鹿島アントラーズのザーゴ監督が解任され、新監督にコーチでもあったクラブOBの相馬直樹が就任する。
朝のスポーツ紙のニュースから数時間後、クラブからも正式発表が行われた。時間をおかずトップチームの選手とスタッフに新型コロナウイルス感染者が出たことも発表され、4月14日水曜日の朝、鹿島アントラーズは大きく揺れた。
監督解任を決めたのは「4月11日の札幌戦後」
クラブが監督解任を決めたのは、4月11日の札幌戦後だったと鈴木FDが口にしたが、その火種は、2月27日、鹿島のJリーグ開幕戦となった清水戦からあったことも明かされた。後半30分、苦しみながら先制するものの同33分、38分、43分と失点を喫して1-3で敗れている。
「開幕戦の清水戦で、それなりにゲームをコントロールしながら、先制点をとった。残り15分間は、しっかり守り切らないといけなかった。でもそこから3点取られて負けたことで、チームの自信というか、ベースががたがたと崩れてしまった。この試合がチームのリズムを狂わせたと思う」と鈴木FDは話す。
第3節は勝利したし、ルヴァンカップでは大勝することもあった。ただリーグ戦では、第8節の柏戦ででの勝利を合わせて2勝しか挙げられなかった。2勝2分4敗という成績でザーゴは鹿島を去ることになる。
準備期間がないなかでスタートした昨季もスタートで躓いている。しかし、今年は違う。
「コロナの影響で外国人選手の入国が遅れたり、未だ合流できない選手もいる。そこは気の毒だったとは思う。昨季で培ったベースに上乗せして優勝を目指せると考えていたが、開幕戦の敗戦から自信を無くし、やることが徹底できなかったように感じる。それを引きずって、なかなか立ち直れない、立て直せないというのも大きかった。
同時に、ザーゴ監督の選手に対する評価に迷いが多少あったのかなという気がしている。メンバーも入れ替わりたち替わりで、誰がベースになり、そこに誰が挑戦していくのかというポジション競争も作りきれていなかった」
結果だけじゃない「ザーゴ解任」決断の理由
鹿島アントラーズの練習場へ行くと、決まって目にするのが、トップチームのトレーニングをグラウンド脇のベンチで、静かに見守るジーコテクニカルダイレクターの姿であり、その横には同じようにベンチに座り、トレーニングを見ている鈴木FDの姿だ。
そうやって、「生き物」であるチームの機微を観察し、そこで行われていること、その場の空気をくみ取っているのだろう。そのうえで、常に監督との意見交換を継続して行ってきた(もちろんこれはザーゴ監督に限らない)。勝負の場における勝敗をはじめとしたデータはもちろん重要だが、今回の解任判断はそれだけが理由ではないのだろうと思えるのは、そんな練習場での光景を思い出すからだ。だからこそ、鈴木FDは「練習の強度が高い」と昨季の勝てなかった時期もザーゴ監督の手腕にチームを託す決断をしている。
そんななか、会見で「球際で勝負できず、内容もよくなかったですし、『これではな』という想いを強くした試合」と鈴木FDが振り返ったのは、4月3日の第7節浦和戦(1-2)だった。続く2試合を思い出してみても、試合の結果だけでなく、チームの空気に「改善の兆し」が感じられないと判断しての監督交代だったのだろうと思う。
4月7日の第8節柏戦(2-1)も勝利はしたものの、内容は惨憺たるものであった。得点後の失点や縦パスでのボールロストも頻発した。選手たちの背中から感じたのは、余裕の無さや慌てた様子だった。同じ勝てない状況であった昨季とは、また別の風景だ。新しいスタイルを消化し、表現するために多少の息苦しさを抱えつつも、進化することへの意気込みや前向きさが漂っていたが、今季のプレーにはそれが希薄だったように思っていた。
クラブが監督解任を決めたという札幌戦も、「ワイドから攻撃を仕掛けてくる相手への対策として、ボランチにDFラインへ入るよう指示した」とザーゴは語っていたが、結果的に見れば、それが災いしたのか、DFラインが下がり、押し込まれ、PKを与えてしまい、2-2と追いつかれた。
「誰が見てもPKではなかった。非常に残念だ」と指揮官が繰り返したのも印象的だった。
昨年、「ACL出場を逃し泣き崩れる選手たち…『基礎を残して新築』の2020年鹿島に“足りなかったもの”は?」で、「過去の鹿島は常に選手ファーストのチームだったと思う。指揮官は、型を整えたり、選手たちのモチベーションを維持するのに長けたタイプが多かった。もちろん日々、選手のスキルを磨く場も指揮官が用意していたものの、ゲーム上の機微を左右するのは選手自身だった」と書いた。「(今は)『勝負強さ』を表現する選手が減り、戦術ファーストというチーム作りが急務だと考えて『新築』を決行したに違いない」と。
これは過去の鹿島が指揮官を軽んじてきたということではない。いくら選手ファーストといっても、指揮官の存在は非常に大きいし、選手ファーストだからこそ、監督の役割は多岐にわたるのかもしれない。
「試合の主導権を握るサッカーを」
鈴木FDはザーゴ監督就任時にそんなふうに話していた。
サッカーは相手のあるスポーツだから、他者との差が歴然としていれば、自然とこちらがゲームの主導権は握れる。それはボールのポゼッション率として現れることもあるが、目には見えないものも少なくない。
2020年ACLプレーオフの敗戦。ボールを持ってはいたけれど、ゲームの主導権は明らかに相手にあった。パスを繋げているのは、圧倒しているからでなく、持たされているというような展開で、相手よりも力量がありながらも「自分たちのスタイルはできているのに勝てなかった」そんな痛く、大きな敗戦で、ザーゴアントラーズは始まったことを今思い出す。
前線からのプレッシング、コンパクトな陣形で細かいパス交換でビルドアップしながら、攻めていく。ザーゴのビジョンは道半ばで終わりを迎えることになった。
「鹿島は自分のサッカーを表現し、進化させ続ける場所でしたか?」
鹿島で指揮をとっていた元監督に 以前、そう質問したことがある。
彼ははっきりと「NO」と答えた。「まずは勝利しなければならない。だから、理想をすべて追い求め続けられるわけではないよね」と。
たとえば、「前からアグレッシブな守備で戦う」と指揮官が掲げ、開幕を迎えたシーズンがあった。けれど、開幕戦でそれがうまく行かず敗れると、「前からではなく、少し引いてブロックを作る選択肢も取り入れなくちゃいけない」という微調整がチーム内、選手間でなされ、結果、勝ちを積み重ねたこともある。
「(自分たちから)アクションを起こせるようにしたい」
「ゲームの主導権を握るというのは、相馬監督にとってどういうことですか? それはボールポゼッションと関係ありましたか?」
オンライン会見に臨んだ相馬新監督に、観念的でもあり、簡単に答えられるものではないと想像しながらも、どうしても質問してみたかったのだ。
「まあ、難しいですよね、正直。ボールを持っていても主導権がないときがあるし。ただ自分たちがアグレッシブにできているのかが大事かなと。ボールを持っているのか、もたらされているのか、そういうことになるのかなと単純に思います。全体的にいえば、『勝たなくちゃいけない』『勝ちに近づかないといけない』ということ。見ているお客さん、応援してくれる人たちがそう感じられるか。言葉が難しいですが、逃げるというのではなく、いろんな意味でアクションを起こせるようにしたい。もちろんそれは理想だと思います。実際はリアクションが必要なときもあると思いますけど」
ここで思ったのは、「逃げる」というのは、消極的な姿勢を指すのかもしれない、ということだ。つまり、消極的な姿勢や戦い方を否定しているのだろう。一般的に「アグレッシブ」、「アクションを起こす」ことが積極的で、「リアクションすること」は消極的だと見られる。ただ、“積極的にリアクションを選ぶ”ことも、勝利のためには必要ではないだろうか。
今回のオンライン会見でも「鹿島らしさ」について、何度か質問が飛んだ。会見冒頭に監督就任にあたっての気持ちを聞かれた相馬監督が、クビを何度もひねり、言葉を選びながらゆっくりと答えたのが印象的だった。でも、だからこそ、彼のこの任に対する覚悟が伝わってきた。
「もう一度、強い……そうですね。強いアントラーズを取り戻す。クラブが前へ進んでいくためにも、非常に重い責任だと思っていますけれど。自分が大事に思っているこの鹿島を前へ進めるために力になれればと思っています。すみません。全然整理できなくて」
そして、「強いアントラーズとは?」と問われる。
「その言葉が、ひとり歩きしてしまうのもよくないと思っています。『ジーコスピリット、誠実、尊重、堅実』。順番に自信がありませんが(笑)。これだけじゃないけれど、ここなんじゃないかと。どちらかと言えば、(鹿島は)ものすごく派手に強いというよりは、地味に強いという感じになると思います。もちろん、良い選手、良いスタッフが揃っているけれど、みんながみんな揃って、謙虚に足元をしっかり見てやっている、そういう強さだったと思っています。
鹿島は『常勝』と言ってもらえるけれど、常に勝てるわけじゃないし、今の成績もあります。遡れば、92年ナビスコカップ決勝進出や93年のファーストステージ優勝は、それまで誰も想像していなかったことでした。だからこそ、いろんな意味で、ずっとチャレンジャーだったし、今もしっかり足元を見ながら、謙虚に、一番後ろから上がっていくという『チャレンジャー』という気持ちが大事だと思う」
相馬監督の言葉に、30年前の熱がよみがえる。日本リーグ2部に所属していた住金サッカー部がJリーグ入りできること自体が奇跡だったのかもしれない。そこからクラブの歴史はスタートした。そこからはじまった過去の実績にあぐらをかくのではなく、謙虚に実直に進むべきなのだ。
「サッカーの戦術がどんどん進化するなかでも、変わらず大事にしなくちゃいけないものがたくさんあると思っています。そのひとつがサッカーや勝負の本質をどれくらい選手たちやチームで共有できるか。そこをきちんと持たないと、それ以外のものをくっつけても、役に立たない。それが揃ったうえで、いろんな新しいことを付け足すようなことがあったりすると思います。でも、(戦術などについて)話しすぎると自分がやることを狭めてしまいそうなので、あまり話さないほうがいいと思っています」
最後にそう言って会見を終えた。たとえ自身の言葉であっても、それに縛られて、戦術の選択肢を狭められてしまうことを懸念する相馬監督。そこに「目的(勝利)のための手段はひとつではない」という鹿島らしさの一面を見た。
硬派で硬質なイメージもまた「鹿島らしさ」だが、実は彼らが大切にしているもののひとつに「臨機応変さ」がある。それが功を奏するのは、ブレない軸があるからこそ。相馬監督の言葉に、それを再認識できた。
国内無冠が続くのは、クラブ史上最長の4年となった。クラブ創設30周年を迎える今季に、そのワースト記録を伸ばしたくはない。だからこその早い段階での監督交代という決断に至ったのだろう。
未来はわからない。それでも、現状に甘んじてはいられない。止まっているわけにはいかないのだ。
30年間、変革を起こし、進化し続けてきた鹿島アントラーズらしい決断だと思えた。
◆なぜ“いま”決断したのか? ザーゴ解任でOB相馬直樹が就任…監督交代に見る「2つの“鹿島らしさ”」とは(Number)