゲームでは昨季王者の川崎に0対2と敗れた。後半途中までペースを握りながらもチャンスをモノにできず、セットプレーとカウンターから失点。覇権争いを左右するビッグマッチで試合巧者ぶりを見せつけられて白星を献上するとは、なんとも鹿島らしくない。
もちろん逆転優勝の可能性は残されているものの、さすがに次節の広島戦まで落とすと窮地に追い込まれる。いわば生きるか死ぬかの状況で"伝統の力"を発揮できるか。鹿島の真価が問われる試合になりそうだ。
その鹿島から勝点3を奪ってリーグ3連覇へ望みをつないだ川崎は、ルヴァンカップ初制覇(決勝は札幌に3対3、PK戦の末に勝利)をきっかけに復調している。30節の広島戦で左膝の前十字靭帯を負傷した中村憲剛のために――と、チームは一致団結しており、ここにきて勝負強さも出てきた。さすがは2連覇中のリーグ王者と唸ってしまうほどの粘り腰で、ここ数試合の戦いぶりには素直に拍手を送りたい。
しかし――。上位3チームよりも消化試合がひとつ多く(32節先行分では浦和に2対0と勝利)、首位のFC東京とは勝点5差で、2位の横浜とも勝点4差。次節、FC東京か横浜のどちらかが勝利した時点でリーグ3連覇の夢は潰えるわけで、厳しい状況は変わらない。ここから逆転するには……、奇跡を信じる以外にないか。現実的な目標はどちらかと言えばACLの出場権獲得(3位以内)だろう。
■最終節までもつれるとして勝者を予想するなら――
ここまでの勝点と勢い、この2点から判断するかぎり、優位なのはやはり上位2チームだ。
ラグビーワールドカップ開催の関係でホームの味の素スタジアムを使えず、アウェー8連戦を強いられたFC東京は結局、その8連戦を4勝2分2敗と勝ち越した。28節、鳥栖に逆転負けを喫して首位から陥落した際は不穏な空気も漂ったが、その後、神戸、大分、磐田を破ってリーグ3連勝。8連戦ラストの磐田戦ではエースのディエゴ・オリヴェイラに5試合ぶりのゴールが生まれるなど"良い風が吹いている"。
なにより、首位に再浮上してアウェー8連戦を締め括れたのは大きい。次節は約3か月ぶりのホームゲーム。今の勢いを持ってすれば、そこで湘南に負けるとは考えにくい。
というのも、曺貴裁監督のパワハラ問題に揺れた湘南は、リーグ戦で6連敗中。スコアを見ても、大分に1対2(26節)、清水に0対6(27節)、川崎に0対5(28節)、横浜に1対3(29節)、G大阪に0対3(30節)、そしてC大阪には0対1(31節)と惨憺たる結果(この6試合での総得点が2、総失点は20)で、ポジティブな要素がほとんど見当たらないのだ。
文字通り絶不調の湘南を相手に取りこぼすようなら、所詮、FC東京の実力はそこまでということだろう。油断は禁物だが、普段通り戦えればそう苦労せずに勝利できるはずだ。むしろ焦点は33節の浦和戦だろう。
FC東京は浦和を"大"の苦手としている。13年9月14日のリーグ戦(会場は国立競技場)を最後にカップ戦も含め13戦白星なし。味の素スタジアムでの勝利は、04年9月23日(J1リーグ第2ステージ6節)まで遡らなければならないのだから、まさに巨大な壁である。
ホーム最終戦というシチュエーションで、難敵から勝点3を奪取できるか。今季最大の見せ場のひとつが、この浦和戦になる。
FC東京をピタリと追走する形で2位に浮上してきた横浜は目下絶好調。30節の鳥栖戦、31節の札幌戦はいずれも早い時間帯に2点を先行して主導権を一気に手繰り寄せている。ポゼッション志向の強いアンジェ・ポステコグルー監督の下、持ち前の攻撃力を前面に押し出すサッカーは迫力満点で、なかでも10月のJ1リーグ月間MVPに輝いた仲川輝人の活躍は特筆に値するだろう。
躍動感溢れるアタックで札幌の守備網を切り裂いた勢いを見るかぎり、横浜は次節の松本戦でも爽快なアタッキングフットボールを展開してくれそうな期待感がある。鳥栖戦や札幌戦のように早い段階で先制できれば、あるいはワンサイドゲームになるかもしれない。いずれにしても、チームとして噛み合った時の守備力は侮れない松本を攻略するには"前半20分まで"がひとつの勝負所か。
続く川崎戦も含め、如何に自分たちのスタイルを貫けるかが鍵だろう。失点を恐れて守りを固めるようなら、おそらく横浜は自滅する。大事なのは、とことん攻め抜くスタンスだ。
首位のFC東京と2位の横浜が順調に勝点を積み上げれば、最終節の直接対決が"優勝決定戦"となる。ちなみに、鹿島はFC東京と横浜が32節から2連勝した時点で覇権争いから脱落。思いのほか鹿島は追い込まれているのである。
もっとも、次節、FC東京と横浜が揃って敗れ、鹿島が勝てば混戦を極める。そうなった場合、順位は以下のとおり。1位/鹿島(勝点62。得失点差でFC東京を上回る)、2位/FC東京(勝点62)、3位/横浜(勝点61)、4位/川崎(勝点57)となり、再び鹿島が主導権を握ることになる。このように、その節の結果次第で上位陣の順位が入れ替わる可能性はまだまだあるだけに、予断を許さない。
それでもあえて横浜×FC東京戦が優勝決定戦になるとして、勝者を予想するなら、FC東京になる。長谷川健太監督の下で磨かれたファストブレイク(速攻)は、高いラインを設定して攻め立てる横浜に対してかなり有効。実際、前回対戦では先制されながらも永井謙佑が軸のカウンターでゴールを重ねて4対2と快勝しているが、野暮な予想はさて置き――。ひとつ確かなのは、今季のJリーグが極上のエンターテイメントを提供しているということだ。
文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)
◆残り3節、4チームに絞られたJ1優勝争い。“勝者”を予想するなら…(サッカーダイジェスト)