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鹿島アントラーズ所属時にはクラブワールドカップでレアルマドリード相手に2点を決め世界最高峰の相手に鮮烈な印象を残すなど、中盤の選手として技術、判断力に優れる柴崎岳選手。
前編では、ご両親のかかわり方や幼少期から負けず嫌いだったこと、試合では考えている暇はないので練習で定着させる必要があることなどを伺いました。
後編では学生時代に身につけておくこと、海外生活で大事なことなどを語ってくれました。
(取材・文:松尾祐希)
■プロになれるのはほんの一握り。だからこそ学生時代に身につけておくべきこと
柴崎岳選手は青森山田高を卒業後、プロ世界へ足を踏み入れます。鹿島アントラーズでは1年目から出場機会を掴み、主軸として目覚ましい活躍を見せました。2年目にはナビスコカップ(現ルヴァンカップ)で最優秀選手に輝き、Jリーグでもベストヤングブレーヤー賞を受賞。2014年の9月には日本代表デビューを飾り、2016年にスペイン2部リーグのテネリフェに活躍の場を求めました。
プロの世界で着実にステップアップを果たしていった柴崎選手。幼い頃に培った質問する力と自分で判断して実行に移すバランス、挑戦する姿勢、礼儀作法などは夢を叶える上で欠かせないものでした。では、幼少期に何を学ぶべきなのでしょうか。柴崎選手が最も重要だと考えているのは、人としてのあり方です。
「高校サッカーはサッカーを通じて部活動の中で自身を高める場所ですが、本分は学生としてどうあるべきかです」
と断言します。
「黒田剛監督も今はサッカーの監督として有名ですが、本職は教師です。『教師として1人の人間をどう育てていくか』を一番に掲げています。そのことはサッカー部のスタッフも重々理解しているはずですし、選手も学生であることを忘れずに寮生活や学校生活を過ごすことが大切です。挨拶を含めた礼儀は社会に出ていく上で最低限持っておかないといけません。選手たちもそれを意識して取り組み、当たり前のこととして身に着けて欲しいですね。何故ならば、サッカー選手になれなかったとしても社会人として大事な事だからです。全ての人がサッカー選手になれるわけではなく、むしろなれない人がほとんどだということを忘れてはいけません」
プロサッカー選手になれるのはほんの一握り。多くの人が一般社会で生きていきます。人としてどうあるべきか――。しかし、挨拶、礼儀も含めた人としての振る舞いは大人になれば勝手に身に付くものではありません。だからこそ、柴崎選手は人間性を磨く重要性を強調します。
「サッカーを失ったら何も残らない。この状態は好ましくありません。高校を卒業して10年経ちますが、改めて大事な事だったと感じています。僕はサッカー以外を二の次にし、プロになるために幼い頃からやってきました。プロで活躍するため、海外でプレーするため。自分はプロ入り後を見据えて自分の目標ラインを置いていたのでプロになることはある種当たり前のことでした。自分はプロになることができましたが、先ほども言ったように全員がプロになれるわけではありません。子どもたちにとってサッカー以上にパーソナリティーの部分が大事なので、そこを意識しながら生活をしてもらいたいですね」
■海外生活で大事なのは周りに流されないこと
現在、柴崎選手は海外で生活をしています。日本で学んだ事がなければ、今はありません。ただ、異国での暮らしは困難が付き物です。具体的には何が一番違ったのでしょうか。
「海外に行って良かったと感じているのは、自分の基準を持つ事です。自分は周りに流されない性格なので、そこは良かったなと思います。人種も文化も過ごし方も言語も違います。その中で自分と周りの環境を考えながらバランスを取らないといけません。自分だけが快適でも不快であってもいけないので、周りとの関わり方が重要だと知りました。ただ、日本での礼儀や習慣は海外では必要なく、邪魔になることもあります。逆に学んだことが生きるところもありますが、そこは難しい部分ではありますね」
実際に柴崎選手もスペインで文化の違いを感じました。特に人々の気質は日本にないものだったそうです。
「スペインでは育成年代の試合を中継するのですが、幼い選手も試合後のインタビューに答えています。育成年代からそういう環境があることに驚きました。そういう環境があるので喋るスキルを身に付けられます。状況を説明して、自分が思っていることを話す。そこは日本と違う部分なのかなと思います。国民性も違いますし、スペイン人と比べると日本人は大人しい部類に入るかもしれません。チームの規模が大きいので各々がYouTubeチャンネルなどを持っており、育成年代まで情報伝達ができています。情報の量と質が揃っている。そのような環境があるからこそ、『子どもたちが育っていくんだな』と感じました」
語学も当然、海外でプレーをしたいと考えているなら日本にいるときから勉強しておくなどの準備はした方が良いですが、柴崎選手はそれだけではないと言います。
「語学はもちろんやっておいた方が良いですが、たとえ言葉が完璧に通じなくても理解しあうことはできます。そのためには、相手の発言をよく聞きその意図を理解すること、そして自分の意見を伝えるという、言葉以前の要素が大事だと思います」
と、海外で生活したことで実感したコミュニケーションの基本の大切さを語ってくれました。
■自分のプレーを見て憧れを持ってもらう
そうした積み重ねが今の柴崎選手を支えています。現在28歳。現役を退くのはまだまだ先かもしれませんが、今後はどのような形でサッカーに関わっていくのでしょうか。最後に柴崎選手へ引退後のキャリアについて尋ねました。
「今が選手として一番いい時期。だからこそ、子どもたちに指導できていると思う時があります。プロサッカー選手としてプレーすることが、子どもたちの模範になるからです。自分を見て憧れを持ってもらう。これが一番の指導になるかもしれません。監督やコーチになった時に今と同じプレーを見せられる訳ではないからです。そして、引退後はどのような形か分かりませんが、子どもたちにサッカーを伝えていければいいなと思います。監督として指導に関わりたいという思いは少なからず持っているので、今もそういう目線で見ることもあります。指導者になった際は、自分が持っている経験を生かしながら、サッカー界に貢献できるようにやっていきたいですね」
サッカーを通じて1人の大人へと成長した柴崎選手。人間性を磨くことが自立へとつながり、子供たちの将来を豊かにしていくのではないでしょうか。