「上田(綺世)は天性のゴールスコアラー。足にボールが転がるたびに得点を奪う。その確率は50%以上、100%に近いかもしれない。彼はとても速く、ヘディングも両足のシュートもうまく、ゴールを確実に決める。我々にとって力強い新戦力だ。10月3日のアトレティコ・マドリード戦ではぜひ彼を使いたい」
フェイエノールトのアルネ・スロット監督がこう語った通り、大きな期待を背負う25歳の日本人FWは、いよいよチャンピオンズリーグの大舞台に踏み出すことになる。
アトレティコ戦は今シーズン、ここまで1トップでスタメンを張っていたメキシコ人FWサンティアゴ・ヒメネスが出場停止。上田の抜擢が有力視される。もちろんチームには複数のFWがいるが、前線で体を張ってターゲットになれるタイプはヒメネスと上田がしかいない。となれば、指揮官の判断は限られてくるはずだ。
まさに千載一遇のチャンスで上田がどんな仕事を見せるのか。最高峰の舞台でゴールという結果を残せるのか。この一戦は非常に重要なゲームになりそうだ。
上田は昨シーズン、セルクル・ブルージュでシーズン通算22ゴールを叩き出し、今夏にベルギーからオランダへのステップアップを果たした。フェイエノールトは、かつて小野伸二が大きな成功を収めたクラブ。とりわけ、2002年5月のUEFAカップ(ヨーロッパリーグ)決勝のドルトムント戦で、ヨン・ダール・トマソンの3点目をアシストした芸術的ループパスは、今も人々の脳裏に焼き付いて離れない。
その試合詳細を1998年生まれの上田本人はあまり詳しく知らない様子だったが、20年以上が経過しても語り継がれている小野の伝説を超える活躍は確かに求められている。本人も入団時に「小野伸二さんがここでプレーし、多くの成功を収めたことは知っています。だからこそ、僕も彼に続きたい」と語気を強めたのも、意欲の表れだろう。
そのためにも目に見える結果が求められるところ。ここまでの上田は8月13日、フォルトゥナ・シッタートとの開幕戦でデビューを飾り、そこからリーグ4戦連続途中出場。9月3日のユトレヒト戦では豪快な反転からの新天地初ゴールを決めている。
「チームのレベルがすごく高くなったので、もっとチャンスを作れると思いますし、現にもっとチャンスはあったので、まだまだやれるかなと思います。まだ先発で出ていないですけど、別に焦っているわけではなく、段階があると思うので。今、成長できるところを全部吸収して、使ってもらえるように準備している状態です」と本人は着実にステップを踏みながら新たな環境への適応を進めていることを明かしていた。
直後の9月9日の日本代表対ドイツ代表戦で値千金の2点目をゲット。FIFAワールドカップカタール2022では出場が叶わなかったドイツ戦に先発抜擢され、存在感を示したのだから、大きな成長を実感できたはず。
「カタールから半年以上経って、積み重ねてきたものもあるし、自分の中でも成長した部分は多くあると思う。点を取る感覚もそうだし、チームが変わって強度やプレースタイルも進化できているので、当時とは違う感覚、違う心境でプレーできると思います」と自信をのぞかせた通り、上田は一段階飛躍したことを実証したのである。
その後、左足負傷で代表を離脱。9月16日のヘーレンフェーン戦を欠場し、調整を続けていたが、9月24日のアヤックス戦ではベンチに復帰。この試合はアヤックスサポーターの発煙筒投入で途中中止というアクシデントに見舞われたが、55分から再開された27日のゲームには途中から出場。さらに30日のゴーアヘッド・イーグルス戦も77分からピッチに立ち、確実にコンディションを上げつつある模様だ。
「僕の武器はポジショニングとか動き出し。それを周りに伝えるというよりは、プレーヤーとして出したい動きをすれば、ボールは出てくると思うので。僕が伝えるとかではなく、試合の中で常にいいポジショニングを取り続けたらいいのかなと。抜け出すタイミングが鋭ければゴールに直結することが増えてくると思っています」
上田は代表期間にも話していたが、ドイツ戦の後、チームに戻ってからもそういった感覚を研ぎ澄ませること力を注いできたはず。それをしっかりとアトレティコ戦で発揮できれば、ゴールという形につながる可能性は高くなる。成長曲線を引き上げている今の彼なら見る者を驚かせるようなプレーがきっとできるはずだ。
「綺世のようなシュートのうまい選手は見たことがない。ああいう選手がどこまで行けるのかすごく楽しみ」と鹿島アントラーズの岩政大樹監督も以前語っていたが、今の上田は欧州最高峰レベルに到達する一歩手前まで来ている。今回のチャンピオンズリーグがキャリアの分岐点になるかもしれないだけに、彼の成功を信じて見守りたい。
取材・文=元川悦子
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